タイトル<野菜の学校>
● 2011年度「野菜の学校」 ●
- 2011年10月授業のレポート -
【講義】

「鹿児島の伝統野菜」

田畑耕作(たばたこうさく)氏

◆食と農の先進県をめざす鹿児島

 私は満州の瀋陽の生まれです。田畑耕作という名前によく興味をもたれるのですが、これは本名で、子どもの頃はいやでした。しかし、大学生の時に、私の名前の謂われを知りました。「日本人が満州を開拓する」まさにそれが私の名前にこめられたということを知り、感激したものです。

 さて、私は伝統野菜を収集して、自分でもあれこれ試しては食べています。10年ほど前に職を退いて、いわば遊んでいるような時に、伝統野菜の見直しが始まり、現在に至っています。


田畑耕作氏

 鹿児島県は東西約270km、南北約600kmで、薩摩、大隅の二大半島からなる本土と大小200有余の島々からなっています。暖かい所から寒い所まであり、それだけに植物も動物も実にいろいろです。地勢的には、山が多く、霧島火山脈が通っており、その周辺に火山噴火物であるシラス層の丘陵台地が広がっています。決して恵まれてはいないのですが、やせたシラス台地でさつまいもはおいしくできるのです。

 また気象的には、温帯から亜熱帯まで広範囲で、年平均気温は東京と同じ18℃ですが、県内では15℃から23℃までかなりの温度差があります。夏から秋にかけては毎年のように台風に見舞われるのはご存知のとおりで、夏期に干ばつの害を受けることもしばしばあります。また大消費地に遠い。こうした自然的、地理的に不利な条件を克服して、鹿児島県は「食と農の先進県」をめざしています。

 鹿児島は農業県であり、農家総数は7万8,000戸余りで全国で7番目、畑面積は2番目です。畑作が盛んな県で、農業産出額は全国で4位になっています。

 作物別の生産状況を見ると、さつまいもが全国1位なのはもちろん、お茶も2位で静岡を追い越すほど、らっきょうも鳥取と1〜2位を争うほどなのは案外知られていません。オクラ、そらまめ、さやえんどうは全国1位、ゴーヤーも沖縄に次いでいます。

 こうした状況で私が取り組んできた伝統野菜について、次にご紹介しましょう。

◆伝統野菜を本格的に収集し始めて世界が広がる
 1986年からの国、県による遺伝資源収集に私も3年間携わり、貯蔵を進めてきました。それが今、とても役立っています。2000年頃から健康志向が強まり、食の安全・安心がいわれるようになって、伝統野菜への関心も高まってきました。

 伝統野菜は作りやすいけれども、不格好だったり、大きい、使いにくい、品がそろわないなどのハンディがありましたが、そのよさをじいちゃん、ばあちゃんが残してくれていたのですね。かぼちゃなどのように、伝統野菜は色が濃い、いわゆる有色野菜が多かったことも幸いして、よさがだんだん見直されてきました。

 私は平成11年に退職してからは、県内を回って本格的に収集を始めました。やがてタキイ種苗から声がかかり、鹿児島の伝統野菜としてまとめる機会を得ました。さらに野菜ソムリエや調理人の方々との交流が広がっています。

◆鹿児島伝統野菜を保存・維持していくには
 鹿児島の伝統野菜の定義は、「鹿児島の人や風土とかかわりが深く、郷土の食文化を支えてきた野菜で、戦前(概ね昭和20年前)から県内で栽培されてきた野菜」というものです。認定されているのは、以下の22品目になります。
【直根類】桜島大根、横川大根、国分大根、開聞岳大根、山川大根、有良大根、吉野人参
【塊根類】さといも(かわひこ、親くいいも、トカラ田いも、みがしき、といもがら)、さつまいも(安納いも、こうきいも)
【果菜類】養母すいか、白なす、伊敷長なす、隼人うり、へちま、にがうり
【葉菜類】葉にんにく、ハンダマ(水前寺菜)

 伝統野菜の特性は以下になります。
・欠点…晩成種、ふぞろい、大きい、生産性が劣る、固定種で雑駁
・利点…栽培が容易、自然災害に強い、収穫期間が長い、独特の風味、エコ野菜、採種が容易

 伝統野菜は、たいていおくてというか、ゆっくり育つほうがいいのですね。肥料をやりすぎるとボケたりスが入りやすくなる。肥料が少なくてすむ、だからエコ野菜でもあるわけです。

 とはいえ、今後保存・維持していくためには課題が多いのも事実です。地元の農業高校の取り組みも始まっています。私は地域限定として残していけばいいと考えています。

◆私が楽しんでいる鹿児島伝統野菜
 鹿児島県で収集した伝統野菜は約50種400系統にのぼっています。私は、鹿児島独特の方言による呼び名と併せて簡単な食べ方をまとめています。その内から、いくつかご紹介しておきましょう。

・島きゅうり
 これは夏に漬けものにするといい。大根の代わりに煮しめにも使います。

・かぼちゃ
 「ひょうたんかぼちゃ」。八丈島の種と日向かぼちゃの掛け合わせで、力強く、茎を切ってもすぐに根が出て、肥料もよく吸って、寒くなるまで実る。だからこそ残ってきたんだと思います。

・にがうり
 完熟すると中が甘く、子どものおやつになるほど。三杯酢や天ぷら、卵とじなどで。

・へちま
 食べるのは南九州だけです。みそ炒めが一般的ですが、そうめんのようにしても食べます。茶碗蒸しが好評です。

・冬瓜
 冬まで食べられるゆえの名。煮ものや豚肉とスープで。

・はやとうり
 これはみそ漬けがうまい。からし漬けもいい。中南米の市場でも見かけましたが、いためものなどいろいろな食べ方ができます。

・まくわうり
 香りがすばらしい夏の風物詩。これは南方に行っていた兵隊さんが昭和10年代の終わり頃に持ち帰ったといわれています。

・桜島大根、国分大根、山川大根など
 大根は本来赤の色素をもっているので、桜島大根は時に赤大根ができることがあります。一番大きく育ったのでは11kgにも。元は愛知の方領大根で、参勤交代の際に持ち帰られたという説があったり、「ウチが元だ」と、みんながそう言う(笑)。山川漬けの大根は練馬から来たもので、江戸時代の交流の中でいろいろな大根が根付きました。昔の大根は皮が固いからそれをきんぴらにしたり、また山川漬けの大根は直径が2cmくらいになるまで干すのですが、泥付きのまま干すことで腐りにくいなど、昔の知恵でうまく利用していました。

・吉野にんじん
 元は滝野川にんじんから来たと思われる細にんじんで、サラダや紅白なますに向きます。

・空豆、さやえんどう
 おいしいから生き残っている在来種があります。

・ツワブキ
 暑い時期には野菜が少ないので、乾燥させておいて翌年食べるものでした。

・島らっきょう
 からみが少ない。塩漬けや酢漬け、焼いたり、葉付きを湯がいたり、天ぷらにもします。ちしゃで巻いてもおいしい。

 その他、ずいきは大根の代わりに刺身の剣に、みがしきといってこれもずいきの仲間ですが、これはみそ汁の実にします。ずいきは酢漬けにするときれいだし、いためてもいい。

 田いもは文字通りに田圃に植えるいもですが、私はこの親いもをすりおろして薄くまとめ、何枚も冷凍しています。それにたまねぎやねぎ、しょうがを入れて焼いて食べると、これがうまい! 

 さつまいもは、安納いもがよく知られるようになりました。野菜はどれもそうですが、土や肥料で大きく変わるもの。安納いもも他の県でも作られるようになり、土壌が違うから、最近、評判を落としています。産地をよく見て買ってほしい。

 私が楽しんでやっている鹿児島の伝統野菜のあれこれをご紹介してみました。食の安全・安心、健康にいい栄養や機能性が、最近とみにいわれます。それを備えているのが伝統野菜だと私は思っています。自分で料理法もいろいろ試しながら、これからも楽しみたいと思います。

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