タイトル<野菜の学校>
● 2011年度「野菜の学校」 ●
- 2012年2月授業のレポート -
【講義】

「みやざきブランドの取り組みと宮崎地域野菜について」

宮崎県東京事務所流通物産担当 課長 日高 義幸(ひだか よしゆき)氏

◆宮崎ブランドをアピールする戦略いろいろ

 宮崎県は知事のトップセールスがなかなか効果的だったのですが、知事が替わってちょっと地味になりました。そこで、みやざきブランドをアピールするキャラクターを作りました。宮崎県の旧国名「日向(ひむか)」に因んだ3匹の宮崎犬「ひぃ、むぅ、かぁ」です。こちらも、どうぞよろしくお願い致します。

 さて、宮崎県のイメージといえば、南国とか、暖かい、それと宮城県とよく間違われたりもしましたが、前知事のアピールでそれはだいぶ修正されました。宮崎県は冬も暖かい農業県で、産出額は全国5位。ピーマン、きゅうりは全国1位です。とはいえ、実は6割は畜産で、野菜が2割なので、正確には畜産県といったほうがいいかもしれません。


日高 義幸氏

 宮崎では宮崎ブランド推進協会を設けて、一定基準をクリアした農産物をブランド化し、現在34品目にのぼっています。例えば完熟きんかん「たまたま」は、ハウス栽培で開花から210日以上樹上で完熟させたもので、糖度16度以上、横径28mm以上が条件になるという具合です。完熟マンゴー「太陽の卵」も糖度16度以上で、これはよく知られるようになりました。

 また産地としての信頼を確かにするために、食の安全・安心にも力を入れています。特に残留農薬検査システムは宮崎方式と呼ばれ、国内で使用される農薬のほぼすべての成分を2時間で分析できるようにしました。出荷して市場に並ぶ前にはわかるわけです。この検査システムでは特許をもっています。

 そして、取引を安定的に行えるように、例えば量販店と協力してレシピを作ったり、異業種と連携して情報発信を行ったりもしています。

 近年は「健康」にも着目して、新しい戦略を展開しています。宮崎は冬場の日照量は全国トップクラスで、一方、野菜やくだもののビタミンCやβカロテンは、日照量が多いと増える傾向にあることがわかってきました。宮崎産は、例えばピーマンの場合、通常よりビタミンCもβカロテンも1.5倍量含まれることが確認されています。このあたりも、しっかり売り込みをかけているところです。

 ここで宮崎県の野菜栽培の歴史をちょっと振り返ってみたいと思います。

 宮崎県では、1890年代にはきゅうり栽培が始まり、切り干しだいこんの生産も全国1位に、1900年代にはきゅうり、かぼちゃ、なすなどの早出し栽培も既に行われていました。1923年に日豊線が開通すると、県外への販売が急速に進み、やがて大阪、東京にまで拡大しました。

 1950年代にはハウス栽培の先駆けのような屋根式の栽培が始まり、1960年代にはビニールハウスによる施設園芸栽培が開始。ピーマンやきゅうりなどの主力野菜の促成栽培が普及していきました。

 みやざきブランドに取り組み始めたのは1991年ですが、さらに2001年になって「商品ブランド認証制度」を設け、新みやざきブランドを推進しながら現在に至っています。

◆地域野菜の保存活動はスタートしたばかり
 宮崎は温暖な気候なので、メジャーな野菜がドンドン作れた上、かなりのんびりした県民性もあって、地域の野菜の記録をほとんど残してきませんでした。地域作物にどんなものがあるのか、その定義をするにも充分なデータがなかったため、2001年になって、宮崎県総合農業試験場薬草・地域作物センターを設置して、保存のための活動をスタートしました。現在、薬用植物やハーブ、地域作物、山菜など約650種を植栽・展示しています。

 地域作物としては、かぶ、いも、かぼちゃ、なすなど18品種を保存しています。他県ほど認証制度までは設けていないのですが、地域作物として代々受け継がれてきたもので、京いも、黒皮(日向)かぼちゃ、佐土原なすなどが知られています。佐土原なすは、江戸時代に佐土原藩が藩をあげて既に栽培していたなすで、現在は関東方面にも来ています。

 豆も面白いものがあります。県内の椎葉村で代々作られてきた不老豆、花豆などで、さやのまま天ぷらにしたり、煮豆に、みそ汁に、あんこに、赤飯に小豆がわりに入れたりもします。でも、今は一人しか作っていません。他県にも似たような豆があるのではと思いますので、ルーツを知っていたら、ぜひ教えてください。

 今日持参した野菜をご紹介していきましょう。

 

西米良(にしめら)だいこん】

 西米良と椎葉は九州山地の山間部にあり、冬は雪も降り、特別に寒い地です。西米良だいこんは、白に赤のライン、赤に濃赤のラインなど、糸を巻き付けたような条線があるのが特徴で、糸巻きだいこんともいわれています。原型は4種くらいでしょうか。そばや栗と共に焼き畑で作られてきた農家の自家用です。変異が激しいために、どれが原種かわからないので、系統選抜をしているところです。
 このだいこんは辛みも糖度もあり、通常は糖度4度のところ、西米良は6度。しかも、かぶ並みのやわらかさです。煮ものやおでんの他、地元ではなますがNo.1で、なますにするとピンク色になってきれいですよ。

 


西米良だいこん
平家かぶ】

 九州では椎葉村にしか自生していません。同系のかぶは、西日本では兵庫県旧加美町にしかないそうです。両者の共通点は、平家の落人伝説があることで、それがこのかぶの名の由来です。
 椎葉村は人口3,000人ほどですが、広大で、平地はなく、すべて山地です。1185年の壇ノ浦の戦以後、平家の落人伝説が各地にありますが、椎葉村にも落人が流れてきたと伝えられています。それを討つように命じられたのが那須与一。椎葉村の大自然の美しさに魅せられ、やがて武士の情けで赦したとか。椎葉村の苗字の半分は那須さんです。柳田国男や新平家物語を著した吉川英治は、椎葉はこの世の理想郷と讃えています。


平家かぶ
 平家かぶは耐寒性が強く、焼き畑に自然に生えてくるような強い生命力をもっています。冬場の野菜が少ない時に貴重な存在で、主に蕾や葉茎をみそ汁の実や漬けもの、おひたしなどに。卵とじ、油いためなどにするとほどよい苦みが出て美味です。郷土料理としては、豆乳に混ぜ入れて固めた菜豆腐が有名です。

 

いらかぶ】

 美郷町に伝わるツケナ(高菜)の一種で、あざみに似ているのであざみ菜とも呼ばれます。葉な濃緑色で、先は赤紫色。寒さに強く、こぼれ種でも毎年生えてくるような旺盛な生命力をもっています。βカロテンが多く、ピーマンが600mgに対していらかぶは6,000mgも。風邪の予防や肌など美容にもよいとか。高菜とからし菜の中間くらいの独特の辛みがあり、漬けものや油いためにします。


いらかぶ
黒皮(日向)かぼちゃ】

 宮崎ブランドの認証を受けた日本かぼちゃです。1890年代には宮崎市で作られていたもので、現在は年間800t出荷、冬も7haで400t程度です。かつては今の10倍くらい栽培されていました。
 1927年に、県外への販売戦略として、当時の知事が航空輸送をしてビラを配るというびっくりするような輸送で、大阪で反響を呼んだそうです。トップセールスは前にもあったわけです(笑)。
 黒皮かぼちゃは元々は千葉県から導入したもので、系統選抜を繰り返して63年に宮崎早生1号として固定され、現在も主流です。肉質はねっとりした味わいで、味は淡く、ほどよい甘さなので、料理人の腕が試されます。おふくろの味にもいいし、産地は私の故郷でもあり、同じ土・水・空気で育った者として、一段と深い思い入れがあります。


黒皮(日向)かぼちゃ
京いも

 宮崎のさといも生産は千葉に次いで全国2位で、年間1,800t。その5%が京いもで、希少価値の高いいもです。京いもは明治の頃に台湾から入って、小林市が主な産地。56〜7年前に関西に向けて売っていこうと計画した際、当時、京都で食べたおいしいサトイモに因んで「京いも」と名付けたそうです。
 収穫前には2mくらいにもなり、重さは1sを超します。皮がむきやすく、身の締まりがいいので煮くずれしにくいのが特長で、煮ものやおでんに向くほか、すりつぶしてコロッケにもいい。宮崎では、京いもや黒皮かぼちゃをオイスターソースで煮込むレシピなども提案しています。

 


京いも
【日向夏】

 1820年に、宮崎市内の民家で偶然発見された柑橘。正月に食べたらまずかったのが、その年の夏に屋根葺きに来ていた職人がたまたまかじったら、とても美味しかったそうで、そんな言い伝えがあります。今では宮崎市の清武町が一大産地になっています。
 この日向夏という名前は、1887年に県庁の職員によって「日向夏みかん」と名付けられたことによります。2009年の一般公募で「日向夏ちゃん」の愛称で呼ぶようになりました。高知ではニューサマーオレンジと呼んでいますが、オリジナルは宮崎です。


日向夏
 現在、生産量は2,700tにのぼり、東京へも1980年から出荷されています。日向夏は1〜2月から出回りますが、3月半ばからの露地物が断然美味。甘みが強い白皮と果肉を一緒に食べるのが特長で、甘さと酸味のさわやかな風味がトロピカルな味わいです。ビタミンCたっぷりで、機能性成分にも富んでいます。

 ざっとご紹介しましたが、宮崎は近年になって地域作物を発見し始めたばかりの土地柄なので、今後ともぜひご注目ください。

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