●会員による会員のための親睦・勉強会 第3回目●
日時:2006年1月10日 場所:築地・朝日エル会議室
題名:「食べ比べの調理を担当して」 講師:荒井慶子氏
講師は当フォーラムの副理事長であり、長年、江澤正平氏が提唱する野菜の食べ比べの現場の調理を担ってきた。

女子栄養大学で西洋料理を教えていた料理のベテランであるが、食べ比べとなるとまた別の気遣い、工夫が数々あったはずである。とかく裏方になりがちな現場の貴重な体験を語っていただいた。

講師が、江澤氏と二人三脚で野菜の食べ比べに関わるようになった経緯には、女子栄養大学の故・上田フサ先生の存在が大きかった。
1980年当時、江澤氏が野菜がまずくなっている現状から野菜の味の勉強をしたいと発起し、上田先生に出会ったことにさかのぼる。先生の後輩として勉強会を手伝い、さらには引き継ぐ形で今日に至った。

「野菜は食べ比べられていないので、本当の味を知る人が少ない」という江澤氏の思い、「野菜のもつ特徴をどう生かすか、常にベロ(舌)メーターを鍛えること。おいしさは人間の感覚だから、数字でははかりきれない」という上田先生の教えを肝に銘じながら、調理を担当してきた。勉強会は上田先生の部屋で他の門下生と共に8年、さらに外部の調理室を借り、他大学の栄養士や料理研究家、ジャーナリストなどと、「識菜会」(野菜を識る会)と名付けて12年余り続いた。品種、産地、栽培方法、収穫時期、収穫後の温度管理などによって変わる野菜。食べ比べて味見をし、まとめるという作業を通して、大変貴重な体験ができたと振り返る。

例えば、きちんと食べ比べるには、4種類が限度。また、野菜を食べ比べる際、当初は料理にして比べたので味が濃かったが、素材そのものの味を知るにはギリギリの薄味にしたほうがよいと、その調味を探った。煮物なら、塩分はふつう1.2〜1.3%だが、食べ比べでは0.9〜1%というように。砂糖はせいぜい3%。野菜のアクについては、興味深い経験があった。
ほうれんそうをゆでる際、熱湯に入れて再沸騰まで20秒程度かかる水の量でゆでるとほどよくアクが抜けるが、大鍋でずっとグラグラしているままでゆでるとアクは抜けず、水に放っても抜けない。アクの少ない野菜も、ゆでる水の量はむずかしく、アスパラガスやブロッコリーなどはむしろ少量の水で蒸しゆでしたほうがおいしい。一度出てしまった野菜のうま味はもどらないので、少量の水でゆで、足りなくなったら西洋料理で追汁(ついじゅう)というように、後で足すくらいのほうがよい場合も多い等々。

この回では、講師がかねてからの懸案を出席者の味覚を借りて確認したいと、実際に食べ比べが2つ行われた。まずは、ほうれんそうのおひたし、続いて大根の煮物である。
  ほうれんそうは、そのままゆでたものと、塩分0.5%でゆでたもの。いろいろな意見が出て、塩入りのほうがアクが少ない意見もあったが、むしろ個体差のほうが大きいという方向になった。差がそれほどないなら、塩を入れずにゆでてもよさそうだ。
  大根は、下ゆでした後、塩、しょうゆ、砂糖、みりんを合わせた調味料で煮たものと、調味料を時間差をつけて加えて煮たものとの比較である。これは、見た目で煮汁の染みこみ具合も、味もはっきり違う。だいこんの特性を知るには前者、料理としてのだいこんの煮物のおいしさを比較するなら後者の方法が望ましいことがわかった。
  食べ比べでは、できるだけ同じ条件にするために細心の気遣いをしなければならない。講師と共に調理に携わる会員の「料理はある意味ではごまかしがきくが、食べ比べはそうはいかないきびしさがある。いつも頭の下がる思いで手伝っている」という言葉を一同で重く受けとめた。

(文責 脇ひでみ)

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