第2章 野菜のおいしさに関する検討結果の概要
5 産地調査
  産地側におけるおいしさについて、きゅうりは独特の臭い(香り)・風味、食感、および甘さを取り上げているものの、取り立てて美味しさを特徴づけるものはないとの考えも聞かれる。ほうれんそうは、茎の赤い部分に甘みのあるものが美味しいとの見解である。にんじんでは、あまみと臭いの少ないもの、およびやわらかく食感の良いものを挙げている。そこで、消費者の選考基準を産地側からみると、きゅうりは「みため」と「価格」であり、ほうれんそうは、緑色の濃い等の「みため」での購入である。にんじんは肌つやの良い「みため」、「色」、「根形」、さらに「臭い」の少ないものを良いものとして選ぶ傾向にあると考えている。こうした、消費者の意向は産地側での導入品種に影響を及ぼしている。きゅうりでは美味しさよりも、見た目の良い品種、さらには栽培管理のしやすい品種が好まれている。ほうれんそうでも、立性で収穫作業等での作業効率が良く、緑色が濃く、葉の枚数の多いもの、べと病の抵抗性の有無により品種の選定を行っている。にんじんでは、収穫量と秀品率の高いもの、シミ症などの病気に強いもの、草姿は立性に優れ強健で機械収穫が可能で作業効率がよいこと、裂根の発生が少なく在圃性に優れていること等である。
 このように、美味しさを追求した品種選定ではなく、消費者の見た目を重視した選択基準、収量の多い経済性を追求した品種選定となっている。また、販売するスーパー等小売側からは、契約した作物を安定して出荷・供給できる産地が最も高い評価を受け、美味しい野菜を出荷して欲しいとの要望はあまり聞かれない。このため、品質の良い美味しい野菜を栽培し出荷しても小売側での評価は高まらないとの考が生まれてくることに産地側の指導者は危惧している。一方、おいしい野菜を販売する観点からスーパー等小売側への要望も聞かれる。とくに、それぞれの作物の最も美味しいサイズとスーパー等小売側が希望する規格サイズには隔たりがあるとの指摘である。例えば、きゅうりは市場への出荷サイズは100gを標準としているが、このサイズは未熟であり美味しさとしての評価も低い。美味しさの観点からは、えぐみも少なく香りも良い110gから120gを推奨する。また、にんじんでも美味しさや価格の面からスーパー側へ中心的品揃えであるM規格以外にL規格の品揃えの強化を図ることが消費者へのメリットにつながるとの見解である。こうした産地側の考え方がスーパー等小売側まで届いていないところに問題がみられる。また、産地側からも消費者に対して野菜の美味しさや、生産履歴等の情報を積極的に情報発信してこなかったとの反省の声も聞かれる。また、今日の主要青果物流通ルートである卸売市場(全農集配センター)ルートにおいて、消費者の生の声が聞けるよう取り組みを図ることの他に、消費者に本来のおいしい野菜についての情報が伝えられる仕組みを構築していくためにも、スーパー等小売サイドとの連携の強化を図っていくことが、安全でおいしい野菜の普及拡大につながると考えられる。
(宮城学院女子大学教授 安 部 新 一)
 
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