●「いも類新品種の需要拡大フォーラム」報告●
主催:財団法人いも類振興会、NPO法人 野菜と文化のフォーラム 協力:女子栄養大学
【開催日時】
平成17年11月24日(木) 13:00〜17:30
【場所】
女子栄養大学駒込キャンパス3号館5F小講堂、
松柏軒(東京都豊島区駒込3-24-3)
【司会】
三保谷智子氏(女子栄養大学出版部マーケッティング課長、野菜と文化のフォーラム理事)
【参加者】
136名(意見交換会70名)
栽培関係10%研究教育20%行政15%流通・実需45%一般消費10%
開催の目的
近年、馬鈴しょおよび甘しょの需要拡大に向けて開発が進み、たくさんの新品種が発表されている。しかし消費者への普及はまだ限られており、より一層の取り組み強化が必要となってきている。このフォーラムでは試験研究機関、実需者、消費者等が一堂に会して、新品種を紹介し、これらの特性を生かしたオリジナルメニューを試食し、認識を高めていただくとともに、新品種の普及を図る上での問題点等について議論し新品種の今後の普及に役立てようとするものである。
講演:
(1)ジャガイモの品種開発の傾向と出展品種の特性
森 元幸氏
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構
北海道農業研究センターばれいしょ育種研究室長)
(2)さつまいもの品種開発の傾向と出展品種の特性
吉永 優氏
((独)農業・生物系特定産業技術研究機構
九州・沖縄農業研究センターサツマイモ育種研究室長)
新品種による
試作メニュー紹介:
荒井 慶子氏
(NPO法人野菜と文化のフォーラム副理事長)
試食会:
(1)素材の食味を知る (茹でる、蒸かす)=
全品種
(2)新品種料理試作メニュー
ジャガイモ(6品種)・対照品種(男爵薯・メークイン)
1.さやか
2.スタールビー
3.キタムラサキ
4.花標津
5.スノーマーチ
6.アイユタカ
サツマイモ(6品種)・対照品種(ベニアズマ・高系14号)
1.パープルスイートロード
2.クイックスィート
3.べにまさり
4.アヤコマチ
5.ムラサキマサリ
6.オキコガネ
報告
各主催者代表の挨拶の後、2講師によるジャガイモ、サツマイモの作物特性、新品種開発の育種目標、出展新品種特性の解説があった。
いずれも交雑育種から着手し個体選抜、系統選抜、ブロック選抜とすすめ、カラフルで用途別 ( 青果特性・加工特性 ) 、病害虫抵抗性など優れた特性を保持した品種を選抜育成している。
いずれも栄養繁殖性の作物であるが、特に熱帯原産のサツマイモは国内では開花しにくく、アサガオ台木を用いて開花させ、交配、その実生苗を挿し木により圃場検定という手法で改良が進められている。
いずれも公的機関が育成した品種について紹介された。
ジャガイモ料理例
ジャガイモ
1928 年に米国導入の男爵薯とイギリス導入のメークイーンが栽培面積 No1 、 2 で両品種で 60% 以上を占める。男爵薯は早生種で全国的普及し粉質系。
メークイーンは西日本に広く普及し、ねっとり系で煮くずれしにくく煮物用途が多い。
これら主力品種の課題は何か ?
病害虫抵抗性
長年連作の結果各種の病害虫が発生し、減収や農薬使用が余儀なくなっていることから抵抗性品種は重要な改良特性である。
花 ( はな ) 標 ( しべ ) 津 ( つ ) :疫病 、センチュウ 圃場抵抗性で低農薬栽培可能 で幅広い用途に適する
スノーマーチ:そうか病、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性で、煮崩れ・調理後の黒変が少ない
アイユタカ :ジャガイモシストセンチュウ抵抗性で暖地の多収主力品種として期待される
カラフルポテト
主力品種にはなりえないが食卓を華やかに、おやつとしてインパクトの強い特性がある。アントシアニン色素含有は機能食品としても魅力がある。カラーのポテトチップスも魅力的。
スタールビー:赤皮黄肉、地域特産用品種でアンデス赤やレッドムーンより実用性有り、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性
キタムラサキ:紫皮紫肉、収量、色の濃さはインカパープルより多く、アントシアニン色素は抗酸化等の機能性がある。サラダやポテトチップなど新しい加工用素材。ジャガイモシストセンチュウ抵抗性
業務用サラダ用途
さ や か :剥皮後も黒変せず、緑化しにくく ( エグ味が少ない ) 、収穫調整時の打撲に強い、中心の空洞が無い、多収大粒種、男爵より粘肉質で煮崩れしにくくく、晩生で休眠期間は長い
サツマイモ料理例
サツマイモ
1945 年高知県農事試験場育成の高系 14 号と 1984 年農研センター育成のベニアズマが主力品種。いずれも優れた食味と栽培しやすさを兼備した品種である。育種の世界では毎年 1,000 種も選抜されているがなかなか食卓には登場しない。
講演によると果肉の色だけでも黄金色、オレンジ、紫色と多様。味も様々で高糖度、ねっとり感の強い、簡単料理向き、βカロテンを多く含む機能性を持った品種もある。今回は食味や肉色に特長のある6品種が紹介された。
青果用
主力品種のバリエーションを高めた新品種
べにまさり:赤皮、淡黄肉色、しっとりした肉質、甘味が強い良食味、蒸いもに適する
クイックスイート:赤紫皮、淡黄肉色デンプンの糊化温度が低く電子レンジで簡単調理、早堀り可能
パープルスィートロード:濃赤紫皮、紫肉色。栽培容易、外観が良く食味は高系 14 号並みで良
加工用
新たな用途に適した新品種
ムラサキマサリ:濃赤紫皮、紫肉色。アントシアニン含量多、色素抽出用品種、食味は劣る、サツマイモネコブセンチュウ抵抗性
アヤコマチ:赤皮、オレンジ肉色。カロテン含有多、食味良く、サラダ用可、加工容易
オキコガネ:淡黄褐皮、淡黄白肉色。低糖。ジャガイモのような加工に適。コロッケ素材。
試食会
ジャガイモおよびサツマイモの新品種を素材にしたオリジナルメニューの紹介と試食、ポテトチップス。
品種により、若干のえぐみが感じられた。まだ一般的には馴染みの少ないカラー系は珍しさも加わって人気が高かった。試食会では、肉質や色素を考慮した和風・洋風料理で創意工夫が見られ、いも焼酎の試飲を含めいずれも大変好評であった。
その他、当日資料
「やさい畑」
2004 冬号 ( ジャガイモ 13 品種 ) 、 2005 秋号 ( サツマイモ 11 品種 ) :
家の光協会
でも多くの品種やレシピが紹介され、実需者の方々も多くこれらレシピからたくさんのヒントが得られたことと思う。
パネルディスカッション
テーマ【いも類新品種の需要拡大を目指して】
コーディネーター
中谷 誠 氏 ( 農水省農林水産技術会議事務局技術政策課技術情報室長 )
パネリスト
森元幸氏 ( 北海道農業研究センター ばれいしょ育種研究室長 )
吉永優氏 ( 九州沖縄農業研究センター サツマイモ育種研究室長 )
佐渡純一氏 ( キューピー ( 株 ) 生産本部 野菜原料購買担当部長 )
川村 玲子氏 ( 元香川栄養専門学校教授 野菜と文化のフォーラム理事 女子栄養大講師 )
上原 悠子氏 ( 野菜と文化のフォーラム理事 クッキングインストラクター 料理教室講師 )
報告 いも類の新品種需要拡大について
ジャガイモの加工原料品種「トヨシロ」から「さやか」への産地開発に北海道で挑戦、安定調達に成功し、道内作付け面積は600ha の実績を得た
。
主力品種より栽培容易で増収だった。 ( 佐渡氏 )
いも類はビタミンB,C、リン、カリウムの栄養価は緑黄色野菜に匹敵した食品である。
いも類は比較的低カロリーで満腹感が得られ、「コレステロール低下」や高カロリー食品の食べ過ぎによる「肥満」などの成人病予防、あるいは「繊維質」が多く現代の偏った食生活の改善に適した健康食品。
毎日の食事バランスの中でのいも類の摂りかたについてコメント。最近の国民健康ブームに乗って、是非需要を拡大させたいと力説した。 ( 川村氏 )
一般消費者の立場から
青果用いも類の需要拡大を図るには消費者が近くのスーパーで手にとって試食しておいしさを感じてもらうことが大事で、品種名や品種の特長を明確に消費者に知らせて、大いに宣伝してもらいたい。昔は八百屋から情報があったがスーパーには情報が少なすぎる。 ( 上原氏 )
主力品種に比べて収量が少なかった。ウイルスフリーについて質問。
消費者にとって「おいしさ」も大事なことだが、栽培者にはやはり「生産力」「価格」であろう。本当においしく、特長があれば減収分だけ高価格でも消費者に受け入れられるだろう。現在の主産地に普及させるためには、各県の試験場等で品種の生産力検定や栽培法や作型の検討を同時に進める必要があろう。サツマイモのウイルスは植物に罹病反応が出にくく判定が困難、栽培の安定普及にはウイルスフリー株が必要である。 ( 茨城 生産者 )
品種のネーミングについて一考
「インカの○○○」のような命名は品種名が先行し、消費者から問い合わせが殺到する。
でも残念ながら栽培しにくく収量も少ない。名前ほどはおいしくなかった失望感がある。
「食べたくなるようなネーミング」も普及には大事な要素であろう。 ( 販売・流通 )
>>> フォーラムのトップへ