種はロマンと文化と歴史を秘めています。種のことを調べたり、自分で採り始めると、本当におもしろい。種子は誰のものか? 1978年に出されたP.R.ムーニー著の『Seed
of the earth』という、もう既に絶版になっている本があります。「種子は人類共有の財産であり、私物ではない」という著者からのメッセージを、私はいつも引用して紹介しています。
著書によると、世界の遺伝資源の原産地は11箇所くらいしかなく、特にオセアニアと北アメリカはいわゆる第三世界に強く依存しています。アメリカやロシアには種がなく、種が一番の元ということを知っているがゆえ、国家戦略として種を集めているというのです。遺伝子レベルの種をジーンといいますが、日本のジーンバンクに集められているのが15万種に比べて、既にアメリカは40万種以上。食料で世界制覇をすることがアメリカの国家戦略になっているのです。
作物を画一化すると、食糧危機から悲劇が起きる好例として、1840年代のアイルランドがよく知られています。主食のじゃがいもに大飢饉が起き、200万人が死に、200万人が逃亡したというものです。
日本でも、米は江戸時代には2,500品種あったものが、今やコシヒカリ系のわずか10品種を日本人の75%くらいが食べるようになっています。残りの米はどうなったのでしょうか? 野菜も同様です。30年くらい前までは、「あのおばあちゃんの作ったきゅうりはおいしかった」というようなことがありました。そのおばあちゃんが亡くなったら、そのきゅうりもなくなってしまったのです。
だから、私は種を集めたり、種や栽培の話を聞いたりしてきました。そのうち8年前に、「種」ではなく毎年作り続けている「人」に照準を当てた「ひょうごの在来種保存会」をつくりました。「種と種採る人」を発掘、応援し、交流するのが主な活動です。思いのほか会員が増え、このところ700人近くになっています。
在来種に対するF1種は大量生産用の種で、今の私たちは外食産業が選ぶ品種を食べなければならなくなっていると言っても過言ではありません。そこにしかないおいしい野菜、味わい深い野菜があるのに、あまりに残念なことです。
今はちょうど端境期で品数が少ないし、おかしなものは出したくないと思いながら、何とか用意しましたので、紹介していきましょう。私がこんな活動をしていて一番楽しいのは、これぞと思った野菜に名前を付けること! その好例の「八ちゃんなす」から始めましょう。
◆ひょうごの伝統野菜いろいろ(【当日のひょうご野菜とその料理】も参照ください)
・八ちゃんなす
作り手が八ちゃんなので、この名前を付けました。首に白い襟が付き、先がちょっとおっぱいのような形になります。肉質が緻密で、うまい。ただ、売れにくい欠点がちゃんとあって、温度が上がると皮の色がボケてしまいます。でも、うまいから、種をとるのが手間でもやめられないなすです。
・姫路れんこん
これは、かじったら糸を引くれんこん。近ごろのパリッとした白いれんこんとは違います。でも一流の料理人は、こちらのほうが、すりおろしたら粘りが出て、いうことをきくといいます。近年の新しいれんこんを毎年植えても、この在来のれんこんは深い所に残っているのか、また出てきて、絶やすことができない生命力をもっているそうです。
・ぺっちん瓜、御津の青瓜
ぺっちんという名前は、茎からぺっちんと折れるからとか、ビロードのようななめらかな食感だからとかいわれます。
姫路付近には在来の瓜が10種くらい残っています。御津は伝統的な栽培地で、代々いろいろなものを作っていましたが、今は種は採っていないのではないかと思います。
・網干メロン
100年余りの歴史のあるメロンで、昔なつかしい味がするはずです。現在20人くらいで栽培しています。種も売られていて、病気に強く、作りやすいメロンです。
・丹波いも
全国的によく知られた粘りの強い山いもで、形が悪いのをよしとしているというおもしろい特徴があります。
・とっちゃ菜
いわゆるふだん草で、とっちゃでき、とっちゃできとすぐに育つところから「とっちゃ菜」となりました。いつもあるから「「いつも菜」といったりもします。伊豆にもあり、全国にあるそうで、一番よくできると瘤ができる。アカザ科で、放っておいても出てくる種が原則です。元々は、うまくないから種屋もやめたほどのようですが、これは葉の形が三角で、おいしいからやめられないとずっと栽培されてきたものです。作っているおばあちゃんが「嫁に来たら、ここでおばあちゃんが作っていた」といっていました。
・ハリマ王にんにく
ある日、電車で乗り合わせた人が「にんにくを作っている」というので、畑を訪ねてみたら、そのにんにくが臭い!辛い! 3代前から作っていて、納めている焼き肉屋がこれでなければと言うほどの強烈な個性があります。そこで、最初は「ハリマキング」としていたのですが、日本だから「王」がいいと、語呂のいい「ハリマ王にんにく」になりました。我ながら自慢の名前です。
・春日黒さや大納言小豆
黒さやの小豆で、やや四角ばって、少ししわもあり、見た目は貧相ですが、これが煮込むと、ふくれても弾力になって破れない余裕になります。切腹を免れていた大納言に因んで付けられた「大納言小豆」という名前のルーツともいえる小豆です。春日地区では春日大納言はたくさん作られていたのですが、この黒さやは、わずか一升瓶2本に残っていた大納言に、まさに人生を賭けた夫婦がいたからこそ復活したものです。
小豆は赤いダイヤとはよくいったもので、相場で決まるもの。でもこの大納言小豆は値段の変動がなく、1キロ5,000円。この地区でしかできず、200m離れた隣村ではできないのです。原因はわかりません。
今日も、皆さんにご紹介したいから、両手の平いっぱい程度、わずかに残っていたものをご好意でいただいてきました。四角い形なので、これを6個縦に積み上げたこともありました。やってみますか…?
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