私たちが幸せな人生をおくるにあたって、健康は最も基本的な要素のひとつである。健康と日々の食事の密接な関わりが、新たな発見のように言われるようになり、とりわけ野菜が健康維持に果たす役割の重要性、昔の食生活のよさを裏付ける膨大な情報が発信されるようになった。にも拘わらず、野菜消費量の増加の基調が見えない昨今、消費拡大のためには、これまでとは違う新たな取り組が求められていると考えられる。
 一方、消費の現場においては、おいしい野菜を求める消費者の声が高まっている。まずはその声に応える方向で、野菜品質の指標を定め、その情報を消費者と生産者が共有すること、そして購買時に当たりはずれのない品質の野菜を流通させることが、野菜消費拡大の原点であると思われる。それは、輸入野菜が増加する現状において、国産野菜の評価を高め、おいしく、安心して食べられるイメージを定着することにも大きく貢献するに違いない。
 こうした意図をもって、野菜品質の指標を整理することに着手したわけであるが、企画を進めるにあたっては、なかなか困難が伴った。まず、「おいしさ」は人間が食べる事によって発する、様々な感情や感覚、背景などに基づいたいわば複雑な感情語であるという点である。また、エビデンスに基づいた指標を定めていくとなると、そもそも供試体である野菜は生きものであり、再現性という面ではあまりに複雑深遠である。多数決によって進めていくにしても、普遍的なものは考えられないことは容易に想定された。
 野菜のおいしさの指標の作成に取り組む実需者は散見されるが、なかなか成就しないのも無理からぬことで、短時間でまとまるテーマでもないのは言うまでもない。それだけに、各界の強い期待に応えるべく、検討委員としては、この分野で最先端の研究に取り組んでおられる造詣の深い方々にお願いし、とりまとめていただくこととした。そして、供試野菜として、まずはポピュラーな3品目を取り上げた。
 委員の方々には、こうした困難をご承知の上で、ご多忙にも拘わらず、ご熱心に、貴重な検討を重ねていただき、ここに発刊の運びとなった次第である。心から感謝申し上げる。 
 さらに、おいしさ評価用供試野菜提供関係者、産地調査にご協力いただいた関係者の皆様にも、改めて深く感謝申し上げる。
 この野菜のおいしさ指標が、わが国の野菜のおいしさの科学的指標作成研究の手がかりとなり、さらに発展し、野菜消費拡大の一助となれば幸いである。
平成19年3月
特定非営利活動法人 野菜と文化のフォーラム
理事長 鈴 木 康 司


目  次
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第1章
 
 
趣旨
事業の実施方法
 
第2章  
 
野菜のおいしさに関する検討結果の概要
 
嗜好型官能評価
分析型官能評価
成分分析
消費者アンケート調査
産地調査
野菜のおいしさに関する文献調査
 
第3章
 
野菜のおいしさに関する検討結果
 
T 嗜好型官能評価結果
 
はじめに
実施例
 
(1)
きゅうりの評価 その1 歯切れのよいミニサイズとレギュラータイプの比較
(2)
きゅうりの評価 その2 一般的な3種類のきゅうりの評価
(3)
にんじんの評価 その1 品質と好みの関係
(4)
にんじんの評価 その2 甘ければよいのか
(5)
にんじんの評価 その3 昔ながらのにんじんとの対比
(6)
ほうれんそうの評価 その1 栽培方法の異なる5品種の比較
(7)
ほうれんそうの評価 その2 生食による消費拡大の可能性
評価結果に対する補足と考察
 
(1)
評価の評価者への依存性
(2)
嗜好形成度と評価の関係
(3)
嗜好形成の抑制因子と促進因子
(4)
野菜における甘味増強の意味
(5)
煮ることによるうま味、おいしさの発現
(6)
漬け物が生食に代わることの意味
(7)
野菜のおいしさの必要条件
(8)
おいしさと倫理
おわりに
 
U 分析型官能評価結果
 
きゅうり
 
(1)
実験方法
(2)
結果及び考察
(3)
まとめ
にんじん
 
(1)
実験方法
(2)
結果及び考察
(3)
まとめ
ほうれんそう
 
(1)
実験方法
(2)
結果及び考察
(3)
まとめ
 
 
きゅうり
にんじん
ほうれんそう
 
第4章
 
T 消費者アンケート調査結果
 
調査の実施概要
アンケート調査結果
 
(1)
回答者の家族構成、勤務形態、外食・中食の利用
(2)
野菜の購買行動
  1)野菜の購入先  
  2)生鮮野菜の購入頻度  
  3)野菜購入時に気を遣う点  
  4)おいしさに関する情報への要望  
  5)価格とおいしさの関係  
  6)おいしい野菜の価格プレミアム  
  7)料理用途情報への要望  
 
U 産地調査結果
 
きゅうり
 
(1)
産地農協の概要と生産者の経営概要
(2)
栽培方法と品種の選定
(3)
生産者等の産地側が考えているきゅうりのおいしさ
(4)
産地側からみた消費地サイドの評価
(5)
安全でおいしい野菜を生産するための課題
にんじん
 
(1)
産地農協の概要と生産者の経営概要
(2)
栽培方法と品種の選定
(3)
生産者等の産地側が考えているにんじんのおいしさ
(4)
産地側からみた消費地サイドの評価
(5)
安全でおいしい野菜を生産するための課題
ほうれんそう
 
(1)
産地農協の概要と生産者の経営概要
(2)
栽培方法と品種の選定
(3)
生産者等の産地側が考えているほうれんそうのおいしさ
(4)
産地側からみた消費地サイドの評価
(5)
安全でおいしい野菜を生産するための課題
 
V 専門家アンケート調査結果
 
専門家への調査
きゅうりのおいしさ
にんじんのおいしさ
ほうれんそうのおいしさ
 
第5章
 
野菜(きゅうり、にんじん、ほうれんそう)のおいしさに関する文献調査結果
 
野菜全般の品質に関する情報
きゅうり
 
(1)
食感の評価方法
(2)
味に関係する成分と評価法
(3)
香り
にんじん
ほうれんそう
 
(1)
えぐみ(アク)
(2)
ほうれんそうの食味
 
 
第6章
 
   
 
【参考】
 
分析型官能評価結果(平均値と標準偏差)
 
(1)
きゅうり
(2)
にんじん
(3)
ほうれんそう
食べ比べ評価試験結果
 
(1)
きゅうり
(2)
にんじん 1回目
にんじん 2回目
(3)
ほうれんそう
 
官能評価試験用野菜の品種一覧
 
【写真】
 
官能評価試験供試野菜
官能評価試供品種選定のための食べ比べ会
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