総会セミナー報告
【開催日時】 2010年5月26日(水) 14:20〜16:20
【開催場所】 女子栄養大学駒込校舎・松柏軒
【参加者】 79名(流通関係、食品関係、全農関係、生産者、種苗会社、公的機関、一般)
【講演】 「わが国の野菜事情と展望」
東京青果株式会社 常務取締役(野菜事業本部長・個性園芸事業担当) 宮本 修氏
【進行】 副理事長 大澤 敬之
 本会は、最近の野菜はまずくなった、食べ物の視点を忘れた流通規格、安全性の問題等々の世論の風潮をうけて1988年設立以来、野菜の背景を探る各種の勉強会を続けて参りました。  
 健康志向時代を迎え野菜の重要性が高まり、安全性・美味しさ・栄養性・機能性に関する人々の関心がますます高まってきました。これらの背景には、品種・環境と作型・栽培技術・流通技術さらには調理方法などの条件が複合的にかかわりますが、日本全国および外国産も広く集荷・販売する卸売市場はどのように取り組んでおられるのか。また、核家族化に伴い野菜の消費動向が高品質・少量多様化に移行し、東京青果株式会社ではレギュラー品以外にも地域特産品の掘り起こし、新品目の開発を推進され、JAや生産者と協力して野菜の安定生産、品質の向上、情報発信に努力されています。そこで今期の総会にあたり個性園芸事業部担当の宮本氏のお話を伺う機会を設けました。是非ご参加の上業務に役立てていただきたくご案内申し上げます。
 なお、当日参加者の方には、受託事業・平成21年度 野菜等健康食生活協議会「野菜のおいしさ検討部会報告書」を謹呈いたします。
<講演要旨>
●市場は生き物である「野菜」を扱う仕事
 「野菜って何?」と問われると唐突かもしれませんが、野菜は生き物です。商品である前に命なのですね。ここに野菜の花の写真を何枚か用意しましたが、何の花か、皆さんはどのくらいおわかりでしょうか。

 我々は、種から育てていただいたものを販売して、初めて利益を得ることができる仕事です。日頃、生き物を扱っているという感覚が薄れ、つい商品として見てしまいがちです。育てる手間があり、思い通りにはいかないものであることを忘れてしまうのです。
 でも、野菜は生き物であるという感覚で物事に対処していかなければいけないと、私は考えています。
●わが国の野菜の生産・流通・消費の現状は?
 さて、わが国の野菜の現状を見ていきましょう。

 農家の総数、就業人口とも減り続け、平成20年には、約250万戸、約300万人、その内65歳以上が65%で、後に続く人がいない、生産者が少なくなっていくという現実があります。野菜の作付面積、生産量も減少傾向で、平成元年に約75万ha、1,615万トンだったものが、平成18年には約56万ha、1,234万トンになっています。人口が20年後には100万人単位で減るとの見方がありますが、農家人口の減少のほうが早いのです。

 市場経由の野菜は75.8%で、国産野菜に限ると92%にのぼります。近年、販売のチャンネルは増えていても、市場の役割は大きいと自負している次第です。

 市場は、中央卸売市場は(平成20年度)青果が64市場、卸売業者90社、地方卸売市場は(平成19年度)1,237市場、1,454社。日本全国の野菜が減少しているため、中央・地方とも入荷は減っています。しかし、野菜の平均価格は、東京市場を見ると平成元年が203円/sで、平成20年が218円/sと、量が減ってもそれほど高くはなっていません。野菜の値段は、20年間でそう変わっていないのですね。

 東京都中央卸売市場での平成20年の野菜の取扱高は3,459億円。売り上げのトップはこのところトマトで、キュウリが続きます。かつてはキュウリが上だったのですが。産地では茨城、千葉、北海道の順ですが、数量では北海道が多くなります。

 ここ20年間の産地や品目の推移を見ると、最も減ったのは東京都産で14%の減、埼玉が続き、関東近県が概ね減っています。増えているのは青森産です。品目ではトマトがトップなのは変わらず、続くキュウリは単価によって3〜5位に位置します。ネギ、レタスの取扱量は変わりません。

 取扱量が増えたのはブロッコリーで1.65倍に、コネギやアスパラガスも増えています。逆に減ったのはホウレンソウ、ナス。消費者が何を好むかを知る手だてになります。ただ、減ったのは、消費が落ちたのか、単価の問題なのか…。

 続いて、輸入野菜について見てみると、生鮮野菜の輸入は平成17年に約107万トンだったのをピークに減り、平成20年には56万トンにとどまっています。輸入野菜には、タマネギやカボチャなどの端境期の対応型、チコリやトレビスなどの輸入依存型、長ねぎやごぼうなどの国産競合型、キャベツやハクサイなどの緊急輸入型があります。が、今後、国産競合型の野菜が輸入依存でよいのか、問題になってくるだろうと思います。
 続いて、野菜の消費の面から見てみましょう。

 平成19年の1人1ヶ月当たりの平均支出の構成を見ると、生鮮野菜へは7.7%。因みに外食費は17%に上っています。1人が1年間に購入している野菜は、キャベツ5.5s、ダイコン4.9s、トマト3.8s、キュウリ2.8sなど、年間56.2s。昭和55年には63.6sでしたから、この29年間で野菜の購入量は減り続けています。

●卸売市場法の改正で市場は激変
 市場は何をしているでしょう? 主には、多種多様な品揃えをして、公正な評価による価格形成、そして代金決済機能をもっています。

 流通は複雑怪奇な面がありますが、市場は会員制で「一見さんお断り」の世界だったのが、市場制度の見直しで、随分変わってきました。

 これまでは生産者から卸売が委託販売される形で、卸売が直接買い付けたり、また仲卸が産地に直接行ったりすることはできなかったのですが、それが可能になり、会員に限らず一見さんに売ってもよいことにもなりました。卸の手数料は8.5%と一律だったのが、生産者と手数料も相談可能に。こうした流れで、市場の活性化がはかられると同時に、まさに大競争の世界になったわけです。

 卸売市場の機能は、昭和46年制定の卸売市場法にのっとって、セリ・委託販売が原則でしたが、市場法の改正でセリと相対販売の併用になり、現在はセリが減って、相対が圧倒的に多くなっています。スーパーは予約相対の取引が隆盛ですし、今後さらに商物一致の規制緩和が進むと思われます。
●安全・安心を求める消費者に応える
 野菜の現状を考える上で、最近特に見逃せないのが「安全・安心の問題」です。野菜の食中毒で記憶に残るものに、平成8年に起きたカイワレダイコンのO-157問題がありました。カイワレダイコンは平成7年には3.200トンの入荷だったのが、平成8年には900トンに激減し、21年でも1.300トンの入荷です。消費者は原因がはっきりしないと食べないことがわかります。平成11年に起きた所沢農協のダイオキシン問題もありました。風評被害の怖さで言えば、茨城県東海村の例もあります。

 平成19年にポジティブリストができて、輸入野菜に関しても農薬管理がきびしくなりましたが、安全と安心は違うもの。安心には基準がないのです。

 だから、市場に来る野菜は全部安心と胸を張れるようにしなければいけないと考えます。
 各県や各農協が様々な認証を乱発していますが、一般消費者にどうアピールしているでしょうか? 市場がもっときちんとアピールすべきでは? 神戸生協の調査によると、主婦はスーパーに来て15分で買い物をすませるそうで、パッと見てわかるようにしていかないと認証の意味がないと思います。

 野菜は各県の規格があり、それにのっとって市場に来ています。曲がったキュウリでもよいとよく言いますが、実際には、主婦は同じ価格なら曲がったものは買いません。きれいなものだけなら、スーパーに行けばいいのですね。

 4月から政府が規格外も推進するようになりました。市場にはB、C級品も出ており、全部のランクがあります。漬けものやさんは、段ボールのコストのかからないネットに入ったキュウリを大量に買っていきます。
●市場が新しい野菜・産地を育てる
 市場は、生き物である野菜をどう売るかを考えたいですね。

 産地へは規格の簡素化を提言しています。例えばキュウリなら、A品は18〜20pだったのを22pまでに、曲がりは1.5pまでAにするとか。県民性もあるようで、選果選別が徹底しているのは茨城、下落ちしないのは千葉といった具合ですが、決めるのは買い手です。

 生産量が落ちた所は、生産者に種を蒔いてもらって収益をとるところまで下支えすることも必要でしょう。

 産地開発室では地方野菜の掘り起こしも進めています。例えば、「ねっとり長芋のトロフィ」を売り出す時は、スーパーも巻き込み、当初50トンから始めたものが、今や2,000トンまでになりました。「京都のミズナ」も298〜398円だったものを198円で何とか売れるものにしようと、注文してオーダーメードの野菜に作りかえました。大株では流通に乗らないので、小株にして袋に入れたのです。キューピードレッシングのサラダのCMに使われてからは一気に人気が出ました。野菜のブランドには、地域性や物語も大事な要素です。

 この他、カリフラワーをもう一度復活させたいと企画していますし、カボチャも国産で年間回せるようにしたい。もう一度食べたいと思わせるような味で売りたいのは「縮み小松菜」です。長くて固いのが当たり前のゴボウから、短くてやわらかい「ごぼちゃん」も開発しました。ブリーダーにいつも言うのは「売れるものを」ということです。

 市場は協力体制をとって組織営業をしていくべきで、そうしながら、生産者に育ててもらうのです。

 かつて江澤正平先生は言っておられました。消費者と生産者はそれぞれ思いが違う。消費者は安全・安心、おいしい、手軽な値段の野菜を求め、生産者は収量が多く、作りやすく、病気に強く、見てくれや日持ちがよい野菜を求める。両者をつなぐのは、ネットでも道の駅でも、だれでもいいと。

 消費者と生産者の思いが違うから、市場が飯を食えるのだと思います。市場が新しい野菜、産地を育てる時代です。アンテナを張っていれば、必ず新しい商品は生まれると確信しています。
(文責 脇 ひでみ)
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