タイトル<野菜の学校>
● 2010年度「野菜の学校」 ●
- 2010年5月授業のレポート -


竹の子の展示

 今期は「日本の伝統野菜・地方野菜」をテーマに、毎月、一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「野菜数種の生・加熱による試食」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。

開催日:

2010年5月8日(土)

会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

京都の伝統野菜
「京竹の子、丹波つくねいも、賀茂なす、水菜、壬生菜、伏見とうがらし、万願寺とうがらし」

【講義】

「京野菜とその復興の取り組み」

 (社)京のふるさと産品協会常務理事  太田善久氏

 太田善久氏は、京都府の初代ブランド対策係長として京野菜ブランドの確立に尽力され、現職にて引き続き発展に寄与されています。長年、陣頭指揮を執ってこられた方ならではの、京野菜独特のブランド価値の背景・事情を、協会のユニフォームであるはっぴ姿でお話しくださいました。

太田善久氏

<講義より>
 京野菜は産地の規模が小さいために国の補助が受けにくく、京都府として振興に取り組まざるを得ませんでした。そのために作ったのが「(社)京のふるさと産品価格流通安定協会(略称:京のふるさと産品協会)」で、発足は昭和47年にさかのぼります。

 実際、京野菜は川沿いの階段状の畑で作られていることが多いもの。狭く、経営規模が小さいため、質で補ってコストを上げないと生産者の生計が成り立たないという特有の事情があります。また「京野菜」という名称自体、一般名称であるため、例えば他地域で栽培された水菜を京野菜としても違法にはなりません。こうした状況から、京野菜のブランドを確立するためには、対象品目を絞り込み、栽培方法や出荷規格を厳格にする必要がありました。

 伝統野菜の基準は各地で異なり、一般には昭和20年以前から栽培されていたものですが、京都は明治以前、江戸から栽培されていたものを「伝統野菜」と位置づけています。こうした伝統野菜は京の都で選りすぐられたものが多い一方、以下の短所も抱えています。

  • 病気に弱く、収量が上がらない
  • 出回り期に特徴がない
  • 日持ちしない
  • 作りにくく、栽培に手間と熟練技術を要する
  • 自家採種のため、産地としての斉一性に欠ける

 こうした短所のために、戦後、様々な品種が種苗会社から出されるようになると、例えば山科なすなどは千両なすにとって代わられ、栽培されなくなりました。京都大学の高嶋四郎先生はこのままでは京野菜がなくなると憂い、昭和50年、遺伝資源として種子保存に乗り出したのが振興の契機になりました。京都の瓢亭や菊乃井などの料亭が「京野菜あってこその京料理」ということで支えてくれ、さらに有識者や料理人の方々が「京野菜を復活させよう」とシンポジウムを開くなどの応援があり、以後、経済界や文化人も一緒になって京野菜の復活に取り組む流れができたのです。グルメブームも追い風になりました。

 平成になって本格的に京野菜のブランド推進事業がスタートしました。とはいえ、京野菜は、量においても産地においても独立性も優位性もなかったので、試行錯誤でした。今では普通になっている水菜の若採りを袋詰めしたものも、その頃の発案です。最初は非難ごうごうでしたが、軸のシャキシャキしたおいしさを生かしてサラダで食べる提案が、CMで一気に人気になりました。

 平成5〜6年までは品種へのこだわりが主で、栽培はあまり問題にしなかったのですが、知事が替わり、15代300年以上続く代々の篤農家・樋口昌孝氏の野菜に対する考え方の影響で、生育環境・栽培法も重視するようになりました。樋口氏は、野菜を作るのは土、その土を作るのが生産者の仕事であるという信条の持ち主です。現在、生産者は、農薬・化学肥料はなるべく少なく、土作りをきちんとする栽培を進めており、栽培履歴を記帳して、それを農協中央会の検査員がチェックする体制をとっています。

 京野菜は、かつてに比べれば、京市民もあまり苦労せずに手に入るようになっています。作るだけでなく、食べてもらわなければなりません。京野菜は煮物材料が主ですが、女性が忙しくなってなかなか煮物料理をしなくなっていると聞くので、料理のレシピも提案しています。

 京野菜の振興は、京都の農業にもよい影響をもたらしています。この20年間の農業産出額を見ると、全国平均では20%以上も減っているのに、京都は9%の減にとどまり、野菜に限れば、全国は4,5%減に対して京都は13%以上増になりました。

 健康にもよいというデータも出てきました。ミネラルなどの栄養価に富み、発ガン抑制成分であるイソチオシアネートなど、機能性物質を多く含むというものです。辛みや臭いが強い野菜が元々もっていた成分を、品種改良の結果、最近の野菜は失いがちだそうで、伝統野菜である京野菜にはそれが豊富だというのです。

 「京野菜は高い」と言われますが、こうした様々な背景の中で成り立たせていることを、ぜひご理解いただければと思います。

 ☆   ☆   ☆

●スタッフである管理栄養士の松村眞由子氏からは、京野菜の普及は水菜からというお話がありました。また、竹の子のゆで方についての諸説を試した結果、皮つきで「ぬかととうがらし」を加えた一般的なゆで方が、最もうま味成分が逃げにくく、白くゆであがるようだとの所感が述べられました。竹の子の皮の中の亜硫酸塩が竹の子をやわらかく、白く、おいしくし、ヌカのでんぷんやカルシウムが竹の子のエグミを除き、とうがらしを入れることで、エグミを感じにくくしたり、腐りやすいヌカの防腐効果ももつのでは、とのこと。「昔の人の知恵はすごい」と改めて感じ入ったそうです。

●調理担当の領家彰子氏からは、「京都産の竹の子が最も早くゆであがって40分、他地域産は1時間くらいかかった」との報告がありました。

【食べくらべ】
※植物分類表記は、系統発生解析による新しいAPG分類体系に基づく。( )内は形態観察による旧分類体系

京竹の子をベースに、他地域産の孟宗竹4種、山形産の根曲がり竹を「だし、酒、薄口しょうゆ」で煮た状態で評価します。

  • 孟宗竹<イネ科> 5種
     京都
     山形県庄内
     加賀(石川県)
     東京都八王子
     千葉県山武郡

  • 根曲がり竹(山形県庄内)


竹の子の食べくらべ

 食べくらべのコーディネートは、農産物流通コンサルタントで当学校のスタッフでもある山本謙治氏。チーム内で分担して、1人が穂先なら穂先だけというように竹の子の同じ部位を食べるように、また自分たちで指標を作り、5段階で評価してみることを奨めます。もちろん、「おいしい・まずい」の表現はタブーです。

 各自で5種の孟宗竹と根曲がり竹を食べくらべた後、5〜6人のグループに分かれて意見交換・発表がなされました。

<主な意見>

  • 指標は、エグミ、歯ごたえ、味、香りの4つにした。京都産は別格の味わで上品な甘さがきわだち、香りもまさに別格、普通の竹の子ではない、という印象だった。山形は固く、東京はやわらかい印象。千葉は竹の子らしい味がした。
  • 神奈川の八百屋。私にとってはエグミが竹の子の判断基準。その意味では、京都、石川はほのかなエグミ、東京、千葉はエグミが強い。繊維の質が違う。料理するとなると、味が沁みにくいのは山形か。甘味は京都が一番。東京と千葉は期待の固さ、エグミで、自分にとってはこういうのが竹の子である。
  • 石川の問屋。いつも石川産を食べているが、京都の竹の子を食べて、これは勝てないと思った。京都は白くてきれいで、きめが細かい。比べて、関東は黒っぽい。順位をつけるなら、京都、石川、山形の順か。
  • グループ内の生産者が竹の子の真髄を熱く語ってくれた。とにかく堀り立てがベスト、やがて水が出、それが終わるとエグミが出るそうだ。今日の京都産は甘み、エグミがほどよく、味が濃く、他に比べて別格。堀り立てをぜひ食べてみたいと思った。根曲がり竹はまったく別のもので、涼しげな香りがした。
  • 東京で農業を営んでいる。京都産は白く、やわらかく、まさに別格。薄口の炊き合わせにして料亭で少しいただく竹の子、関東はおかず感覚でたくさんいただく竹の子。調理法も変え、楽しみ方がいろいろでよいのでは。
  • 指標はエグミ、見た目、香り、食感、味にした。京都は白く、きめ細かく、繊細で上品な味わい、甘みが強く、ジューシーだった。また、とうもろこしのような甘い香りがした。比べて山形はエグミが強く、のどがイガつく感じ。他は意見にバラツキがあった。根曲がり竹は、特に下のほうが固かった。

 山本氏から、根曲がり竹について、本来はアスパラガスよりすばらしい味わいで、優美な食感があるものとの補足がありました。

 

【京野菜とその料理】
 各野菜を生と加熱で試食。さらにそれらを使った料理を味わいました。
◆京竹の子 <イネ科>
  竹の子には孟宗竹、破竹、真竹、根曲がり竹、寒竹などがあるが、京竹の子は孟宗竹。色が白く、肉厚でやわらかく、エグミが少ないのが特徴。採ってからなるべく早く処理したほうが苦み・アクが少ない。堀立1時間以内なら生のまま刺身で食べられる。

京竹の子

竹の子ごはん

山椒風味のみそ炒め
◆丹波つくねいも <ヤマノイモ科>
 原産は中国の華南西部。丹波いもは皮が黒いのが特徴で、白いのは伊勢いも。でんぷんの分解酵素であるジアスターゼが豊富で消化を助ける。胃壁粘膜を保護するムチンも含まれ、消化のよいスタミナ食といえる。丹波つくねいもは特に粘りが強いことで知られる。

丹波つくねいも

すりおろして試食

落とし焼き
賀茂なす <ナス科>
 原産はインド東部。鴨なすの字を当てることもある。ヘタは「三つベタ」といわれる三角状で、特有の固いトゲがある。肉質が緻密でなめらかなので、煮くずれしにくく、田楽などにしても果肉がぐったりしにくい。
  オーブン焼き、みそ田楽で試食。

賀茂なす
◆水菜 <アブラナ科>
 ヒイラギナ、センスジナとも呼ばれ、深く細かな切れ込みがある。5訂食品成分表では京菜と記載。肉の臭みを消す働きがあることから鯨の「はりはり鍋」に欠かせない。臭みのない淡白な味わいと歯ざわりが特徴で、近年はサラダで人気に。いたみやすく、煮すぎると筋っぽくなる。

水菜

生と加熱(ゆで)で試食

水菜の煮びたし
◆壬生菜 <アブラナ科>
 水菜から分化したもので、地名の壬生から名がついた。葉の形から丸葉と呼ぶことも。食品成分表では水菜同様、京菜と記載。ピリッとした辛みとからしの香りが特徴。大株は主に京漬け物に、小株は水菜と同様に使う。

壬生菜

生と加熱(ゆで)で試食

壬生菜のサラダ
◆伏見とうがらし <ナス科>
 正式名は伏見甘長とうがらし。「ひもとう」「伏見甘」とも呼ばれる。カルシウムが多く、ししとうがらしの約2倍、食物繊維、ビタミンCも豊富。やわらかく、辛みがない。ししとうがらしより甘く、ピーマンより青臭くないやさしい味が特徴。葉も佃煮にして食べる。

伏見とうがらし

生とグリル焼き(写真)で試食

伏見とうがらしの佃煮
◆万願寺とうがらし <ナス科>
 大正時代に京都府舞鶴市にある万願寺地域で誕生したことから名がついたと言われる。舞鶴は貿易の町であることから、「カリフォルニア ワンダー」という大型ピーマンと伏見とうがらしが交雑してできたのではと、推察されている。肉厚でやわらかく、甘さと特有の風味があり、種が少ない。ビタミンAが多く、ピーマンの約2倍。

万願寺とうがらし

生とグリル焼き(写真)で試食

万願寺とうがらしの香味漬け
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