●野菜と文化のフォーラム 総会記念講演会●

「野菜の機能性を生命食として考える」
〜農業と科学者の目を持った八百屋の取り組み〜
【開催日時】
平成23年5月23日(月) 15:30〜17:00
【会場】
女子栄養大学駒込校舎3号館5F  松柏軒
【講演】

野菜の機能性を生命食として考える
〜農業と科学者の目を持った八百屋の取り組み〜

デザイナーフーズ株式会社 丹羽真清氏

■デザイナーフーズ株式会社とは
 デザイナーフーズ株式会社は、野菜の流通業として、外食のお客さまに野菜をお届けしているデリカフーズ株式会社の子会社です。1992年に、アメリカから「デザイナーフーズ計画」が日本に紹介されました。そこで、私たちは、野菜の研究をすることにしました。最初は、毎日、野菜の糖度を測っていたのですが、その後、抗酸化の研究をするようになりました。

デザイナーフーズ株式会社 丹羽真清氏
■平均寿命と健康寿命
 今、日本人の平均寿命は83歳で、健康寿命は75歳。差が8年あります。この差を短くしないと、日本の経済の健全化につながりません。92〜93兆円の国家予算の中で、35兆円の医療費がかかっており、国の経済を圧迫しています。高齢者が障害を持つ期間は3年間になるのが理想ですが、先進国で3年以下のところはなく、だいたい6年ぐらいです。昨年9月の発表で65歳以上の高齢者は22%でしたが、今、23.1%、4〜5人に1人になろうとしています。1955年頃、日本人の寿命は50歳でした。それから60〜65年の間に、30年寿命が延びました。そこで、私たちは、年を重ねても、なるべく老化しないようにする必要があります。健康で長く生きたいと思うのは当然だと思います。2010年の医療費が約35兆円。その中で、高齢者の医療費が1/3以上。このまま、あと10〜15年経つと、56兆円になるといわれています。高齢化が進み、生産性が上がらなくなる中で、今の日本の税収入を超えることは避けなければなりません。

 われわれは11年前から、「外食の方たちと一緒に、食と野菜ビジネスで国民を健康にしたい」ということを目指してきました。外食で提供する食事がいかに影響するか、1軒1軒の外食のオーナーにお話をしました。今、外食比率は約43%。1日に1食以上、外食をしていることになります。その食事が1食でも、メニューすべてが健康に関与するものになったら、国民の健康は変わってくるのではないでしょうか。1997年に、外食の売上げが29兆円になりました。今は5兆円減って、24兆円です。外食の方たちには、おいしいだけではなく、体にいいメニューを出していただく必要がある、と考えています。

■「ファーム・トゥ・ウェルネス」
 われわれは、「農場から食卓へ健康を届けたい」ということで、「ファーム・トゥ・ウェルネス」という言葉を提唱しています。高齢化社会に対応して、食べ物で健康に年を重ねていく。それが、「ヘルシーエイジング」です。人生80年時代、健康で人生を全うするには、どういう野菜がいいのか。圃場から、タネ、栽培方法、メニュー、どのように調理をして食べたらいいのか、何と組み合わせればいいのか…。そして、食べて体の中で代謝されるとき、本当に吸収されているのか、といったことを研究しています。野菜の成分をしっかり知って、素材の選択、組み合わせ方、調理方法、そして、食べ方をデザインする。また、野菜の成分、機能性を含め、メニューに科学的根拠をつけたい、と考えています。

■健康で長生きの条件
 研究者の方々は、健康で長生きの条件はエネルギーをとりすぎないことだ、といわれます。しかし、私たちのお客さまは外食の方なので、エネルギーをとりすぎない、ということだけを提唱すると、メニューが売れません。むしろ、エネルギーを多少とりすぎても、抗酸化力の高いメニューにすることによって、メタボリックシンドローム等を防ぐことができるのではないか、という仮説を考えてきました。これが、最終的に、医療費の削減に繋がる、と考えています。

■どうして老化するのか
 私たちはどうして老化するのでしょうか? 一般的に、体重あたりの酸素消費量によって、寿命が決まってくる、といわれています。つまり、ゾウのように体重があるものは、体重に対して酸素消費量が少ない。だから、長生きをする。ネズミに比べて、ゾウのほうが長生きです。人間は、体重60キロの動物だと考えると、寿命は50年。しかし、聖書の中では、120歳まで生きる、といっています。科学者は、人間は体を酸化させないものを食べて、50年の寿命を80年にすることができる、と考えています。しかし、本来は120歳まで与えられているものを、私たちは何らかのストレスで80歳台まで短くしている、という考え方もできるのではないでしょうか。

■活性酸素
 老化を早める原因のひとつが、「活性酸素」です。空気中には、酸素が約21%含まれています。この酸素の中の約2%が体の中で活性酸素になります。普通に息をして生活しているだけでも、活性酸素ができます。タバコを吸う、アルコールの飲み過ぎ、激しい運動も問題です。また、太陽光線の紫外線を浴びると、体の中で、一重項酸素という活性酸素ができます。活性酸素を作る一番の要因は、ストレスです。ストレスによって、普通のスーパーオキシドという活性酸素が、ヒドロキシルラジカルという怖い活性酸素に変わっていきます。また、大気汚染も、私たちの体を老化させる原因になっています。

 活性酸素には、メリットもあります。ひとつは、抗ウイルス作用。白血球の中の顆粒球で活性酸素を作ることによって、風邪やインフルエンザなど、外から入ってくるウイルスに対抗してくれます。また、食事をすると、酸素と食べ物で、エネルギーができます。さまざまなホルモンの合成にも役立っています。一方、活性酸素のデメリットは、体が酸化されて老化していくこと。そして、生活習慣病などを悪化させます。われわれは、このような活性酸素を食べ物がどう消してくれるのか、ということを分析・研究しています。

 人間は、50歳くらいまでは、活性酸素を消す酵素、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)を体の中で作ることができます。しかし、50歳を過ぎる頃から、SODを生産するチカラが急激に減ります。若いころは、何かを食べて一晩寝たら、元気になります。しかし、次第に寝ても疲れがとれなくなるのは、SOD物質が作れなくなるからです。この急激に下がることを、食べ物によってなだらかにしたいと考えています。

■大学の先生方との協力研究
 京都府立大学、三重大学など、さまざまな大学の先生方に一緒に研究していただいています。私たちは、お客さまに、大学の先生方に研究していただいた内容を情報として出すことを仕事としています。研究項目は、13ほどありますが…。その中で、特に、野菜の成分分析のデータを基本にデータベースを作ること、野菜の抗酸化力を3種類の方法で測定することを中心としています。野菜の抗酸化力だけではなく、おいしいものは本当に抗酸化力が強いのか、食品の組み合わせ、調理方法によって、どう抗酸化力が変わるのかなど、メニュー自体の抗酸化力も測定しています。

 野菜には、私たちの体に免疫力をつけるチカラがある、ということがわかってきました。免疫力はこれまで2種類の方法で研究してきましたが、今年から新たな方法をとろうと考えています。その他、香りで野菜を判断する。おいしい野菜とそうではない野菜が、われわれの遺伝子にどう影響しているか。人の60兆個の細胞が毎日100万個くらい壊れていく中で、食べ物が本当に修復してくれているのか。体の中での効果を汗と皮膚ガスで判断する。土の菌層を測り、本当にいい土が作られているかどうかを判断する。ダイコンやサツマイモなどのセンチュウ被害を防ぐのに、有害センチュウがいるか土壌診断をする。このような研究もしています。

■活性酸素を消去するフィトケミカル
 さて、活性酸素の話に戻りますが…。活性酸素を消すのは、野菜の中のフィトケミカルです。フィト=植物、ケミカル=化学成分。つまり、野菜の中の化学成分が、活性酸素をどう消してくれるのか、ということです。フィトケミカルについては大学の先生方が研究をしてくださっており、われわれは、これが、体内の活性酸素とフリーラジカルをどのくらい消してくれるのか、そのチカラを「抗酸化力」として表現しています。

 野菜は、私たちにとって命の源、「生命食」である、と、私は外食のお客さまにお話しています。太陽の紫外線を浴びて、植物が育つ。そのとき、野菜の中で、カロテノイド、ポリフェノール、イオウ化合物などのフィトケミカルが育ちます。紫外線のない植物工場で作られた野菜は、測定すると抗酸化力が低い。ですから、太陽光線の紫外線が非常に大事だ、と感じています。紫外線をしっかり浴びた野菜を、私たちは、食事の中の命としていただく。それが、「生命食」です。フィトケミカルの成分の名前はなかなか覚えられませんが、色で判断できます。お皿の上がきれいな色であったら、抗酸化物質であるフィトケミカルをたくさん摂っている。例えば、黄色のルテイン、フラボノイド。赤のリコピン、カプサイシン。オレンジの、プロビタミンA、ゼアキサンチン。グリーンのクロロフィル。紫のアントシアニン。白のイソチオシアネート、硫化アリル。黒のクロロゲン酸、カテキン。7色がお皿の上にのっていたら、きれいですね。きれいで、食欲を増す食べ物は、私たちに命を与えてくれる。その源はフィトケミカルだ、ということになります。

■旬の時は抗酸化力が一番高くおいしい
われわれは10年以上、野菜の分析をしています。年2000検体の野菜をつぶして測り、データベースを作ってきました。東京、大阪、名古屋のデリカフーズの分析担当者が、測定日、測定者、流通状態、品種、栽培方法、産地、生産者さんの名前、糖度、抗酸化力、ビタミンC、硝酸イオン…。いろいろなことをデータベースの中に入れています。デザイナーフーズは、そのデータを集積し、高度な分析、研究をしています。数年前、ホウレンソウを1年間測定しました。今も続けており、7年間のデータを積み重ねることができました。その結果、旬のときは抗酸化力が一番高くておいしい、ということがわかりました。8月と1月を比べると、1月は、抗酸化力とビタミンCが約8倍、糖度が約3倍あります。硝酸イオンは、冬は1/10程度になっています。外食へ野菜の供給を始めたころは、いかに1年間同じ野菜を供給するか、ということに注力してきました。しかし、野菜を分析していくと、季節にあった旬のときの野菜を食べるということが大事だ、ということがわかってきました。ですから、外食の商品開発の方々や料理長に、数字をお見せして、冬には冬の野菜、夏には夏の野菜を使ってくださいと、メニューを提案しながらお願いしています。

 われわれは、1年を通じて、50種類の野菜、30種類のフルーツを分析しています。1〜12月までの統計をとると、1〜3月、霜が降りるころのキャベツは、抗酸化力、糖度、ビタミンCが高く、硝酸イオンが低い。キャベツを使う新しいメニューを出すときは、11月くらいから、野菜の旬に合わせて出してください、と外食の方にお願いしています。

 レタスには、普通のレタス、ロメインレタス、フリルレタスなどがあります。ロメインレタスは、普通のレタスに比べて、ビタミンCが多く、糖度も高くて、硝酸イオンが低い。フリルレタスというのは、水耕で作られる場合が多いので、抗酸化力が少し低くて、硝酸イオンが高くなっています。このように、糖度、抗酸化力、ビタミンC、硝酸イオンの4項目を測るだけでも、どういったときに、どのように野菜を使い分けたらいいかがわかってきます。こうしたことを最近やっと理解していただけるようになってきました。

■野菜は量ではなく質
 われわれは、野菜は量ではなく質だと考えています。1日350グラム野菜を食べることを農水省・厚生労働省は推奨しています。ただ、70グラムのサラダにすると朝1皿、昼に2皿、夜も2皿で350グラムです。サラダでは、なかなか食べにくい。火を通してかさを減らせば、食べることができるかもしれませんが、年をとって、歯が弱くなったりすると、毎日、350グラムの野菜を噛んで食べるのはむずかしくなります。そこで、われわれは、野菜の量ではなく質を摂るために、野菜を分析して、中身の価値を評価しようと考えました。野菜の90〜95%は水分ですから、抗酸化力が10%ほど高くなれば、270グラムで350グラムくらいの抗酸化力が得られることになります。極端にたとえば100グラムに減らそうということではありません。野菜は食べ物であって、サプリメントではありません。なるべくたくさん食べたいのですが、量が食べられないときは、中身のある野菜を食べる。では、中身のある野菜を、私たちはどう選んでいったらいいのか。今までは、その指標がありませんでした。これからは、中身のある野菜の選び方が大事になってきます。

 そのために、われわれは、野菜の中身を非破壊で測れる機械を開発しました。たとえば、トマトをベルトコンベアにのせてこの機械を通すと、1分間に60個以上というスピードで測れます。機械の中には、活性酸素を消すチカラなど、基礎的なデータをソフトとして入れてあり、出てきたトマト1個1個に★印がつきます。数値ではお客さまにはわかりにくいと思いますので、★の数でチカラがあることをわかっていただく。そして、★の数が多いほうは価格を少し高くする。こうした差をつけることが、将来の日本の農業を活性化することにも繋がるのではないでしょうか。

■デザイナーフーズ(株)が考える4つの分類
 測定を積み重ねた結果、われわれは、野菜を機能性で大きく4つに分けることができるようになりました。1つは、人の老化を防ぐチカラ、「抗酸化力」。2つめは、体の異常を知らない間に発見して治してくれるチカラ、「免疫力」。免疫力を高める野菜は、大根、ネギ、白菜、レタス、スイカなどが代表です。3つめは、「解毒力」。私たちは毎日約2キロの食べ物を食べており、いらないものも体の中に入れています。それをスムーズに体から出すことが、健康に繋がります。そのためには、肝臓で水溶性にして、汗、尿、便で出しやすくする。これを助けるのが、解毒力のある野菜です。4つめは、「酵素力」。60兆個の細胞を再合成していくときに必要なチカラです。酵素のチカラは、まだ分析が難しく、これからの課題のひとつです。

■野菜やメニューの抗酸化力を測定する3つの方法
 今、なぜ抗酸化力の測定にこだわるかというと、アメリカで、ORACという方法で、食品に抗酸化表示がされているからです。チョコレート、ジュース、紅茶などのパッケージに、アンチオキシダントパワーが高い、と表示して、販売されています。日本では、AOU研究会が、アンチオキシダントユニットをどのように表示するのか検討していますが、まだ決まっていません。日本では、これまで、7種類くらいの方法で抗酸化力が測定されていました。その中で、食総研等で行われているDPPH法、アメリカの農務省が特許を取ったORAC法、医学界で使われているESR法の3つで、われわれは分析をしています。

 DPPHというのは、薬品で活性酸素を作り、それをどのくらい野菜が消すかを測定する方法です。濃い紫の水に、野菜のエキスを入れると、抗酸化力が強い野菜の場合は、薄くなって消えます。濃さを目で見るだけではなく、分光光度計で数値化します。この方法で、われわれは、2万検体以上の野菜を分析してきました。その結果、パプリカ、大葉、イチゴ、菜の花の順で抗酸化力が高いなど、違いがはっきり出てきました。また、加熱をすると抗酸化力はどう変わるのか。白ネギを焼く、電子レンジにかける、ボイルする。これをDPPHで測定すると、生に対して焼いた白ネギは、2.5倍の抗酸化力を示しました。実際に、生より、焼いたネギはおいしい。おいしさと抗酸化力が一致するということもわかってきました。

 ORAC法は、Oxygen Radical Absorbance Capacityの略で、蛍光物質に対してAAPHというラジカルを入れ、野菜がこれをどのくらい消すかを面積で表します。DPPH同様、これも、人が作ったラジカルをどのくらい消すかを測定する方法です。

 ESRは、電子スピン共鳴装置といい、人の体の中でできる活性酸素とフリーラジカルを野菜もしくは私たちが食べている食事がどのくらい消してくれるかを測定するものです。われわれは、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素を、三角形の面積で表すことで、抗酸化力を表現しようとしています。たとえば、かぼちゃにしても、さまざまな種類のものがあります。これらをそれぞれESRという機械で測定すると、種類によって三角形の形も面積も違います。坊ちゃんかぼちゃは特に抗酸化力が強く、岐阜県産のすくなかぼちゃも抗酸化力が高い。栗かぼちゃ系や黒皮かぼちゃ系は、一重項酸素を消すチカラが強い、という結果になりました。機能性をこのように三角形で表すと、どちらに面積が傾いているかによって、食べ物の機能性がわかりやすく表現できます。

■機能性の高いメニュー作り
 ESRでスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素を、また、ORACとDPPHで、5つの活性酸素とラジカルを、菜の花で測定してみました。まず、生のときに測定して、熱湯の中に10秒入れて上げ、20秒入れたものを上げ…、というように食べながら測定していきます。そうすると、30秒のところで、抗酸化力が高くなりました。この結果、真っ青にきれいにゆであがって一番おいしいときが、活性酸素を消すチカラも強い、ということがわかりました。

 また、食材の組み合わせ方によっても違いが出ます。お客さまが作ったメニューの食材を変えて、ESRを使って測定しました。サラダでは、普通のレタスをロメインレタスに変えたり、キュウリやトマトをパプリカに変える、もしくは加えたりすると、メニューの抗酸化力を示す面積が広くなります。こうして、より機能性の高いメニューを作ることができるようになりました。

 活性酸素を消すチカラは、味の付け方でも変わってきます。菜の花のポン酢和え、カラシ和え、黒ごま和えを比較すると、黒ごま和えは、一重項酸素を消すチカラが強くなる、ということがわかりました。

 機能性の高いメニュー作りには、食材の組み合わせ方、季節、旬、産地の特徴を生かしていくことも大切です。産地によって、野菜の中身も大きく違います。自分が作りたいメニューを作るには、どの産地の野菜を選んだらいいのか。これは、食べながら測定していくと、よりよくわかります。食べないで測定だけをしていると、なかなか感じることができません。われわれは、必ず食べてから測定することにしています。

 焼く、蒸す、炒める、煮る、揚げる。こうした調理方法をどのように組み合わせたら、おいしくて抗酸化力の高いメニューができるのか。そして、単品なのか、セットにするのか、定食なのか…。きちんと、抗酸化力と免疫力を表現し、科学的根拠をつけて、おいしいメニューを出していきたい。われわれの研究から、おいしいものは抗酸化力が高い、メニューのチカラは数値化できる、おいしくて抗酸化力が高い野菜は価格が高くても売れる、ということを、実際に証明していきたいと考えています。

■免疫力等その他の研究
 次に、免疫力について。野菜には、「TNF-α」という、人間の体内のがん細胞を食べるサイトカインが含まれています。元帝京大学の山崎正利教授が、これを測定することで、野菜に非常に強い免疫力がある、ということを、実験的に出されていました。われわれも、その方法を教えていただいて測定したところ、バナナ、スイカ、パイナップルなどのフルーツにも、免疫増強剤よりも強い免疫力があることがわかりました。野菜の抗酸化力を測定したとき、レタス、白菜は、抗酸化力が低いので、あまり、食べても役に立たない野菜のように思えます。しかし、免疫力をTNF-αで測定していくと、レタス、白菜などは、免疫力が高いことがわかってきました。しかし、TNF-αだけで判断するのは危険なので、違う方法でも、野菜の免疫力を測定しています。これは、野菜に付いている菌が私たちにとって有効なのではないか、という仮説に基づいた測定です。今後、土と野菜の関係、野菜と腸の中の菌の関連性を調べていきたい、と考えています。

 また、NIH(アメリカ衛生研究所)で認められている第3のモデル動物、ゼブラフィッシュという魚を使って、遺伝子をみる研究もしています。一般的なトマトの抗酸化力が21、塩トマトというトマトの抗酸化力が71のとき、塩トマトを食べると、おいしい、と感じます。そのとき、抗酸化力の違いが、体にどう影響するのか。塩トマトのほうは、遺伝子の発現のチカラ、ひいては脂質代謝がよくなることがわかったのですが、このような実験を、人間で治験する前に、ゼブラフィッシュでしています。

 食べたものが本当に体の中で有効に働いているのかどうかは、尿の中の8-OHdGを測定して判断しています。8-OHdGを測ると遺伝子が酸化によって損傷を受けた度合いがわかります。何を食べると、私たちの遺伝子を修復してくれるのか。そして、過酸化脂質を少なくしてくれるのか。食べる前に尿の8-OHdGを測り、食べてから8-OHdGを測ると、この差で、どういう食べ物が修復してくれるのかがみえてくるようになります。

■野菜の中身を評価して販売する
 われわれは八百屋ですので、抗酸化力を測定した野菜を販売しなければいけません。今までは野菜をつぶして測定してきました。しかし、最終的には、非破壊装置で測定して、適正価格をつけて売りたい。抗酸化力の高いものと低いものは価格を変えて販売するということです。農家の方たちが一生懸命作られたおいしくて抗酸化力の高い野菜には付加価値がある、と考えています。機能性をひとつずつ判断して、たとえば、あまり機能性のないものは価格を80円に。少し機能性があったら100円、もっと機能性があったら120円。10〜20%くらいの価格差をつけて販売したい。これは、海外へ日本の野菜を輸出するときの基準にもなる、と考えます。TPPの問題で、海外から日本に野菜が安く入ってくるようになったら、日本の農業は戦えるのか…。本当に中身のある野菜を作れば、競争力があるということを示すことができ、農業を継続発展させることに繋がる、と確信しています。実際には、まだまだ野菜は、重量、形、大きさ、色で選別されています。安全性、おいしさはもちろんですが、抗酸化力、免疫力、解毒力という機能性を測定し、表現ができたら、中身を評価できる。われわれは、そういった野菜を売っていきたい、と考えています。

■医・食・農・工の連携
 そのために、デリカフーズグループでは、デリカスコアーという、野菜の機能性を含め、野菜を評価する基準を設けています。生産者の方々が作ってくださったものを、われわれの基準にあててみたときに、どのくらいの数値になるのか…。測定して落とすのではなくて、啓蒙していくことが目的です。医・食・農・工の連携の中で、トータルに考えると、農場から食卓へ健康を届ける、ということの中に、農業の健全化が食の健全化に繋がり、自給率アップが、食による病気の予防に繋がっていく。野菜と食に科学的根拠をつけることが、医学に繋がっていきます。京都府立大学の吉川先生は、「アグロメディカルイニシアティブ(AMI)」を作られました。その中で、「アグロメディカルフーズ」を生産してほしい、と提唱されています。アグロメディカルフーズは、医学的に疾病予防の有効性が実証された食品のこと。つまり、機能性のある生産物、野菜を生産してほしい、ということです。

 われわれは、「ファーム・トゥ・ウェルネス」として、フィールドサーバーによる農場の管理から、継承できる農業を提案したいと考えています。親が息子に何年もかけて農業の仕方を教え、経験を継承していくことも大事ですが、手軽に栽培管理ができることを重視したいと考えています。今、植物工場がたくさんできています。この植物工場でも、機能性を重視した野菜を作っていただきたい。

 われわれは、トレーサビリティをしっかり取り、デリカスコアーで判断し、野菜を非破壊で測定して抗酸化力、免疫力のチカラを表現して販売し…。野菜を使ったメニューに、抗酸化力、免疫力の表現をしていきたい。そして、食べたとき、体の中でどう働いているのか、みなさんが持っている携帯電話やスマートフォンを手に持ったときに、皮膚ガスや汗で健康状態を感知して、携帯電話を開いたら、今日のおすすめメニューが情報として出せる。これが、本当の健康管理ではないか、と思います。まだちょっと時間がかかるでしょうが、もう少し研究をしてこうしたことを可能にしていきたい、と考えています。

■食で健康寿命を延ばす
 食で健康寿命を延ばすには、フードサービス業(外食)が食の病院になること。どのメニューを頼んでも、私たちの体にいい、ということ。そして、スーパーで売られているものも、すべて私たちの体にとっていいものになること。そのために、われわれは研究を進めています。

■野菜を機能性で販売する八百屋「ベジマルシェ」 
 私たちは、「ベジマルシェ」というお店を赤坂のアークヒルズの中に作りました。抗酸化系の野菜、免疫系の野菜、解毒系の野菜と、機能性でコーナー分けをして野菜を販売しています。私たちがスーパーで買い物をするとき、いい野菜、悪い野菜の判断はなかなかつきません。ベジマルシェでは、野菜とフルーツの試食をしていただきながら、きちんと説明をして、販売しています。例えば、ミニトマトは、抗酸化力の高いトマトと低いトマトを分けて、価格を変えています。召し上がっていただいて、納得するほうを買っていただく。値段で買いたい、という方もいらっしゃいますし、おいしさと機能性で買いたい、という方もいらっしゃいます。

 また、ベジマルシェでは、冬にはキュウリをおきませんし、夏にはホウレンソウをおきません。お客さまに、「今、キュウリないの?」と聞かれることもありますが、夏には夏の野菜、冬には冬の野菜…、ということをご説明しています。このほか、今、日本人に足りない栄養素を説明しながら販売したり、測定した野菜でサラダやジュースなどを作って販売しています。

 こうしたことを広めていくために、ベジタブル・セミナーも開催しています。「どうして野菜を食べるといいの?」ということから始まり、野菜の抗酸化力、免疫力、解毒力。また、ヘルシーエイジング、アンチエイジング、野菜で美肌など…。私たちが研究したこと、そして、これから広めていきたいことを、一般のみなさまや、外食の方にお話しています。地道な活動ではありますが、野菜を分析することによって、その中身がわかり、おいしさと季節の関係、そして、体にどうはたらくか…。こうしたことをみなさまに知っていただきたい、との想いから、このような活動をしています。これからも、もっともっといろいろな研究をしながら、一般の方にも波及していければ、と考えています。