●「野菜を食べ比べ」て、美味しさの真髄を学ぶ●
江澤正平さんの『野菜の学校』 NPO法人野菜と文化のフォーラム
- 2005年 9月期の学習 -
日時:2005年9月3日 PM2:30〜 場所:東京都青果物商業協同組合ビル8階会議室
“百聞は一見”は、一口(ひとくち)に如かず。
『9月の野菜の食べ比べ』:トマト、山芋(長イモ・大和イモ)、大根。
野菜は「食べ物」なけれど、「植物」。美味しい野菜を知る1歩は、植物の性質を学ぶこと。「植物学」の授業で始まる『野菜の学校』の、“アタマを耕す”始業のベルが鳴る──
先陣はいつものように、講師の荻原佐太郎元千葉農業試験場長──
トマト
は、わが国で食用とした歴史は新しい。昭和初期、大果で、甘みに富んだ桃色系の品種がアメリカから導入され、日本独特の品種としてポンテローザが栽培されます。伝説の逸品といわれたトマトでしたが、現在、嗜好が高糖度でフルーツ感覚に変わり、酸味を嫌う品種改良が主流になっています。
トマトの赤味はリコピン成分で、元来、暑さに不向きの植物ですから、暑い日差しに表皮を黄色にし、カロテン成分に変化します。桃色トマトと赤色トマトとの違いは果皮にカロテン色素(この黄色が敬遠されています)が有り(赤色)、無し(桃色)で決まります。味の観点からは“一皮剥け”ば同じなんですけれどね…。
山芋
は、ヤマノイモ、ジネンジョ、ダイジョの3種に大別され、日本の山野に自生したジネンジョ以外は東南アジアを原産。雌雄異株、肥大根は担根体(茎と根の中間体)を特長とし、高温を好み、昼夜の温度差が優良品を生む。周年出荷が可能で、調理法により需要拡大が望める作物です。
大根
は二度目の登場になりますが、今日は春・夏播きの夏どり大根です。大根は周年栽培の作付体系を確立したことで、1年中供給され200万トンを消費するナンバーワン野菜です。植物的には繊維が多く、辛味も増し、辛味は太いものならば少なくなりますが、夏場に煮物を食べられるのはうれしいことです」
江澤正平さんの出番…
、「野菜の学校」名物の “味の辻説法”。
「皆さん、野菜をなんと心得る! 野菜には“植物”、“商品”、“食べ物”の3つの顔があるのである。元来、植物は自然にあったもので、ここから種子を取り、種子を播いて畑で商品にし、食べ物になった。こうした農業が地球に登場しておよそ3万年ほど。日本では縄文期であり、2000年前である。種子の歴史をみると、日本には明治以降に海外から大量の外来品種が入ってくるが、わが国でも積極的に育種場を設けて振興する。ポンテローザなどは、その代表的なトマトであるが、私は“ポンテローザに埋もれて死にたい”と思うほど“美味しい”のだけれど、市場からは消えた。ポンテローザが消えたのは何故か、敢えて問う!“味を聞く、見る”情報だけが溢れて、本物の“舌“の情報がないからだ。
賢明な諸兄よ、ポンテローザを食べてみよ! “百聞”、“百見”からの“美味しい”なんてに意味はない。ただ“ひと口”から感じる味覚あるのみ!」
そこで今月の教訓は
、『食べ物の歴史を頭で学び、自ら口で味を確かめる』
最終授業は「食べ比べ」の時間──
さて、本日の“利き味”の結果はいかに?! 完熟もの、美味し!。結論ここにあり。
本日の受講生43名。お世話をした人9名。調理指導・荒井慶子さん
【閑話休題】
東京青果個性園芸事業部の東海林邦子さんの、食べ比べ野菜の産地と市況の説明。トマトは大玉系からミディー系、ミニ系に売り場に変化があり。消費者の嗜好より、売り場面積と売上の関係に理由ありとか。播種期(種蒔き時期)に長雨で、トマトは全般に高値傾向。
大根・トマト・やまいもの品目一覧表 (17.9 供試野菜協力:東京青果)
品 目
県
産 地
品 種
種苗育成
備 考
大根
北海道
JA ようてい
夏つかさ
トーホク
「献夏」なども栽培多
北海道
美瑛町
夏つかさ
トーホク
肥大早く、ウイルスに強い
青森
東北天間
晩抽夏街道
吉田種苗
地元品種、コンテナ出荷
トマト
北海道
GM 商会
桃太郎T−93
タキイ
後半まで樹勢保持
青森
JA 田子
桃太郎8
タキイ
味色よく桃太郎より多収
岐阜
JA ひだ
桃太郎8
タキイ
福島
JA 南郷会津西
桃太郎8
タキイ
ミニトマト
茨城
JA 茨城旭村
アイコ
サカタノタネ
肉厚プラム型、裂果少
北海道
旭川
サンチェリープレミアム
トキタ
裂果少ない
ナガイモ
北海道
帯広個性園芸出荷組合
幕別長田農場
青森
JA 富 萢 ( やち )
庄二
渡辺採種場
青森
グリーン情報
トロフィー1066
渡辺採種場
1975 突然変異種、商品名「ねっとりながいも」
ヤマトイモ
埼玉
JA くまがや妻沼
田中健夫、沖積土産
千葉
JA 多古町
北総台地、火山灰土産
カボチャ
岐阜
JA ひだ
すくなカボチャ
参考出品
北海道
GM 商会
イーテイ
参考出品
ササゲ
岐阜
JA ひだ
アキシマササゲ
参考出品
ダイコンでは千切り生とおろしで味わった。ダイコンの旬は「秋冬期」で、講義によると生育初期は高温で、中・後期は低温環境のほうが生態に合っていて形状・品質とも一番よい。品種改良や農業資材が進んで、春や夏にも食べられるようになった。ダイコン本来の生態から見れば逆の環境の中で育った今日のダイコンの味は、いかがだっただろうか?
9月のトマトは平坦地の産地から高冷地、東北・北海道に主力が移動している。野菜は「いつ」「だれが」「どこで」「どのようにして作ったか」により同一品種でも微妙に味が違い、工業製品のようには同じにならない。また、食味の評価は個人それぞれで糖・酸度、肉質、香り、うまさのほか外観、色択、固さ、果温、さらにはそのときの体調・・などいろいろ複雑な要素があって、「おいしくないのは共通」するが、「一番おいしい」のはよほどの差がない限り一つにならない。トマトも食材の一つとみれば、ほかの食材と一緒になるとまた評価が異なってくる。このことによりいろいろな品種が生まれ利用されることは好ましいことである。
やまのいもはナガイモ3、ヤマトイモ2点で食べ比べた。前・後者では粘度の違いが明白でありおのずと用途も異なる。産地による重たい土(沖積土)と軽い土(火山灰土)栽培の食味の違いはナガイモで少なく、ヤマトイモの火山灰土産の粘りが強かった。
ヤマトイモを使ったいくつかの料理法(おそうざい精進料理:三光院・祖栄禅尼の手つくり(中央公論社1980))が荒井慶子さんにより提示された。
参考試食・カボチャ 8月に地方野菜研究会で伺った飛騨の「すくな南瓜」と、北海道産「イーテイ」は、やや粘質であったがどちらも良味だった。
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