第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
T 嗜好型官能評価結果
2 実施例
(2) きゅうりの評価 その2 一般的な3種類の評価
 
1) 試料
 
A:

K1(栃木産)

B:
K5(静岡産)
C:
K4(宮崎産)
2) 方法
   生食での評価: いずれも両端を1cm切り落としたものを頭と尾に2分し、さらに長く4つ割にしたものを、同じ部位どうしを組み合わせて供した。原則としてそのものを味わうが、適宜別添の食塩を少量指先でとり同量を均一にまぶしてつけてもよいことにした。評価項目は、嗅いだ香り、新鮮感、歯触り・噛みごたえ、口中で感じるきゅうりの香り、きゅうりらしい味のよさ、好ましさ、総合的なおいしさの6つで、問題を読みながらなるべく多く食べたところで、60点を合格ライン、90点以上を「秀」とし、各項目について100満点で評点をつけさせた。
また、きゅうり特有の香りの強さ、歯ごたえのかたさ、やわらかさ・しなやかさ、きゅうりの味の強さについては、理想的を0とし、自分にとって強すぎるから弱すぎるまでを+3からー3までの7段階評価尺度で答えさせ、最後に最も食べたいものと食べたくないものを選ばせ、理由を記入させた。
   塩漬けでの評価: 乱切りにしたものに1%の食塩をまぶし、1時間放置したものを4,5切れずつ供した。評価の設問は生の場合と同様である。
   ロールパンを提供し、きゅうりと同時に口に含まないことを前提に適宜食してもよいことにした。パネルは農大栄養科学科の学生で、調理学、官能評価論をすでに履修した者40名である。
3) 結果
   生食と塩漬けの場合に分け、特性の好ましさおよび強さに関する平均値を図2-1と2-2に示す。
 
図2-1 3種のきゅうりの生食での評価平均値と特性の強弱の関係
 
図2-2 3種のきゅうりの塩漬けでの評価平均値と特性の強弱の関係
   生食も塩漬けも傾向的には一致したが、生食の方がより差が明瞭であった。いずれもAとCがほぼ同等に高く評価され、Bは最も低く評価されているが、その理由は正反対といえるほど異な
ることが、図2-1と2-2から推察される。この図で得点の絶対値は小さいのは、特性の強弱どちらを好む人も存在するためで、特性の相対的な強さを示すはずである。Aはきゅうりらしい香りも味も歯ごたえも強いのに対して、Cはいずれも弱く、しなやかさ・やわらかさとして解釈されているが、フリーアンサーでは水っぽいというコメントも多かった。
 しなやかさは、こわばったかたさに対して、粘りともいわれるきゅうりらしい柔軟なやわらかさを問うつもりであったが、必ずしも評価者の解釈とは一致しなかった可能性もある。また、3種のうちもっとも食べたいものを順位1とし、最も食べたくないものを順位3として順位に変換すると、表2-1のようになり、平均順位は評点法の結果と一致するが、Bはもっとも好まれないのに対して、とくにCは好みが分かれていることが分かる。
 
表2-1 順位からみた食べた差の比較
  生食 塩漬け

試料
順位1をつけた人
順位2をつけた人
順位3をつけた人


17
15
8

7
11
22

16
14
10

15
12
13

9
15
16

16
13
11
平均順位
1.78
2.38
1.85
1.95
2.18
1.88
   
   すなわち、きゅうりらしい特徴をもつものを好む人はAを好むが、その特徴を嫌う人がCを好むということである。さらに、重要なことは、前者と後者を好む人がほぼ同数存在するということである。従って、もし、生産者の意思決定が大衆の評価の平均値をもって多数決原理に従うならば、きゅうりは、限りなくその特徴を失う方向へと流れることになり、きゅうりのきらいな人に合わせて、きゅうりの特徴のないものを作ることは、きゅうりの好きな人のきゅうり離れを促すことになる。少なくとも2種類の消費者が存在することを考慮し、どちらの消費者を対象にするのか目標を見すえた開発が必要である。
 因みに、塩漬けにしたときの残りの水分を偶々測定したところ、1Kgのきゅうりに対して、Aは140g、Bは116g、Cは166gでCがもっとも多く離水していた。Cは感覚的にもとくに水っぽく感じられたが、それをみずみずしいと評価する人も多かった。両者は似て非なる、まかり間違えば天地懸隔のものであるが、一般消費者がそれを峻別して判断することは難しいことにも注意しなければならない。さらにいえば、肝心なことは、野菜の品質という観点から見たとき、AとCのきゅうりはどちらの価値が高いと見るべきかである。ここでは保存性などはテストしていないが、保存性やぬか漬けその他さまざまな調理にも用いられたときにも、香りもなく、保水性もない方が品質が優れているとは考えにくい。しかし、販売量や経済効率を主にすれば、品質的には価値が低いものでも、多くの人に好まれるならそれでよしとしてそれに迎合するとき、品質は低きに流れ、歯止めがかからなくなることを危惧する必要がある。
(H18.10.24実施)
(東京農業大学教授 山 口 静 子)


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