●「有名野菜品種(ニンジン・カボチャ)特性研究会」報告●
担当理事  栗山 尚志
【開催日時】 平成18年10月12日(木)13:00〜17:00
【開催場所】 女子栄養大学駒込校舎、松柏軒
【参 加 者】 108名 (実需者約60%、生産者、農協、研究・教育関係、育種関係、報道、一般等)
【企  画】 栗山 尚志(野菜と文化のフォーラム理事・顧問)
【総合司会】 荻原 佐太郎(野菜と文化のフォーラム理事・顧問)
開催の目的
主要野菜のおいしさに係る諸問題の解明と優良品種の探索を目的として、今回は国産のニンジンとカボチャの数品種について品質・食味・生産性について検討し、消費の拡大を図る。併せて、「野菜のブランド化推進調査事業」における食味評価法に関する研究資料を得ようとした。
対象野菜に関する話題提供
1.「ニンジン」
 講師 川城 英夫氏(千葉県農業総合研究センター北総園芸研究所、東総野菜研究室 室長)
ニンジンの生産の現状、品種と作型、流通上の問題、栄養と機能性および今後の育種について詳述された。
ニンジンの生産は輸入の増加もあって、作付面積、生産量ともにやや減少傾向にあるものの、品種改良や栽培技術の向上により、単位面積当たりの収量・品質は向上している。
また、輸送技術の確立により遠隔地の生産が増加し、暖地の春夏どり、寒高冷地の夏秋どり、暖地の秋冬どりの作型が成立して全国的に産地化し周年供給される。
現在、市場流通する品種の多くは「向陽二号」に代表される五寸系ニンジンになっているが、さらに良食味・高カロテン含量を目指した高品質を目標とする育種が行われている。
ニンジンの品質・栄養・機能性は栽培環境に支配されるので品種特性と共に適地・適作型での生産が重要であることが示唆された。
2.「カボチャ」
 講師 五十嵐 勇氏((株)武蔵野種苗園、元農水省野菜茶業試験場上席研究官)
カボチャの品種分類、生産の変遷と作型、流通上の問題、栄養成分および今後の育種についての研究内容を含め解説された。
カボチャには大別して3種があるが、わが国の現状は完熟どりの「洋種カボチャ」が主体で、かっての「日本カボチャ」はきわめて少ない。一方未熟どりする「ペポカボチャ」はズッキーニーの消費が伸びている。
洋種カボチャの主要な作型は、温暖地の春夏どりと北海道などの寒冷地の夏秋どりで、冬期間は南半球からの大量輸入により消費は通年化している。一般的な嗜好性からより強粉質なものが求められているが、洋種カボチャはそもそもが寒冷地向きの品種であるため、より安定した良質生産のためには今後、耐暑性・耐乾性・耐病性(特にウイルス病の抵抗性)が重要であると指摘された。
カボチャは貯蔵・輸送性の高いものであるが、貯蔵中における果実成分の変化が食味に影響するので「貯蔵条件」や「食べ頃」についての検討も必要である。
(講演要旨まとめ 荻原 佐太郎)
供試ニンジン・カボチャの産地情報・品種名
今回の研究会ではニンジンとカボチャを取りあげ、開催時期に合わせ主要な出荷期を迎える北海道産に限定しました。北海道産地の今年の作期の気象はやや異常で、とりわけ太平洋沿岸地域は不良環境に推移したとのことで、供試材料の出品には気苦労が多かったことと推察します。
表1 ニンジン・カボチャ 評価に供した品種と北海道生産地名
a ニンジン
b カボチャ
ベーター312
(北見)
イーテイ<収穫直後>
(南幌)
T460
(長沼)
イーテイ<貯蔵物>
(壮瞥)
千浜五寸
(小清水)
味皇
(北名寄)
紅よし
(旭川)
メルヘン
(和寒)
ダークホース
(士別)
表2 カボチャ収穫月日
品種
収穫日
10月2日
9月4日
9月11日
9月下旬
9月25日
 
 
食べ比べ評価
カボチャは収穫後品質の経時的変化が見られることから、1品種に限り「収穫後日数を異にする2種類」を出品いただいた。
また、ニンジンは「生」「和風」および「洋風」調理を行ったものの3種類を、カボチャは「蒸したもの」1種類を評価の対象としました。
<調理方法>
荒井慶子副理事長と女子栄養大学松柏軒宮田寛敬料理長との協議により、以下の方法を採用した。
(1)
ニンジン生 細い棒状  
(2)
ニンジン和風煮(薄味炊き)  
皮を剥き1〜1,2pの輪切りとし、半月形またはいちょう葉形としたものを鍋に入れ、材料の50%程度のだし汁で中弱火で約5分煮て、砂糖3%・酒5%を入れ、さらに5分煮た後、塩・薄口醤油ともに1%の塩分となるよう添加し、さらに5分煮含めてそのまま冷やした。
(3)
ニンジン洋風煮(グラッセ:つや煮)  
皮を剥き0.8〜1pの輪切りとし、半月形またはいちょう葉形としたものを鍋に入れ、ひたひた程度に水を入れて、塩0.5%,砂糖1.2%,無塩バター7%を加え、紙の落とし蓋をして15〜20分煮汁が無くなるまでを目安に煮込んだ。その後、残ったバターをあおってつや出しをしてできあがり。
(4)
カボチャの蒸し煮  
果内の種子を取り除き、果皮をつけたまま約2.5p角に切って蒸し器で適度に蒸し上げた。(調味料は添加せず)
食べ比べ評価とりまとめの概要
評価とりまとめの概要は以下に報告します。食べ比べ評価にご協力いただいた各位ならびに食べ比べ材料を提供下さった種苗会社に謝意を表し、厚くお礼申し上げます。
<評価の方法>
  1. 各種主要形質を優・良・不良の3段階で評価し、評価表の該当箇所に○印を付けてもらった。
  2. 各品種の評価順位を、食味および全特性を対象に、ニンジンでは1〜4 カボチャでは1〜5を付けてもらった。
  3. ニンジン・カボチャともに糖度を測定し、評価終了後に発表した。糖度の測定は千葉県農総研センター川城英夫氏に委託した。
<まとめの方法>
  1. 各形質の3段階評価の指数化〜優:100 良:60 不良:20として各特性の指数化した評価者数値の合計を評価者数で割り、各特性の品種評価指数とした。
  2. 品種評価の順位の指数化〜1位を100,最下位を20として各順位を按分指数化した。従って1、2とも計算された数値は絶対的な物ではなく、品種間比較の参考値となるものである。
  3. 注目される数値は太文字カラー強調とした。
<結果の要約>
今回食べ比べに供したニンジン・カボチャの各品種は形質による特性の差異が明らかに認められるものの、特に低い評価のものはほとんど無く、平均評価は各品種とも高水準にあるとして良いと思われる。
a.ニンジン
  1. 「生」の色彩は品種A,Bの評価が高かった。調理により評価の高まる例が認められた。
  2. 「生」の甘みは糖度測定値との整合性がある程度認められ、Cの評価が高かった。
  3. 「うまみ」は生に比べ、和・洋とも調理により評価が高まる傾向にあった。
  4. 「食味の全体評価」「全特性の総合評価」は全体としてA,Bの評価が高かった。
  5. 性別との関係は、生の歯切れ・和洋調理物・食味全体・全特性総合の各評価で、品種によっては男女の評価に差が認められた。
  6. 年齢との関係をみると、品種・形質によっては40〜59才がその他の年齢層と差があるものがかなり認められた。
  7. 専門家(食味・成分・調理・それらの教育に係る業務の経験者)と一般職歴の方との比較では、専門家の評価の高い形質・品種が認められた。

1)ニンジン男女別食味評価
調理
区分
有効
回答数
色彩
香り
歯切れ
肉質
甘み
うまみ
男性
50〜53
74
79
62
63
67
63
66
68
67
66
59
70
65
69
62
63
64
59
68
61
71
62
63
62
女性
30〜36
79
80
62
64
65
67
63
56
75
73
62
71
62
61
66
74
62
73
71
69
60
66
76
69
※総数
97〜106
76
78
61
67
67
64
68
64
72
68
61
70
66
66
52
67
65
65
68
65
67
64
66
68
調理
区分
有効
回答数
色彩
香り
肉質
うまみ
和風煮
男性
51〜53
68
76
71
51
58
65
66
66
65
65
68
62
64
71
71
62
女性
31〜34
78
65
66
71
66
52
62
62
71
69
74
61
59
81
77
64
※総数
99〜106
73
73
74
58
62
62
66
66
66
69
71
63
61
75
72
64
調理
区分
有効
回答数
色彩
香り
肉質
うまみ
洋風煮
男性
49〜51
78
79
72
61
70
68
70
58
58
62
70
69
81
76
74
74
女性
31〜35
75
68
68
70
72
67
66
64
71
64
69
69
70
65
74
66
※総数
96〜103
73
75
71
66
70
67
67
60
65
66
68
69
77
72
72
69
 
区分
有効
回答数
和風煮物
洋風煮物
 
 
生・和風・洋風
3種混合
食味の
全体評価
男性
46〜50
66
59
62
51
58
69
62
56
71
72
62
59
69
70
56
52
女性
31〜34
57
68
60
57
52
60
70
48
59
64
70
51
53
61
68
49
※総数
92〜99
64
62
62
54
57
68
64
53
69
70
67
58
63
69
58
53
全特性の
総合評価
男性
42〜46
64
65
64
56
58
70
57
60
68
73
55
52
70
75
53
59
女性
28〜33
55
69
65
59
54
59
60
40
56
67
70
47
54
65
70
51
※総数
82〜93
64
55
64
56
59
65
57
54
65
69
57
47
59
70
57
57
注 ※総数は性別不詳者の評価回答を含む。(以下同)
2)ニンジン年齢別食味評価
調理
年齢別
有効
回答数
色彩
香り
歯切れ
肉質
甘み
うまみ
〜39才
21〜24
70
77
62
60
72
49
74
56
74
71
64
58
70
56
62
62
63
55
68
58
63
53
57
53
40〜59才
45〜49
72
72
58
66
62
62
65
65
70
65
62
79
61
64
64
69
62
64
67
64
63
61
72
66
60才〜
17〜23
84
79
66
74
71
58
67
74
72
68
56
60
87
78
56
69
62
73
66
62
68
70
73
68
調理
年齢別
有効
回答数
色彩
香り
肉質
うまみ
和風煮
〜39才
23〜24
78
72
75
55
62
63
67
69
67
73
65
67
60
73
75
60
40〜59才
48〜49
68
66
67
58
61
64
62
60
63
64
58
58
58
74
69
67
60才〜
20〜23
73
81
79
58
66
70
64
74
73
73
68
64
70
74
72
60
調理
年齢別
有効
回答数
色彩
香り
肉質
うまみ
洋風煮
〜39才
23〜24
78
75
68
72
70
67
62
64
62
58
60
64
80
72
62
62
40〜59才
47〜48
75
74
72
65
68
66
71
66
74
66
62
69
68
69
79
73
60才〜
20〜24
88
77
75
64
72
72
68
68
78
69
72
70
78
74
73
72
 (ニンジン年齢別食味総合評価)
 
区分
有効
回答数
和風煮物
洋風煮物
 
 
生・和風・洋風
3種混合
食味の
全体評価
〜39才
21〜23
66
64
73
53
56
65
73
51
71
66
60
55
65
65
56
47
40〜59才
44〜46
60
60
56
57
57
67
59
55
66
67
62
57
58
66
62
53
60才〜
21〜23
65
74
51
51
62
67
58
41
67
77
66
59
71
69
55
47
全特性の
総合評価
〜39才
18〜20
57
65
66
55
60
65
69
51
69
63
59
53
62
66
55
52
40〜59才
43〜45
63
62
53
57
58
65
57
58
65
65
66
52
58
71
59
51
60才〜
17〜20
60
75
47
57
64
64
53
53
67
79
53
52
69
65
52
66
3)ニンジン経歴別食味評価
調理
区分
有効
回答数
色彩
香り
歯切れ
肉質
甘み
うまみ
専門家
27〜31
78
76
70
63
66
69
67
69
70
72
69
68
62
73
63
63
64
61
77
66
64
64
72
63
一般
64〜69
73
73
58
63
67
61
61
67
76
68
63
72
63
62
65
61
65
59
67
62
65
62
59
64
調理
区分
有効
回答数
色彩
香り
肉質
うまみ
和風煮
専門家
26〜30
77
68
74
67
63
67
67
68
70
68
82
72
66
80
80
60
一般
64〜69
70
64
71
69
61
65
63
68
63
68
66
61
58
71
66
65
調理
区分
有効
回答数
色彩
香り
肉質
うまみ
洋風煮
専門家
27〜31
80
76
76
74
69
68
65
63
74
67
67
64
66
75
71
60
一般
62〜66
78
70
73
64
72
72
68
65
74
66
66
72
79
70
75
74
 (ニンジン経歴別食味総合評価)
 
区分
有効
回答数
和風煮物
洋風煮物
 
 
生・和風・洋風
3種混合
食味の
全体評価
専門家
25〜26
54
70
73
49
52
71
69
45
54
72
71
57
54
76
70
41
一般
64〜67
69
66
57
58
61
68
67
59
72
71
59
61
68
65
56
58
全特性の
総合評価
専門家
23〜24
52
71
66
60
51
66
66
49
52
73
65
56
48
66
53
40
一般
59〜62
67
63
60
58
62
68
58
61
73
69
58
55
65
68
55
57
表3 ニンジンの糖度測定値(生)
品種
Brix.
8,0
8,9
8,8
7,5
 
b.カボチャ
  1. 各形質共通して概ねB,Dの評価が高かった。
  2. 性別・年齢別・職歴別の差は一部を除き殆ど認められなかった。
  3. 同一品種の貯蔵効果については、果肉色彩と果皮硬さを除き各特性とも貯蔵物の評価が高かった。従って品種C,Eにあっても収穫後日数を異にすれば、形質によってはさらに評価が高まる可能性があろう。 
調理
区分
有効
回答数
果肉色彩
香り
果皮硬さ
甘み
蒸し煮
男性
55〜59
78
80
59
80
66
71
75
56
72
66
74
82
69
68
74
68
87
51
84
72
女性
33〜35
74
68
62
70
67
59
71
53
80
61
77
75
64
60
60
53
84
40
75
64
※総数
104〜108
76
77
59
75
67
66
73
55
74
67
74
78
66
64
68
62
85
50
80
69
〜39才
23〜24
67
78
53
75
67
62
70
43
63
60
74
79
58
55
67
50
87
33
70
65
40〜59才
45〜49
70
66
54
67
60
58
65
46
64
61
64
69
58
60
62
52
76
38
77
60
60才〜
17〜25
90
88
65
85
70
71
73
62
69
64
85
72
78
72
75
85
93
65
93
68
専門家
26〜28
73
75
62
72
60
60
63
53
64
54
70
80
58
58
68
53
80
35
70
50
一般
63〜68
72
73
56
71
64
60
58
65
66
75
66
70
58
57
60
56
77
40
76
66
調理
区分
有効
回答数
肉質
うまみ
蒸し煮
男性
55〜59
66
72
51
67
62
57
82
41
78
65
女性
33〜35
74
76
56
73
70
61
81
44
76
62
※総数
104〜108
71
74
54
70
69
61
82
45
78
63
〜39才
23〜24
30
78
55
72
67
45
88
37
72
70
40〜59才
45〜49
64
69
53
68
67
57
67
33
77
62
60才〜
17〜25
84
78
58
69
69
74
86
73
84
67
専門家
26〜28
63
76
54
73
66
52
79
45
79
58
一般
63〜68
70
72
54
68
61
62
79
42
74
66
 (カボチャ食味総合評価)
調理
区分
有効
回答数
食味全体評価
全特性総合評価
蒸し煮
男性
46〜48
58
79
41
72
69
61
82
49
75
66
女性
34
63
82
41
72
56
68
82
45
77
53
※総数
95〜101
62
81
43
71
63
65
82
47
72
60
〜39才
20〜24
51
86
33
73
61
47
88
33
72
63
40〜59才
44〜47
62
78
44
74
70
61
72
45
72
58
60才〜
22
74
81
48
61
54
81
84
62
77
61
専門家
24〜28
68
82
36
73
50
68
82
40
67
44
一般
63〜65
59
80
45
71
67
67
81
47
70
64
注 ※総数は性別不詳者の評価回答を含む。(以下同)
表4 カボチャ糖度測定(生)
品種
Brix.
16,2
18,7
9,7
13,7
18,5
(食べ比べのまとめ 栗山 尚志)
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