●「有名野菜品種特性研究会(キャベツ・大玉トマト)」報告●
担当理事  栗山 尚志
【開催日時】
2009年11月27日(金)  13:30〜17:00
【開催場所】
女子栄養大学 駒込校舎5階 松柏軒
【参加者】
88名(種苗・育種、野菜調理・加工・開発、生産者、農協、公的機関、消費者、マスコミ)
  • 総合司会:理事 遠藤竹次郎
  • 研究会の座長:理事 川口和雄
  • 供試品の調理企画:理事 荒井慶子、副理事長 上原悠子、同川村玲子、理事 城戸 我夜子
  • 供試品の調理:松柏軒 宮田寛敬ほか
  • 供試品の提供:品種名・企業名は後記
開催趣旨
 野菜の摂取量を増やす必要性が叫ばれて久しいが、それを達成するためには、安全でおいしい野菜の供給がなされることが重要な条件の一つであると考える。
 このような認識のもとに、「野菜と文化のフォーラム」においては、有名野菜品種について、多くの人が同一の条件で、これを食べて比較検討することを通じて、「おいしさ」という視点からその特性に関する情報の収集を行い、公表を重ねている。
 今回は、近年、新品種の開発によって品質の改善向上が著しい秋冬取りキャベツ(生食・加熱調理)並びに品種改良と栽培技術の改善とによって食味などの特性の向上が著しい大玉トマト(生食)を研究の対象にすることとした。
研究会
1.開会挨拶  理事長 今野 聰
2.講演
(1)
演題「品種・作型の変遷・当期収穫物の特徴・将来展望」
 
  • キャベツ 有限会社 石井育種場社長 石井和広氏
  • トマト 神奈川県農業技術センター野菜作物研究部長 北宜裕氏
(2)
講演要旨
  <キャベツ>
 
 キャベツは地中海沿岸地帯が原産地とされ、日本への伝来は、多くのアブラナ科野菜が中国大陸へ渡って改良されたものが日本へ伝えられた道とは異なる経路をとった。
 日本で結球性キャベツが栽培され始めたのは意外に新しく、記録としては安政年間(1855年頃)とされる。本格的には明治7年(1874)に政府勧業寮が欧米から種子を輸入して東北地方の篤農家に試作させ、これとは別に北海道開拓使が欧米から伝えられた種子の栽培に成功したというあたりからである。


石井和広氏

 品種の育成は、主として民間の育種家や種苗業者によって行われ、昭和20年代後半にはF1育種法という画期的な育種技術が開発され、以来、多数の優れた品種が育成されてきた。
 野菜としての特性からの分類上は、寒玉・春系・ボール・サボイ・ポインテッド・中間・レッドがある。春キャベツの作付面積は8,840haで、千葉・神奈川・茨城などが、夏秋キャベツは10,200haで、群馬・長野・北海道などが、冬キャベツは14,000haで愛知・千葉・神奈川などが主要産地である。

キャベツ
   秋冬キャベツの品種の特性は、近年、多様化してきている。今後の育種については、耐病性(黒腐病、根こぶ病、萎黄病、バーティシリウム萎凋病など)、耐寒・暑性、食味、栄養価などが育種目標である。
  <トマト(大玉)>
 
 ペルーのアンデス高地に野生種が分布するトマトは、メキシコ辺りで作物化され、16世紀にヨーロッパへもたらされ、イタリアで料理用として一般化された。18世紀にUSAへ渡った後、19世紀に日本へ導入された。
 世界の栽培面積は464万ha、中国が世界の26%と、圧倒的に多い。生産量は1億3,000万t、10a当たり収量は、オランダが45.7t、北欧諸国が40t、日本は5.9t、世界平均が5.03tで、格差の大きな作物である。


北宜裕氏

 日本の栽培面積は13,700haで、生産量は75万t、熊本・北海道・愛知・千葉・茨城などが主産地である。
 野菜としての特性からの種類は、大玉(200g)、中玉(60g)、ミニ(15g)、調理・加工用(50〜120g)がある。
 含有する成分は、この種類によって特徴がある。また、栽培方法、栽培時期(=作型)、気候・気温・日射量、潅水量によっても大きく異なり、促成栽培ではBrixが高くなる。一般的に、日本の大玉品種はBrix(%)が高く、おいしいとされる。

トマト
   育種目標は、生産性(着果数・肥大性・早生性)、味・品質(糖度・肉質・日持ち)、病害抵抗性(モザイク病・黄化葉巻病・葉かび病・萎凋病など)の3つの要因の相互関係を、どの程度の水準で実現しようとするかによる。
 近年は、複数の病害抵抗性を有する品種で、品質・収量のよいものが育成されている。さらに、生食・クッキング・色の組合わせなど、利用の多様化に応じたいろいろな特性を持つ品種が生み出されて来ている。
3.供試品の品種特性と適応作型
当該品種を育成し、今回の供試品を提供された種苗会社の技術者から、資料に基づき説明が行われた。(順不同)
4.食べ比べ試験の実施
(1)
供試品種の概要
 

(注1)A〜Fに対応する供試品の品種名は、評価終了後に公表した。

(注2)供試品は、品種名称を伏せて会場に展示した。特別展示として、次の2品種の野菜を展示した。キャベツ「札幌大球」・ハクラン「細田早生」


札幌大球キャベツ

  <キャベツ>
 
(A)
品種名:
しずはま
社名:
(有)石井育種場
産地名:
静岡県袋井市
は種期:
8月4日
好適食べ方:
太幅に切り生食
(B)
品種名:
新藍
社名:
(株)サカタのタネ
産地名:
茨城県
は種期:
8月上旬
好適食べ方:
太幅に切り生食
(C)
品種名:
浜岬
社名:
タキイ種苗(株)
産地名:
千葉県銚子市
は種期:
8月上旬
好適食べ方:
軽度の加熱処理
(D)
品種名:
トンガリボウシ
社名:
(株)日本農林社
産地名:
茨城県稲敷郡
は種期:
7月31日
好適食べ方:
太幅に切り生食
(E)
品種名:
キャンデイ
キャベツ
社名:
(株)増田採種場
産地名:
静岡県浜松市
は種期:
8月5日〜20日
好適食べ方:
太幅に切り生食
(F)
品種名:
あまかぜ
社名:
渡辺農事(株)
産地名:
茨城県西
は種期:
7月下旬
好適食べ方:
細く切って生食、軽度の加熱処理
  <大玉トマト> 各品種とも土耕栽培 ※印品種は隔離ベット栽培
 
(A)
品種名:
スーパー
ファースト
社名:
愛三種苗(株)
産地名:
愛知県豊明市
は種期:
7月20日
収穫果房段数:
2〜3
(B)
品種名:
アニモ
社名:
朝日工業(株)
産地名:
熊本県八代市
は種期:
7月中旬
収穫果房段数:
4〜5
(C)
品種名:
いちふく
社名:
カネコ種苗(株)
産地名:
滋賀県上岸本
は種期:
6月下旬
収穫果房段数:
6〜7
(D)
品種名:
りんか409
社名:
(株)サカタのタネ
産地名:
熊本県
は種期:
7月中旬
収穫果房段数:
4〜5
(E)
品種名:
桃太郎
グランデ
社名:
タキイ種苗(株)
産地名:
千葉県山武郡
は種期:
6月上旬
収穫果房段数:
5〜6
(F)
品種名:
みそら64
社名:
みかど協和(株)
産地名:
熊本県八代市
は種期:
7月中旬
収穫果房段数:
2〜3
(2)
供試品の収穫・輸送等
 
 収穫適期に達したものを収穫し、通常の包装を行い、常温輸送・常温貯蔵を行ったものを供試した。
(3)
供試品の調理
 
 荒井慶子理事が概要を説明した。
 
  1. キャベツ(生鮮品及び加熱調理品):外葉を除去後、縦八つ切りにし芯を除去したものを1.5cmまたは1.0cmに刻んだ後に混和、加熱調理は薄味のダシ汁で処理したもの

  2. トマト(生鮮品):蔕付き縦六分割

 


トマトの食べくらべ

(4)
参加者による試食と試食評価
 
 キャベツは生食(荒切り)と加熱(細切り)を外観、軟らかさ、歯ざわり(歯切れ)、甘み、辛み、香り、光沢、多汁性、うまみおよび総合評価。
 トマト(大玉)は外観(色を含む)、果肉の軟らかさ、果皮の軟らかさ、甘み、酸味、香り、肉質、うまみ、果肉の多汁性、ゼリー状態および総合評価。栗山 尚志理事が判定評価表記入について説明した。
 
  1. 有効回答数 88名(男性56名、女性32名)による官能調査。男女・年代別に上記項目で4段階評価を施した。
  2. 供試点数 キャベツ:6品種(生食・加熱調理)・12試料、トマト:6品種(生食)・6試料
  3. トレイにA〜Fの印をつけ、その場所に各人が大皿から供試品を1品種ずつ取分け、食べ比べ試験を行った
5.試食評価の要約
 

 キャベツ、トマト(大玉)ともに試食品種をA〜F(キャベツ6品種、トマト6品種)にて上記項目毎に4段階評価した。評価表を回収後各A〜Fの品種名を公開した。
 キャベツについては静岡産、関東(千葉、茨城)産の秋穫り種・中早生種が中心となったが、生食、加熱による食味の評価は大きな差は認められなかった。また、男女、年代別の官能評価にも大きな差は認められなかった。総合評価では、生食、加熱とも「B」の評価が圧倒的に高く男女とも共通して高かった。次いで「D」が高い評価で、「A」「C」「E」「F」については大差がなかった。
 トマト(大玉)については作型的には土耕・ハウス栽培の品種で、産地は吸収(宮崎、熊本)、滋賀県、愛知県、千葉県となっていた。総合評価ではキャベツ同様、男女年代別の評価には大差がなかったが、男女ともに「D」の評価がやや高かった。ついで「A」の評価が男性で高く他の「B」「C」「E」「F」には大差がなかった。「A」は隔離ベット栽培(土耕)による栽培方法で、一般的には糖度が高くなり、果肉が引き締まる傾向にあり、やや高い評価を得た物と思われる。


キャベツ・トマトの展示

6.閉会挨拶  副理事長 上原 悠子
   
(文責:理事 川口和雄)
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