◆変化に富んだ地形・気象から生まれた多様な食文化
青森は三方を海に囲まれ、中央に奥羽山脈が通っています。そこから日本海側が津軽、太平洋側が南部と呼ばれます。あまり仲が良くないなどといわれることがあるのは、気候・風土が違うだけでなく、言葉も気質も文化も違うからかもしれません。
夏場はオホーツク海からの北の風(ヤマセ)が吹くので、太平洋側の南部は低温多湿の日が多く、津軽は温暖で米やりんご栽培によい気候、冬は逆に、南部は乾燥して晴天の日が多く、津軽は冷たく湿った空気が奥羽山脈にぶつかって雪が多くなります。ほぼ県の中央にある青森市は両方の気候を併せ持っています。
東京に比べると、青森は変化に富んだ地形・気象で、昼夜の温度差が大きいといえます。こうした特徴を利用して、野菜、花卉、畜産を振興してきました。
日本の食糧自給率の低下が言われていますが、青森県は自給率121%で全国4位、農業産出額は2,828億円と東北第1位、全国でも8位(平成20年)と、農水産物が大変豊富な県です。
◆キャッチフレーズは「決め手は、青森県産!」
りんごは全国生産の半分を占めるほどで、やまのいも、にんにく、ごぼうの生産も日本一を誇ります。さらに豊かな海からの水産物も加わり、青森には郷土色豊かな多様な食文化が伝えられています。津軽は米主体の食文化、南部は雑穀(粉)、下北はいも、沿岸地方は海の幸といった具合です。また、瓶詰め、干し野菜などをうまく使った料理も数多くあります。けの汁、いちご煮、たらのじゃっぱ汁、せんべい汁、べごもち、下北のけいらん等々。青森の食文化のすばらしさについては、マンガ『美味しんぼ』100巻目でも絶賛された経緯があります。
青森の伝統野菜をご紹介していきましょう。
■ながいも(がんくみじか)
「がんく」とは葉が付いている細い部分。青森のながいもはこの首の部分が短く、肉付きがよく、色白、粘りが強いのが特長です。江戸時代に南部藩主が幕府に献上したという記録も残っているほど栽培の歴史が古いものです。
春に植え、11〜12月に収穫する秋掘りと4〜5月に収穫する春掘りとに分かれ、年間を通じて安定出荷できるようになっています。
カリウムを豊富に含むので高血圧予防にもなるといわれています。
■にんにく
青森はにんにくの産地としては日本最大で、7〜8割のシェアを誇ります。主に福地村(現南部町福地地区)の「福地ホワイト」という、白く、鱗片が6個前後の在来種が全県で栽培されています。鱗片が多い中国産とはすぐに区別できたのですが、最近は中国産にも6片種が出てきました。
にんにくはかつては薬剤を使って発芽・発根を抑えていたのですが、最近は薬剤を使わず、高温処理など貯蔵技術を駆使して、安全・安心な栽培に取り組んでいます。
にんにくに含まれるアリシンには殺菌効果が期待されます。ただし、胃腸の負担にならないためには、生なら1日1片程度に。最近「黒にんにく」という熟成させたにんにく加工品が登場しています。これはプルーンのような甘酸っぱい風味で、刺激成分が熟成によってアミノ酸に変わっているため、胃腸の負担も軽く、特有の臭いも弱いことから、ブームになっています。
■阿房宮(食用菊)
食用菊の王様と称される阿房宮が、江戸時代から盛んに栽培され、食べられてきました。元々は南部藩主が京都からもらい受けたとか、八戸の豪商が大阪から取り寄せたとか、諸説あります。鮮やかな黄色が美しく、おいしいこの菊が200年以上にわたって守られてきたのは驚くべきこと。
食用菊はビタミンB1,B2,Cなどを多く含みますが、生よりも1分ほど蒸してすぐに干した乾燥菊のほうが栄養分が増します。青森では、一年中使えるこの干し菊を汁や鍋に入れたり、酢の物、漬け物にと、さまざまな郷土料理にして伝えてきました。
■糠塚(ぬかづか)きゅうり
6下旬からお盆にかけて地元の朝市で出回る程度の幻のきゅうりといわれるものがあります。黒イボのシベリア系在来きゅうりで、果肉が固く、メロンのような香りがあります。
金沢の加賀太きゅうりに外観が似ているのですが、加賀太が加熱調理向きなのに対し、地元では糠塚きゅうりは生が一番と評されています。
■清水森なんば
津軽の在来とうがらしで、津軽藩主が京都から持ち帰って清水森地区に栽培させたのが始まりだそうです。口に入れた瞬間は甘みを感じるほどで、マイルドな辛みの、ししとうがらしに近いとうがらしです。糖分が多く、ビタミンBやCも豊富です。
清水森なんばは、8月いっぱいは青なんば、秋になると赤なんばと呼ばれ、10月まで収穫が続きます。
■うど
青森県の「冬の農業」の野菜として進めているものです。うどには、東京産が有名な白い「軟白うど」と、先に緑の葉が付いている「山うど」があり、東北地方はこちらが主流です。
畑地で株を大きく育ててから、ハウス内で、黒いマルチを被せ、土を加温して作っています。植えてから60〜80日、1月〜4月に収穫されます。ハウス栽培ですが、香りが高く、ほんのり苦みがあり天然物に近い味と好評です。
■たらの芽
これも「冬の農業」の品目であり、換金作物として栽培されています。山菜の王様とされるたらの芽は、寒い地のほうがおいしいといわれます。たらの木から枝を取り、節ごとに短く切りそろえて、ハウスの中で若芽を出させて早出しする「ふかし栽培」という手法です。これは東京より名古屋のほうに多く出荷されています。
■一町田せり
弘前市の一町田地区は清らかな湧き水が豊かで、寒くても一定の水温を保つため、江戸時代からせりの栽培で有名でした。冬場に葉物がとれない津軽藩にあっては、特に庶民に大変重宝がられたことでしょう。
津軽ではせりの収穫時期に当たる11月下旬以前から気温がグンと下がるので、せりの耐寒性が強まり、独特の強い香りとシャキシャキした食感が生まれます。12月〜2月に出荷され、鍋物、雑煮、きりたんぽなどに欠かせないものです。
■大鰐温泉もやし
津軽藩御用達で、冬の間だけ栽培されてきた津軽の伝統野菜です。ただ、栽培者が6名という少なさで、種は門外不出の在来種、今なお栽培法は秘伝で、一切口外されていないという大変貴重なもの。明らかになっているのは、温泉熱を利用した土耕栽培で、水道水ではなく温泉水をかけて育てるということ。豆もやしとそばもやしの2種あり、種は前者が小八豆、後者が階上早生。夏場に豆を、冬にもやしを作り、1週間で収穫できます。ただ朝3時に起きて作業を行い、出荷するなど、作業は困難なものだそうです。
じっくり育てられたこのもやしは、水耕栽培にはないシャキシャキとした歯ごたえと、ほのかな土の香りが何ともいえないうま味になっています。甘み・うま味をもたらすアラニンが、一般製法の大豆もやしの2倍以上含んでいるというデータも明らかになりました。
■おこっぺいも
元々は明治38年にアメリカから青森に導入された「バーモント・ゴールド・コイン」という原名の、男爵に近いホクホクしたタイプ。当時、白米一俵が5円30銭の時に、おこっぺいものたねいもは6個で3円と大変高価であったことから「3円いも」とも呼ばれました。
青森県奥戸(おこっぺ)地区以外の土壌では育たないと言われ、コクのある味わいから戦前は高級品だったものが、農家の高齢化から生産量が減る傾向に。そこで、水産業で有名な大間町が、その希少価値から陸の特産品として栽培を進めています。見た目は小ぶりですが、芯までホクホクして、ほんのり甘みがあります。
■寒締めほうれんそう
寒締めとは、冬場に収穫できるところまで育てた葉物類を、一定期間、ハウスの一部を開放して寒さにさらし、おいしく仕上げるという、寒い地域ならではの栽培法。最近の研究で、地温が8度C以下になると植物の糖度が増すことがわかってきました。
ほうれんそうは夏場なら30〜40日で収穫できますが、冬は10月に種をまき、2月に収穫するというようにゆっくり育てます。寒締めにすると株が開き、葉肉が厚くなります。よく似たちぢみほうれんそうは、元々そういう姿の品種。寒締めは形ではなく、寒さにあてることによって上がる糖度などの内部の品質を称するものなのです。
寒締めほうれんそうは、青森県の「冬の農業」の基幹品目の一つで、安定した高品質のものを出荷するために、栽培講習会、検討会などを地域で重ねています。
寒締めほうれんそうは栄養成分としても、ビタミンCやE、糖分の含有量が倍くらい多くなります。
■雪にんじん
もう一つ寒さを利用したものが「雪にんじん」。品種は「はまべに」で、普通なら秋に収穫できるまで育ったものを、そのまま土の中に眠らせ、雪が積もり始める12月から3月までの間、雪の中から1本1本、手作業で収穫されます。雪が深すぎると収穫できなくなるのです。にんじんは寒さに当たると外はボソボソした感じになりますが、中はにんじんの生理機能が働いて、身を守るために糖分が蓄えられます。野菜とは思えないほどのフルーティな甘さで、糖度が高いものでは12〜16度までにもなる、まさに雪国ならではのプレミアムにんじんです。
■促成アスパラガス
春から秋まで、露地で栄養たっぷりに育てられたアスパラガスの株を冬直前に掘り起こし、ハウスの中で根っこの部分を加温しながら育てたのが促成アスパラガス。光を当てるとグリーンに、真っ暗な中で育てるとホワイトになります。夏場に蓄えた養分のみで育てるので、安全・安心なのはもちろん、甘みがあって、エグミや苦みがほとんどありません。また、一般に春採りより冬採りのアスパラガスのほうがビタミンCが多いという報告もあります。
アスパラガスは鮮度が命、ぜひ青森産のとれたてをご賞味ください。
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