●植物工場セミナー<一般消費者向けの講演と、植物工場野菜試食>報告●
【主催】
スーパーホルトプロジェクト協議会(事務局(社)日本施設園芸協会)
【共催】
野菜と文化のフォーラム
【開催目的】
一般消費者や学生の方々を対象とした、植物工場についての講演及び植物工場産野菜の試食、植物工場(完全人工光型植物工場、太陽光利用型植物工場)についてご理解いただくため、植物工場セミナーを開催する。
【日時】
2011年2月10日(木) 13時30分〜15時30分
【場所】
女子栄養大学・駒込キャンパス3号館5F小講堂
【参加者】
120名(加工・調理・流通、生産者、農協、一般、種苗、行政、研究、ジャーナリスト、報道、学生)
【内容】
講演「完全人工光型植物工場の現状と課題」 高辻 正基氏((財)社会開発研究センター 理事、植物工場・農商工専門委員長)
講演「太陽光利用型植物工場とは何か〜施設園芸から植物工場へ〜」 丸尾 達氏 (千葉大学大学院 園芸学研究科 准教授)
植物工場産野菜の試食 コーディネーター 吉田 由美氏 (シニア野菜ソムリエ)
アンケート
【司会・進行】
吉岡 宏((社)施設園芸協会・事務局長、野菜と文化のフォーラム・理事)
<要旨>
それぞれの植物工場について短時間ではあったが平易に解説していただいた。
完全人工光型植物工場(以下、完全人工光型)、太陽光利用型植物工場(以下、太陽光型)として要約する。
●完全人工光型
閉鎖環境で太陽光を使わずに人工光を使い、温湿度、光強度などを農産物の生産に最適な値に制御することで、周年・計画生産を行う植物工場である。密閉度が高いため、害虫などの混入を極力抑えることができ、LED照明と養液栽培により、低照度でも生育するレタス、サラダ菜、ハーブなどの事例がある。
●太陽光利用型
従来の施設園芸の延長上にある栽培法で、温室などの半閉鎖環境で、太陽光の利用を基本とし、曇雨天時の補光や夏季の高温抑制技術(遮光や加湿)等によって周年計画生産を行う植物工場である。このうち人工光を併用するものは特に「太陽光・人工光併用型」という。明るい太陽光を利用することで、照度も確保でき葉物類のほか、より高照度を好む栽培期間が長いいちごやトマト、メロン、ハーブ、バラなどの事例がある。
高辻 正基氏
丸尾 達氏
【まず、どうしていま植物工場か】
農業人口の低下と高齢化に伴い、これから10年後の野菜生産、自給率維持に懸念があり、このまま推移すると国産野菜は食べられなくなる?(70才以上が70%以上の可能性がある)専業農家の老齢化、後継者不足で施設の新設、更新をしない。今から対策が必要ではないか?
近年の異常天候の連続、発展途上国の生活レベル向上等により資源の枯渇化。お金があっても食糧を輸入できない事態が懸念される。
特に、食品・加工業界は野菜の供給源を周年安定的に確保する必要に迫られてこよう。
早朝穫り野菜、労力のかかる有機栽培→消費者は野菜に過剰品質を追求しすぎていないか?→農家の労働環境の劣化の改善がはかれないか?
長い目で見た場合、普通野菜生産と植物工場産……どちらが永続的で、環境に優しいか?
【1.太陽光を使わない人工光型では野菜の栄養価が低いのではないか?】
野菜には特定の赤色光線、特定の青色光線を好むものがある。一般野菜と植物工場野菜では栄養価に大差がない。カロテン、ビタミン、トコフェノール等は赤色LED光源で10倍以上濃度が高まり、野菜が甘く、葉が大きくなる。しかし青い光源では効果が期待できない。普通栽培での野菜の栄養価は天候、土質、病害虫発生、栽培技術の差により不揃いになりやすいが、植物工場産は比較的品質が均等で天候の変化に対してもばらつきが少ない。
【2.安全性と環境汚染防止】
完全人工光型は閉鎖環境で無菌状態に近く、利用の際、野菜を洗浄しなくてもよい。よって大量の洗浄水が不要でコスト低減できる。人工光型は収穫物のロスが少なく、店持ちがよい。
太陽光型については、生育温度を超す高温は換気により排出するので、若干のほこりや病害虫が外部から侵入する可能性がある。
【3.設置場所、連作障害、土壌管理、病害虫抵抗性品種】
植物工場は基本的に土を使わないので、土壌管理に対する機械設備費や高度な病害虫抵抗性品種はそれほど重要ではなくなる。栽培技術も長年の農業経験がなくてもマニュアル化し易い。また、空きスペースがあればどこにでも設置できるメリットがある。
【4.デメリット】
生産コストが高い……コストダウンの研究開発、安全、周年安定供給など利点がありまず外食・中食産業から使えないか?
例 直売所の価格比較(植物工場産VS 普通露地栽培産)
ルッコラ (2株・200円、8株・100円) サニーレタス(1株・200円、1株・80円)
現状では、時期・作型により8〜2.2倍の価格差がある。
エコ技術 雨水の使用、ヒートポンプの利用(化石燃料から脱却)、ランプの改良
品目が限定される……完全人工型では照度が低く、レタス、ハーブ類等の葉物類に限定/太陽光型では比較的植物の種類が豊富に選べる。
知名度が低い……トレサビリティ関連、店産店消の野菜商品としてPR不足である。
【植物工場の課題】
低電力消費LEDは赤色、青色光線が重要。冷却と除湿が大事で耐用10万時間まで持たない。
消費者は「自然で太陽光を浴びた野菜を食べたい」要望がある。→植物工場産野菜のメリットとPR不足。
コストの低減と省力栽培、初期投資の資金大、環境保全の切り口からもPRが必要。
【試食、「植物工場産野菜の魅力」】
チョイスが増える楽しみ
思っていたより安心安全、洗わなくても手軽に食べられる
あくが少なく他の食材を邪魔しなく、食べやすい
ドレッシングと絡みやすい
価格が高いのが欠点
新しい農業、雇用のスタイルに期待が持てる
試食セット
【アンケート結果】
<出席者の「植物工場」についての認識> n = 120>
「植物工場」の知識
1
熟知
4.2%
2
少し
65.0%
3
なし
18.3%
4
不明
12.5%
「植物工場産野菜」の試食経験
1
あり
43.0%
2
なし
44.0%
3
不明
13.0%
<アンケート集計結果>
1.セミナー参加の目的 (複数回答)
a.植物工場のことが知りたかった
81
b.植物工場野菜を試食したかった
42
c.今回の講師の講演を聞きたかった
39
d.さそいを受けたから
14
2. (1)「完全制御型植物工場の現状と認識」についての感想 (任意)
・イメージが良くなった
・歴史的なことも聞きたかった
・考え方が新鮮だった
・採算性についての話が聞きたい
・未来の食糧に期待
・最終的には鮮度・味で選ばれる
・2015年が楽しみ
・「植物工場」という言葉が問題では?
・現状の課題がわかった
・普及には時間かかりそう
・最近の進歩について知りたい
・有機農業の信仰は根強い
・養液による差を知りたい
・太陽と土が好き
・LEDが栄養価を向上させるとは知らなかった
2. (2)「太陽光利用型植物工場とは何か」についての感想 (任意)
・日本の農業の現状がわかった
・低コストの研究が必要
・千葉大の立場がわかった
・日本の農業は元気です
・千葉大学を見学したい
・太陽光利用型と人工光型の違いが良くわかった
・身近にあることが判った
・ハウス栽培の延長線上にあることがわかった
・普及が急務であることがわかった
・食糧安全保障との関連が興味深かった
・もう少し詳しく聞きたかった
・消費者は普通のハウス野菜との違いは知らない
・個人では初期費用が負担になる
・自然エネルギー利用を優先してほしい
・養液栽培の安全性、栄養価の情報が不足している
3.「植物工場産野菜の試食」 (1)試食結果 (択一) ※記入漏れが多い
a.良かった
47
b.どちらとも言えない
25
c.悪かった
4
3.「植物工場産野菜の試食」 (2)感想 (任意)
・話がわかりやすかった
・シャキシャキ感あるが深みがない
・見た目はきれい
・レタスは味が薄かった
・食べ易くやわらかい
・葉物は苦かった
・思ったよりみずみずしかった
・ほとんど味がしなかった
・どれもおいしかった
・新しいタイプの野菜という考え方に賛成
・トマトは甘かった
・洗わずに食べれるのはコスト、手間の点で良い
・植物工場産と明記した方が良い
・見ただけでは慣行野菜と区別つかない
・「多様性」で良い、共存すべき
・通常はドレッシングかけるので比較は難しい
・味は変わらない、価格が問題
・トマトはもう少しトマトくささがほしい
・あくが無いのが良いとは限らない
4.セミナー全体についての感想 (任意)
・植物工場について理解できた
・植物工場事業者の話も聞きたい
・試食できたのが良かった
・講演資料がほしかった
・一般者向けでわかりやすかった
・講演時間が短かった
・時間、内容共によかった
・質疑応答の時間がもう少しほしい
・植物工場への期待が大きい
・講演と試食がありトータルで理解できて良かった
・栄養価の比較をもっと知りたい
・講演順は太陽光利用型を先にした方が良い
・肥料の話をもっと聞きたかった
・質問者が偏っていた(一般消費者でない)
・他の野菜も味わいたい
・まだ植物工場野菜を買うメリットが感じられない
(報告 事務局 真柄 佐弘)
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