●先進施設視察見学会(東京デリカフーズ(株)FSセンター)報告●
【見学目的】
食の外部化の進行に伴い、カット青果物の生産は急速に伸び、現在の市場規模は1,000 〜1,500億円(推定値)と推定されています。この重要な食品素材の製造現場を見学し、製品を試食することによりカット野菜の現状、製造上の問題点、今後の課題等について見識を深めたいと思います。また、カット青果物事業者が実施する野菜の消費拡大を目指した野菜の機能性研究についてご講義をいただき、実際にカット野菜の試食をしていただきます。
【日時】
平成23年2月18日(金)(現地集合・現地解散) 13:30〜16:00
【場所】
東京デリカフーズ株式会社東京FSセンター(野菜カット工場)
東京都足立区六町4-12-12 (つくばエクスプレス六町駅下車徒歩7分)
【参加者】
28名(会員限定・定員枠、欠席4) (種苗・青果流通、調理・生産者・一般ほか)
【担当理事】
吉岡 宏
<報告・要旨>
 東京デリカフーズ(株)経営企画室長有井雅幸氏より同社の案内と野菜の機能性について講演いただいた。氏は薬学博士で野菜ソムリエ、食生活アドバイザーの資格もお持ちである。

1. デリカフーズグループの概要

 デリカフーズ株式会社、東京、名古屋、大阪デリカフーズ(株)、デザイナーフーズ(株)、(株)メディカル青果物研究所からなる。
 東京デリカフーズFSセンターは2010年6月に竹の塚から六町に移転し、内外の白壁が清潔でまぶしい。1Fは物流関係で産地からの野菜入荷と外食・中食約300法人に野菜を供給している。2Fはカット工場で、野菜の洗浄・下処理からカット、洗浄冷蔵、脱水、袋計量・脱気、出荷までの工程を行う。3Fは事務所と会議室、野菜分析室・菌検査室となっている。
 同社は50〜60団体の国内生産者と契約し、FSセンターに青果物を集め、加工して、ファミリーレストラン、居酒屋、ハンバーガー店、病院、デパート地下野菜売り場など外食、中食業者に販売している。野菜の供給量は東京デリカ全体で80t/日で、FSセンターだけで30t/日で、年間取扱量約1.2万トンに及ぶ。


東京デリカフーズ株式会社
東京FSセンター(野菜カット工場)


 生産地から消費者に届くまで、10℃以下のコールドチェーンシステムで野菜の鮮度を保っている。ちなみに群馬のレタス生産地で朝4時に収穫されたものは当日の夜食、遅くても翌日の昼食までには食卓に届けることができる能力がある。

 同社グループのコンセプトは「食の安全性や高齢化などが社会問題」となり、「健康面から食を見直す動き」が高まる中、「野菜の機能性に注目し、栄養情報を提供し、健康と野菜情報を売る新しいビジネス」で新しい顧客層の獲得を目指していることが特長である。具体的目標には非破壊装置を用いて、各産地の野菜品質を健康機能から分析し、たとえばより抗酸化力(=野菜力)が強い野菜(品種)には他より高付加価値を上乗せして、品質と価格を連動させる販売体系を取り入れている。これらにより「日本農業の活性化(生産意欲・所得の増大=500万円以上)」、「国民医療費の軽減」、「食料自給率の向上」、ひいては「地球環境の改善につながる」のではないか?。

2. 消費者ニーズ
  1. 外食する際に、あったらよいと思う料理(農水省平成15年度食料品モニター調査結果)によると、地域の産物、旬の食材を利用した(38%)、国産の食材を多く使った(16%)、有機野菜利用・健康志向(15%)、低カロリー(12.8%)・・・・・
  2. 生鮮食品購入時、消費者が知りたい情報(平成18年11月農水省消費安全局消費者調査)によると、収穫日、生産方法、薬剤、産地名、第三者による保証などが60-80%と上位で、次いで「栄養などの健康上の効果に係る情報」、「おいしさに直接かかわる情報」など(いずれも50%)がある。つまり野菜に「安全・安心」「おいしさ」「健康」を求めていることが解った。
3. 野菜の機能性
 生活習慣と疾患リスク(WHOテクニカルレポート2003)によれば高エネルギー食の多量摂取・ナトリウム高摂取・多量飲酒などによる肥満があり、食物繊維不足・定期的な運動不足が糖尿病や心疾患、がんのリスクを高めている。これらのリスクを下げるために野菜や果物の持っている抗酸化力(機能性)やビタミン(栄養素)などバランス良く摂取することが大切となろう。

【野菜の評価基準】

 外観評価 (形、色、光沢、汚れ、傷の有無、病害虫)       
 一次機能 (栄養的機能)
 二次機能 (味覚、香気、成分(糖度)などの感覚機能)
 三次機能 (抗酸化力、免疫力、解毒力などの生体調節機能) ←注目!

  1. 栄養素として ビタミンC、カロテン、葉酸、その他のビタミン、カリウム、カルシウム、鉄、その他のミネラル 
  2. おいしさ(嗜好性)として 色素、呈味成分(甘味、酸味、旨味)、テクスチャ
  3. 生体調節機能(機能性) 抗酸化力、免疫力、解毒力など。食物繊維、ポリフェノール、フラボノイド、ビタミンC,E、カロテノイドなど

【野菜や果物の機能性について】

 抗酸化力(体の老化を食い止める力、活性酸素を除去する力、脳梗塞の防止など)
     →ブルーベリー、キウイ、いちご、カボチャ、ほうれんそう等

 免疫力(体の異常を監視し体を守る、風邪の予防など)(上位TNF 3,500〜500 pg/ml)
     →レタス、白菜、小松菜、ブロッコリー、ほうれん草、ナス、キウイ、ピーマン等

 解毒力(体の中からいらない物を出す、二日酔いの改善など)
     →わさび、ニンニク、ショウガ、キャベツ、ブロッコリー等

 酵素力(全ての細胞の代謝に係わる)
     →メロン、パパイヤ、パインナップル、マンゴー等

 野菜・果物のビタミンC
     →パプリカ、ブロッコリー、パパイヤ、ナバナ、ピーマン、いちご、キウイ等

4. 抗酸化力について

●活性酸素発生を増やす要因
  ⇔老化、紫外線、ストレス、大気汚染、喫煙、飲酒、激しい運動
 ※活性酸素吸収能力(=抗酸化力を示す指標測定値として表す)
   0RAC値(Oxygen Radical Absorbance Capacity)
 ※ORAC値は水溶性ビタミンE量に換算して表示する。
 →米国内の市場⇔食品にORAC値を表示して流通。(例:紅茶、グレープジュースなど)

●抗酸化物質の事例 〜ポリフェノール〜
 抗酸化物質は酸素や日光などの自然界酸化ストレスから植物体を保護する。
 例)プロアントシアニジンは動脈硬化を予防し心臓病、癌の死亡率低下。アルツハイマー発症低下、食品の酸化防止、ヒトの有酸素運動による酸化ストレス予防効果その他多くの事例が報告されている。

 A.単量体
   1.フラボノイド
     フラボン     シソ種子抽出物
     フラボノ-ル   カカオ抽出物、そば抽出物
     フラバン     柑橘果皮抽出物
     アントシアニン グランベリー抽出物、ブルーベリー抽出物
     フラバノール  カテキン(緑茶抽出物)
   2. クロロゲン酸  コーヒー抽出物
   3. 没食子酸(GA) 
   4. エラグ酸    ザクロ抽出物


 B.多量体(重量体)
   1. プロアントシアニジン ブドウ種子抽出物、クランベリー抽出物
   2. エラグタンニン 甜茶抽出物、ユーカリ抽出物、グアバ抽出物
   3. ガロタンニン
   
●野菜の成分分析結果
 時期別、産地別の日本の野菜の平均値をつかむ。全ての青果についてビタミンなどの栄養素ばかりでなく、抗酸化・免疫の数値を独自に計測して、販売価格に反映する。
 例)ほうれんそう・・・・・冬期のほうれんそうは夏期よりも抗酸化値が8倍にもなる。
  
●野菜の成分と土壌・栽培技術との関係
 野菜の成分は産地の気候・風土、圃場の作型、土壌(土作り)および栽培技術等により変化し、常に一定ではなく品質的に不揃いになりがちである。旬の時期はおいしさ、栄養素、機能性に優れるが生産量が多く一過性で価格が低迷する。そこで産地リレー(旬のリレー)によって、高品質野菜の供給が維持され、また分析情報を生産者に提供することで、高品質野菜生産への取り組み意欲が高まると思われる。

5. 野菜の消費拡大について
 デリカスコア「=独自な野菜の評価基準」を作り、野菜の持つ力を数値化し、野菜と健康作りの関連性を明らかにし野菜の新たな価値を創出する。実証実験中のものもある。 

 各項目10ポイント評価で合計評価。
・鮮度 ・外観 ・適温物流 ・※産地力 ・認証(GAP,JAS) ・栽培履歴 ・栽培技術 
・化学肥料使用率 ・化学農薬使用率 ・残留農薬 ・有害重金属(土壌、水) ・有害微生物(土壌、水) ・硝酸イオン ・抗酸化力(機能性) ・ビタミンC(栄養素) ・糖度(おいしさ)
※安定供給力、数量保証力、技術向上への取り組み、勤勉、誠実、後継者の有無

 これらデリカスコアを基盤としてIT技術を駆使し食マーケッティングを支援する。
 「食材の組みあわせ」「季節、旬、産地の特長を生かす」「調理方法の組みあわせ」「単品メニューセットメニュー定食などの組みあわせ」の提案。
 ⇔抗酸化力と免疫力などでおいしいメニューにエビデンス(証明、記録)をつけ
 ⇔より機能性の高いメニュー作りを目標にしている。

 Farm To Wellness倶楽部(会員WEBサイトhttp://fw-club.jp/)は会員の生産者をはじめとして「デリカスコア」を産地導入することで、本当においしい「旬の国産野菜」を一般消費者(ベジマルシェ等において)や実需者(外食、中食産業、スーパー、食品メーカーなど)、流通業者、医師、栄養士、研究者等に対して啓蒙しながら直接・間接的に国産野菜の消費を拡大したいと努力している。
 野菜・果物で320品目以上を扱い、そのうち80%以上は国産、果物など20%は輸入(熱帯果樹、葱、ニンニクなど)、できるだけ国産農産物の供給にこだわっている。

6. カット工場見学と分析室見学
 見学者用の衣類を身につけ、専用通路から説明を受ける。野菜が洗浄、脱水、カット、計量袋詰めされていく状態が見学できた。特長として、野菜の洗浄は水(水道水)であることと、室内温度は年間10℃、菌の侵入防止のため室内は陽圧である。カット出荷部門は3交代制(50名×3交替)とのことであった。研究室は通常勤務でクリーンルーム併設、野菜の成分分析・測定や広報データーまとめ解析。
7. カット野菜の試食
 メニュー開発 山口さん説明

 【A】工場カット製品 
 【B】キッチン手作り(縦に千切り) 
  +【⇔生とドレッシング4種】
 で食べ比べた。

 食感・テクスチュア・素材の香り・ドレッシングの絡み等・・・・・各自評価


食べ比べ

参考資料 (独)農畜産業振興機構 http://www.alic.go.jp/y-suishin/yajukyu01_000047.html

(報告 事務局 真柄 佐弘)

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