タイトル<野菜の学校>
● 2010年度「野菜の学校」 ●
- 2010年6月授業のレポート -


加賀野菜の展示

 今期は「日本の伝統野菜・地方野菜」をテーマに、毎月、一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「野菜数種の生・加熱による試食」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。

開催日:

2010年6月5日(土)

会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

加賀の伝統野菜
「加賀太きゅうり、金時草、加賀つる豆、加賀れんこん、五郎島金時」

【講義】

「加賀野菜の素顔と復興」

 (株)小畑商店代表取締役 小畑文明氏

 小畑文明氏は、金沢近江町市場で青果店「小畑商店」を経営するかたわら、加賀野菜の存続に危機感をもち、1990年「加賀野菜保存懇話会」を設立。農家には加賀野菜の栽培を、市場には販売コーナーの設置を依頼してまわるなど、加賀野菜の復興に尽力してこられました。そのご苦労と、加賀野菜の素顔や魅力について、方言たっぷりにお話しくださいました。

小畑文明氏

<講義より>
 加賀野菜は元々、京都に京野菜があるなら、金沢に相応のものがないのはおかしいと、京野菜に対抗してスタートしたもので、1991年に「加賀野菜懇話会」を発足させました。ところが、京野菜は京都「府」が主体で進めているのに対し、加賀野菜は、石川「県」ではなく金沢「市」が主体にならざるを得ません。それに、イメージ戦略上、当初から加賀野菜と命名していたのですが、この「加賀」という名は、かつての藩政の頃から小松方面を指し、金沢は実は加賀ではないのです。1995年に、金沢市長自筆ののれん「いいね金沢加賀野菜」を市内青果店230店に配布するに当たって、金沢市が主体である以上「金沢野菜」とすべきという市長と何度も交渉し、どうにか「加賀野菜」と命名することができました。

 次いで、加賀野菜の規格は、昭和20年以前から栽培され、主として金沢市内で作られている野菜としました。それまでは単なる「金時草」だったのが、金沢で作るなら「加賀野菜の金時草」になったわけです。行政は、追って1995年に金沢市農産物販売促進検討委員会を、1996年には金沢市農産物ブランド協会を発足させ、シンボルマークのシールを貼ってアピールすることになりました。

 加賀野菜の復活によって、農業関係者の雇用だけでなく、それ以外の雇用にもつながりました。

 しかし、中山間地の開発が進むにつれ、加賀野菜の栽培地の確保がきびしくなっています。例えば、セリは地下水のきれいな所でなければ育たないものですが、諸江にあったセリ畑が駐車場になってしまい、代わりの栽培地は見つからないという事態がありました。

 山がなくなると風向きが変わるなど、気候風土の変化が加賀野菜の質にも影響します。犀川の畔で栽培されていたヘタ紫なすが、山を削られたことで皮が固くなったのも、気候風土の変化によるものでした。

 そもそも伝統野菜は、篤農家がいなければ成り立たないものです。加賀野菜の場合、民間が行動を起こして行政が後追いになりましたが、共にがんばっていきたいと考えています。

 ☆   ☆   ☆

●この後、小畑氏から個々の加賀野菜のルーツや特性、食べ方などの紹介がありました。

●スタッフである管理栄養士の松村眞由子氏からも、各加賀野菜の使い方などの補足がありました。

【加賀野菜とその料理】
※植物分類表記は、系統発生解析による新しいAPG分類体系に基づく。

◆加賀太きゅうり <ウリ科>
 元々は、前田氏の藩政時代にシベリアから伝わったもの。金沢市では昭和15年頃から作るようになりました。富山県高岡にも同様のものが残っているのは、その地が前田氏の藩領だったから。加賀太は、金沢では冬瓜と同じ食べ方をします。縦割りにして中の種を除き、皮をむいて、煮たり、あんかけに。漬け物や、1cmくらいの厚さに切って、天ぷらもおすすめです。(小畑)

 白イボ太きゅうりで、果長22〜27cm、果径6〜7cm、果重700〜1kgにもなる。節成りにはならず、株当たりの収穫は10数果。カリウムが豊富で利尿剤としても利用される。果肉が厚く緻密なので、加熱しても煮くずれしにくい。ただ、皮が固いのでむき、種も除いて使う。生食、加熱どちらにも使え、「太きゅうりのあんかけ」は石川でよく食べられる夏の味。


加賀太きゅうり

加賀太きゅうり

加賀太きゅうりのあんかけ

◆金時草 <キク科>
 インドネシアから沖縄にかけて分布していて、沖縄ではハンダマ、熊本では水前寺菜と呼ばれています。各地でいためものや天ぷらにも使われているようですが、加賀では酢の物だけです。熱湯に入れて紫色になったらすぐに冷水にとると、ちょうどいい固さに。茎は挿し木にすればまた葉が出てくる、繁殖力の強い野菜です。夏野菜と思われていますが、実は10月頃が最盛期。寒暖差が大きい所が栽培に適していて、山間地で作られています。それも陽が当たりすぎる南斜面より北斜面のほうがいい。(小畑)

 和名は水前寺菜。金時草の名は葉の裏側の色が金時いもに似た赤紫色であることから。熱帯アジアから中国を経由して伝わったとされ、生育適温は20〜25℃。カルシウム、カロテン、鉄分が豊富で、葉の紫赤はポリフェノールを含み、抗酸化作用がある。ゆでるとぬめりが出る。生でサラダに、ゆでておひたしや酢の物に、いためると軸はシャキシャキする。ゆで汁の紫の色を生かして炊き込みご飯やうどんにも。


金時草

金時草の酢の物

金時草の炊き込みご飯

◆加賀つる豆 <マメ科フジマメ属>
 東京では千石豆、京都では藤豆と呼ばれているものと同じです。青臭いので煮物にすることが多いが、から揚げにして塩をふってもいい。(小畑)

 正式名は「ふじまめ」で、初夏から秋にかけて藤を逆さにしたような花が咲くところから名付けられた。各地にいろいろな呼び方がある。生育適温は13〜28℃で、高温には強いが、低温にはきわめて弱い。長さは約10cm、扁平な鎌のような形で、先端はクチバシのようにカーブしている。ビタミンB群、カロテン、鉄、タンパク質を多く含む。ゆでて、あえもの、天ぷら、煮物に。特に、さや全体に産毛のようなものがはえていて、独特の食感があり、汁のからみがよいので煮物に多く使われる。


加賀つる豆

加賀つる豆

加賀つる豆のみそ煮

◆加賀れんこん <ハス科>
 県外のものは食べないと言ってもよいほど、金沢の自慢のれんこんです。でんぷん質が非常に多くて粘りがあり、加賀の高級な伝統料理である「はす蒸し」には欠かせません。これは茶碗蒸しの卵のかわりに、すりおろした加賀れんこんを使っていると思っていただくといい。だんごにしてせいろで蒸してもいい。家庭では簡単にバター焼きにしたりもします。(小畑)

 加賀藩五代目前田綱紀が、参勤交代の折に美濃からハスを持ち帰り、金沢城内に植えて花を愛でたことが始まりとされる。太くて節間が短く、肉厚。特に先の二節がおいしい。れんこんはでんぷん質が多く、ビタミンB、Cを多く含み、加熱してもビタミンCが損失しにくい。すりおろしてだんご、蒸し物、揚げ物にするともっちりした食感が楽しめる。


加賀れんこん

加賀れんこん

加賀れんこんのいため煮

◆五郎島金時 <ヒルガオ科サツマイモ属>
 さつまいもも県外のものは食べないと言えるほど自慢の五郎島金時。金時といえば鳴門が有名ですが、3年ほど前に東京の大田市場で、鳴門と五郎島など有名所のさつまいもの食べくらべをしたことがありました。結果は、熱いものは鳴門のほうが五郎島より評価がよかったのですが、冷めたら五郎島のほうが上でした。五郎島は、キュアリングといって、収穫したらすぐに35〜36℃、湿度100%の部屋に3日間入れ、それから12〜13℃に落とすと、いわば仮死状態になり、その状態で貯蔵しています。この処置で、皮と実の間にコルク層ができ、水分が飛んで外からも入らない状態になります。それが、金沢で言うところの「コボコボ」、標準語なら「ホクホク」の味わいを作るのです。五郎島は9月に収穫したものが今までもっていますが、鳴門は水分が多いのでもちません。11〜12月頃に食べくらべると、五郎島のおいしさがわかると思います。(小畑)

 名前は、日本海に面した砂丘地の五郎島で栽培されたことによるもの。繊維質が比較的少なく、甘さが強い(糖度10〜12度)。食物繊維、ビタミンB1、C、カロテンが豊富。ビタミンCは29mgで、りんごの約7倍、しかもでんぷんに包まれているため、加熱しても損失が少ない。煮る、焼く、蒸すなど、加熱して食べるが、特に焼きいもでコボコボが味わえる。


五郎島金時

五郎島金時のオーブン焼き

◆へた紫なす <ナス科>
 へた紫は、なすそうめんで味わいます。なすを甘辛く煮て、固ゆでしたそうめんを合わせて、1日おいたものがおいしい。(小畑)

 へたの下まで紫色になることから名付けられた丸なす。皮が薄く、果肉が柔らかで甘みがあるのが特徴。なすの紫色はナスニンとヒアシン。クロロゲン酸などのポリフェノール類を含み、切り口が褐変したり、エグミの原因にも。クロロゲン酸は水にも油にも溶ける。漬け物、煮物、揚げ物などに。なすを甘辛く煮た「オランダ煮」、「なすとそうめんの煮物」が郷土料理として知られる。

 ☆   ☆   ☆

 上記の他、加賀野菜には、歴史のある金沢たけのこ、金沢春菊、せり、下仁田ねぎと同種の金沢1本ねぎ、朱色の皮が美しい打木赤皮甘栗かぼちゃ、短くて太く、きめが細かい源助大根、二塚からしな、赤ずいき、くわいがあります。

【食べくらべ】

 加賀太きゅうりと他のきゅうり2種、白うりの食べくらべ。それぞれ、生と1%の塩をして3時間おいたもの。加賀太は皮の有無で食感が違うので、両方用意しました。塩は石川県の珠洲産。

  • 加賀太きゅうり
  • 元西きゅうり(品種:シルフィー 秋田県産)
  • 半白きゅうり(固定種 奈良県産)
  • 干潟白うり(品種:カメリア あずまみどり 千葉県産)


きゅうりの食べくらべ


元西きゅうり

半白きゅうり

干潟白うり
 食べくらべは、もちろん、「おいしい・まずい」の表現はタブーです。各自で食べくらべ、「見た目」「食感」「香り」「風味」+「各自が決める指標」の5つの指標それぞれに評価をし、五角形のグラフに記してから、6〜7人のグループ単位で意見交換・発表がなされました。

<主な意見>
  • 第5の指標は「あと味」に。加賀太はあと味があまりなく、白うりは苦みと共に甘みが感じられた。加賀太はパリッとした食感で、反対に半白はモタモタした感じ。また半白は皮が苦く、しそっぽい風味があった。加賀太は生や塩より、加熱してあんかけにしたほうがおいしかった。

  • 加賀太は皮が固く、果肉はやわらかい。皮をむいて食べるほうが好ましい。元西きゅうりは可もなく不可もなくといった食べ慣れたもの。皮がないとだらしない味わい。半白は苦く、昔のきゅうりのよさを残しているように思った。白うりは苦みがあったりなかったりでムラがあった。ねっとりした食感もあった。

  • 加賀太は味が入りやすい印象。煮物に使うのが普通だが、生の食感が気に入った。半白は皮が苦く、果肉は甘かった。白うりは甘くて風味がよく、意外においしいものだと思った。

  • 加賀太は塩とのなじみがよい。半白は外見が好ましくなく、苦かった。きゅうりとうりは別物で、比較できない。半白やうりは長時間塩漬けしたほうがよさそうだ。

  • きゅうりのおいしさは歯切れと香りで、ブルームレスがスタンダードと思う。半白は塩で苦みが抑えられていたが、白うりはエグミを感じた。加賀太はゼリー質と皮を残して、その場で浅漬けしてもおいしいものだ。

 

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