●トマトの消費拡大[トマト調理の多様性を探る]報告●
【開催日時】 2008年12月8日 10:30〜15:00
【場所】 女子栄養大学 松柏軒(東京都豊島区駒込)
【参加者】 105名(研究・商品・産地開発、種苗、流通、市場、研究、教育機関、一般、マスコミ)
【開催企画・総括】 名誉理事長 鈴木康司
【料理開発】 荒井慶子・川村玲子・城戸我夜子・松柏軒 宮田寛敬
【開催主旨】
 健康のために野菜摂取の必要性が多方面から情報発信されているが、統計上に見るかぎり野菜の消費量は依然伸び悩み傾向にある。かたや、おいしい野菜なら消費が伸びるという指摘も多々あり、当会では平成18,19年度の農林水産省補助事業として、科学的知見に基づいた野菜のおいしさ検討を実施してきた。
 そのなかで分かったことは、流布する野菜のおいしさ情報はほとんどが生食中心のものであり、野菜本来のもつ微妙な味が認知されていない。甘味に偏重した評価情報が多く、加熱料理をすると評価が逆転する傾向があった。それも個々の品種により微妙な違いがある事も判明し、野菜をおいしく食べるには品種別に対応した用途別調理の重要性が浮上した。そこで、今回トマトをとりあげ試食検討会を開催致し、多くの皆様のご参加をいただき情報交換のなかで、新たな野菜のおいしさの視点を探りたいと思う。
【基調講演】
「加熱調理にも向く、最近のトマト品種について」
カゴメ(株)コンシューマー事業本部 生鮮事業担当常務執行役員 佐野 泰三 氏
「店頭におけるトマトの需要性」
カゴメ(株) 同事業本部 管理栄養士・フードコーディネーター 秋谷  史 氏
【講演要旨】
 佐野氏はカゴメ(株)トマトの取り組み、栽培の歴史から紹介された。生食用としてはもはや消費が伸び悩んでおり、加熱調理メニューの紹介、調理系トマトの消費を伸ばすためには等について解説した。
 現在、生食用トマトは世帯当たりに占める野菜購入高では年間6,200円と第一位であるが、出荷量は2007年で約64万トンと微減している。日本は世界のトマト消費量水準に比べまだまた少ないのは「トマトは生食だけ」という現状にも起因している。家計調査によるとトマトを一番購入する世代は50〜70歳代で、一番調理をするのは30〜40歳代とのデータがある。
 日本でトマトの加熱調理が普及していないのは「調理法を知らない」「手間がかかる」「生で食べた方が健康的」などの理由が挙げられるが、加熱することによりリコペンが吸収しやすく、料理のバラエティが豊かになる利点がある。今後は種苗会社、市場、量販店、外食レストランなどが協力して、様々なトマトメニューを提案し、調理をする機会を増やすことが消費拡大につながるとした。
 秋谷氏は消費者がトマトを購入する場合にどのように選択しているのか、売場の現状やどのように食されているかについて説明した。主婦はあらかじめ献立を決めてから食材を購入するタイプと、あるいは売場の商品を見て献立を考えるタイプの二通りがあり、それは極めて短時間に決定されるという。
 よって、野菜売場に滞在する時間は短く、購入するポイントとして「見た目(新鮮そう、真っ赤に熟している)」と「買得感」が重視され、要望としては「皮が薄くて気にならない」、「食感がしっかりとした」トマトを望んでいる。また、多くのトマト売場の現状は情報発信が乏しく、消費者が知らない多様な使い方(品種)をもっとPRしていくべきと述べた。
【提案料理名・供試トマト品種・提供会社】

トマトの多様な料理試食検討会提案メニュー

試食順
料理名
使用トマト品種
提案会社
A. 生食用と調理用品種の適正
1
ブルスケッタ
ハウス桃太郎(桃色)
桃太郎ゴールド(黄色)
タキイ種苗(株)
スナックトマト(赤色)
カゴメ(株)
にたきこま(赤色・欠品)
(独)農業技術研究機構
2
トマトのステーキ
ハウス桃太郎(桃色)
タキイ種苗(株)
麗容(桃色)
(株)サカタのタネ
こくみラウンド(赤色)
カゴメ(株)
B. 和食
3
トマト田楽
ハウス桃太郎(桃色)
タキイ種苗(株)
4
トマトおでん
麗容(桃色)
(株)サカタのタネ
5
トマトの味噌汁
こくみミディ(赤色)
カゴメ(株)
6
トマトと卵の炒め物
高リコピントマト(赤色)
カゴメ(株)
C. 洋食
7
フレッシュトマトのスパゲティ
レッドオーレ(赤色)
カネコ種苗(株)
8
鶏とトマトのチーズ蒸し
至福(桃色)
カネコ種苗(株)
9
トマト鍋
シシリアンルージュ(赤色)
パイオニアエコサイエンス(株)
10
トマトソース
ハウス桃太郎(桃色)
タキイ種苗(株)
レッドオーレ(赤色)
カネコ種苗(株)
11
トマトソースリゾット
ハウス桃太郎(桃色)
タキイ種苗(株)
12
トマトのコンポート
こくみプラム(赤色)
カゴメ(株)
D. 試食
13
生食
トマトベリー(赤色)
トキタ種苗(株)
ドライトマト
アイコ(赤色)
(株)サカタのタネ

【トマト調理レシピと供試品種】

1 ブルスケッタ(ハウス桃太郎+桃太郎ゴールド),(スナックトマト)

(材料)15個分
トマト 400g・バジル 5〜6枚・EVオリーブオイル 50cc
塩、胡椒 各少々・バケット(薄切り) 15枚・にんにく 適量
(作り方)
  1. トマトは湯むきをして横半分に切り、5mm角位のサイコロ大の大きさに切りボールに入れ、塩・胡椒をして味を整える。バジルの葉を手でちぎり入れ、EVオリーブオイル・にんにくのみじん切りを加え混ぜ合わせる。(油とトマトの水分がよく馴染むようにする)
  2. こんがり焼いたバケットの表面ににんにくの切り口を擦り香りを付ける。1をのせる。

2 トマトのステーキ(ハウス桃太郎)、(麗容)、(こくみラウンド)

(材料)2人分
トマト(S) 2個
にんにく 1かけ
EVオリーブオイル 大さじ1
フルールドセル(粗塩)・粗黒胡椒 各適量
(作り方)
  1. トマトはへたを取り横半分に切る。にんにくはつぶす。
  2. フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れ弱火にかけ、切り口を上にして並べいれ粗塩・粗黒胡椒振り焼く。
  3. 皮がしなっときたら裏返し、焼き付けるようにして両面焼き上げる。器に盛り、さらに粗塩・粗黒胡椒を振る。

3 トマト田楽(ハウス桃太郎)

(材料)
トマト(M) 1個
玉味噌:A(西京味噌 150g・練胡麻(白) 50g・酒、味醂 各大さじ11/3・砂糖 大さじ1・卵黄 1個)
サラダオイル 少々
(作り方)
  1. トマトはへたを取り横1cmの厚さに輪切りにする。
  2. Aの材料をボールに全て入れ合わせ混ぜる。
  3. 1に2を大さじ11/2塗り、サラダオイルを塗ったバットの上にのせ、オーブントースター又は魚焼きグリルで5分ほど焼く。

4 トマトおでん(麗容)

(材料)5人分
トマト(M) 5個
さつま揚げ 50g
だし 1リットル・塩 小さじ1・薄口醤油 小さじ1・
酒大さじ4・味醂 大さじ1強・砂糖 小さじ2強
(作り方)
  1. トマトは湯むきをする。さつま揚げは適当な大きさに切る。
  2. 鍋にだしと調味料を入れ煮立てる。1を加え10〜15分煮て味を含ませる。

5 トマトの味噌汁(こくみミディー)

(材料)2人分
トマト 2個・油あげ、浅月、練り辛子 各適量・だし 300cc・赤味噌 大さじ1強
(作り方)
  1. トマトはへたを取り、油揚げは湯どうしをして細く切る。
  2. 鍋にだしを入れ火にかける。1を入れ温め味噌を溶き入れる。小口切りにした浅月を振り、お好みで練り辛子を入れる。

6 トマトと卵の炒め物(高リコピントマト)

(材料)2人分
トマト 2個
卵 4個
塩、胡椒 各少々
サラダオイル 大さじ4
胡麻油 少々
(作り方)
  1. トマトは湯むきして6等分のくし型にカットする。中華鍋に大さじ1の油入れ、軽く炒め器に取り出す。
  2. ボールに卵を入れ塩・胡椒を加え混ぜ合わせる。
  3. 中華鍋に油を大さじ3入れ熱して2を加えふんわりと軽くかき混ぜながら炒める。トマトを加え軽く混ぜ合わせ、ごま油を加え仕上げる。

7 フレッシュトマトのスパゲッティー(レッドオーレ)

(材料)2人分
トマト 460g
バジル 4枚・にんにく 4かけ
オリーブオイル 大さじ4・塩 適宜
スパゲッティー(乾麺) 160g
(作り方)
  1. 湯むきしたトマトをざく切りにする。
  2. フライパンに、潰したにんにく・オリーブオイルを入れ弱火にかけ、にんにくの香りでたら、1のトマトを加え強火にして塩を振り、軽くトマトを潰しながら炒め、煮詰める。
  3. 2に茹で上げたスパゲッティーを加えからめる。手でちぎったバジルをお好みの量を加え手早く混ぜる。

8 鶏とトマトのチーズ蒸し(至福)

(材料)4人分
トマト 2個
鶏もも肉 1枚
モッツァレラチーズ 50g
サラダオイル 小さじ1・バジル 4枚
塩 小さじ1/4・粗挽き黒胡椒 少々
(作り方)
  1. トマトはへたを取り、4等分のくし形に切る。鶏肉はひと口大に切り、塩・胡椒で下味をつける。チーズは適当な大きさにちぎる。
  2. フライパンにサラダオイルを入れ熱し、鶏肉の皮目を下にして入れ、中火で焼く、上下を返して両面きつね色に焼く。皮目を下にする。
  3. 2の中にトマト・チーズ・バジルを入れ、塩・胡椒を振りふたをして7〜8分蒸し焼きにする。汁ごと器に盛る。

9 トマト鍋(シシリアンルージュ)

(材料)6人分
シシリアンルージュ 300〜500g
海老 6本・帆立 6粒・烏賊 1杯
オリーブオイル 大さじ4
にんにく 1かけ・鷹の爪 1本・塩 適量
(作り方)
  1. 鍋にオリ−ブオイル、にんにく、鷹の爪を入れ加熱し、湯むきしたシシリアンルージュを鍋の全面に敷き詰め煮る。塩で味を整える。
  2. 1のカットした魚介類を加え火が入るまで煮る。

10 トマトソース(ハウス桃太郎)、(レッドオーレ)

(材料)
トマト 300g・玉葱 30g・にんにく 1かけ・バター 20g・塩 1g
(作り方)
  1. トマトは皮を湯むきして、横2つに切り、種と水を除き粗切りにする。
  2. 鍋にバターを入れ溶かし。みじん切りにしたにんにくを入れ軽く炒める。更にみじん切りした玉葱を加え透明になるまで炒める。1のトマトを加えあおり混ぜ、塩を振り混ぜ弱火で20〜25分煮込む。

11 トマトソースリゾット(ハウス桃太郎)

(材料)
10のトマトソース 適量
ブイヨン 適宜
ご飯 適量
パルメザンチーズ 適量
(作り方)
  1. 炊き上がったご飯を水で洗い、水気を取る。
  2. 10のトマトソースにブイヨンとご飯を入れ軽く煮込みパルメザンチーズを振り混ぜ味を整える。

12 トマトのコンポート(こくみプラム)

(材料)
こくみトマト 1パック・砂糖 大さじ4・白ワイン100cc・水100cc
(作り方)
  1. トマトはへたを取り、湯むきをする。
  2. 鍋に砂糖・白ワイン・水を入れ火にかけ砂糖が溶けたら1を入れ1〜2分煮、そのまま冷し、冷めたら冷蔵庫にいれる。

○試食トマト

生(トマトベリー)、ドライトマト(アイコ)
【試食会】
 上述の13品目でのトマト試食会が行われた。各種苗会社から提供していただいたトマトを使用し、和・洋・中、前菜からデザートに至るまでバラエティに富んだ料理がテーブルを賑わせた。
 和食でトマトを食する機会はあまりないが、トマト田楽、味噌汁やおでんは意外と相性がよかった。また、パスタ料理に使用するトマトソースは品種により「コク」や「甘味」、「色彩」、「風味」、「酸味」などの違いが出ること、肉や魚介類と煮込む料理にすると非常に「うま味」が出ること、トマトに他の食材が加わることで食卓がバラエティ豊かになりうることを実感した。
【品種紹介と質疑応答】
 トマトを提供いただいた各種苗会社担当者から、フォーラムで使用した品種の紹介があった。
  • トマトでアレルギーを起こす場合があることについて→育種選抜によって除去できる
  • 加熱調理用トマトとしての青果は価格が高すぎる→低コスト化、ホールトマトと青果の混用利用、裂果などや出荷規格外品の利用、過剰生産による生産調整と貯蔵技術
  • その他 介護・病院食として元気づけるメニュー。
【トマトフォーラムアンケート結果】

トマトフォーラムアンケート集計

トマトフォーラム
アンケート集計
年代
女性 男性
男女
20代
30代
40代 50代 60代 70代 80代 不明 総・名 総・名
総合
計・名
 
11
16
17
19
15
15
3
4
41
59
100
Q.あなたはトマトを加熱して食べていますか
 いいえ
2
6
4
7
3
4
1
2
6
23
29
 はい
9
10
6
12
10
10
2
2
34
27
61
 毎日
0
0
0
0
1
1
0
0
1
1
2
 ※週に何回
10
9
10
16
10
6
4
0
38
27
65
 その他
4
2
1
3
6
2
0
2
11
9
20
Q.生食用トマトと加熱用トマトの比較 
 1.ブルスケッタ
 はっきり違う
6
10
4
11
7
5
2
3
21
27
48
 余り違わない
3
4
5
6
5
4
1
1
10
19
29
 その他
0
1
0
1
1
0
0
0
1
2
3
 2.トマトのステーキ
 はっきり違う
6
12
9
13
9
9
2
2
25
37
62
 余り違わない
3
2
1
2
4
1
0
1
7
7
14
 その他
1
0
0
1
0
0
0
0
0
2
2
Q.12種の料理の内、美味しかったもの、作ってみようと思うもの(複数回答)
 1.ブルスケッタ
2
8
5
4
3
5
2
3
14
18
32
 2.トマトのステーキ
1
0
0
2
2
2
3
2
7
5
12
 3.トマトの田楽
1
7
5
8
5
9
2
3
19
21
40
 4.トマトのおでん
2
2
2
1
3
3
1
2
8
6
14
 5.トマトのみそ汁
0
1
2
4
0
4
0
1
8
4
12
 6.トマトと卵の炒め物
2
8
2
6
6
8
3
3
19
19
38
 7.生トマトのスパゲッティ
6
4
10
9
8
7
2
3
25
24
49
 8.鶏肉とトマトのチーズ蒸し
7
6
3
6
5
2
2
1
12
20
32
 9.トマト鍋
11
11
8
14
12
10
2
3
28
43
71
 10.トマトソース
6
3
5
3
5
5
0
1
11
11
22
 11.リゾット
5
3
2
5
7
3
0
1
10
16
26
 12.トマトのコンポート
5
3
8
4
4
3
2
3
13
19
32
Q.今後トマトの加熱料理をしようと思いますか
 しようと思う
11
13
9
17
14
13
3
4
39
45
84
 しようと思わない
0
2
2
0
1
1
0
0
1
5
6

※人数ではなく回数の合計。回答者は20歳代4,30歳代5,40歳代7,50歳代7,60歳代3,70歳代5,80歳代2、合計34名の複数回答
【総括】
 今回のトマトは、詳細に検討して加熱調理に適した品種ばかりを取り上げたものではなく、調理用として協力会社のご厚意によって提供いただいたサンプルを振り分けたものであることをまずお伝えしなくてはならない。
 試食会は、まず生食用(多くの桃色系トマト)と加熱用(主に赤色系トマト・中果)との食べ比べから始まり、生食でも差がみられ、加熱されると大差が見られた。加熱料理では生食用より、加熱用が概して高く評価された。そのなかにあって、トマト鍋について使用された品種は、特にクッキングトマトとして育成された品種で、どなたからもおしいと高く評価された。
 調理加熱用トマトには他の食材と合わさることによりうま味が増幅されることから、成分(水分量や酸味、アミノ酸など)、高色素、均質な肉質、サイズなど生食用トマトとは違った品質が求められよう。
 近年野菜のおいしさについて、調理加熱すると品種個々の用途別適性が指摘され始めているが、その事がまさに証明されたような結果がみられた。
 今回のフォーラムで特徴的な事は、多様な調理を一度に試食できたため、参加者夫々の立場でトマト調理についてのヒントが得られたようで、多くの方から参考になったと言われたことである。
 今回のフォーラムに当たり、サンプルの提供をいただきました種苗会社各位、および調理開発にご協力いただきました松柏軒各位に対して、深く感謝の意を表します。
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