第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
T 嗜好型官能評価結果
2 実施例
(4) にんじんの評価 その2 甘ければよいか
   にんじんの選択理由のなかで、「甘味が強い」がかなりの数見られた。砂糖が必ずしもにんじんの甘味を示すものではないが、一つのモデル実験として、上記の2種類の試料の一方に砂糖を添加し、甘味の強さを変えた場合、評価にどのような影響を及ぼすかを検討した。
 
1) 試料
 
A:

ベータリッチ(青森産)

α:

Aに砂糖(グラニュー糖)を2%添加

B:
向陽二号(北海道産)
β:
Bに砂糖(グラニュー糖)を2%添加
   にんじんは事例1で用いた残りを1週間冷所に保存したものである。
2) 方法
   Aとβ、αとBを組み合わせて評価した。砂糖の添加以外、調理法や評価法は上記と同様である。煮時間は30分とした。
3) 結果
   それぞれの特性の平均値を図4-1と4-2に示す。
 
図4-1 Aと「Bに砂糖を添加したにんじんβ」の比較
   Bに砂糖を添加したときは、風味も増し、甘味の強さもA以上になるが、味の好ましさが増すわけではない。しかし、総合評価ではAと同等になっている。また、二者選択法で選ばれた度数を表4-1に示す。選択ではむしろBに砂糖を加えた方がAを上回っている。
 
図4-2 「Aに砂糖を添加したにんじんα」とBの比較
   Aに砂糖を加えると、もともと強い甘味はさらに突出して強くなるが、平均値としては甘味の強さはそれほど嫌われておらず、味全体はむしろよいとされている。総合評価は無添加のBの方はよいとされてはいるが選択ではAの方が上回っている。甘味が強すぎるという自由意見も多かったにも拘らず、さらに甘味の強さが突出していることが明らかに自覚されているにも拘わらず、甘いほうに評価が傾くことが示されている。
 
表4-1 二者択一で選ばれた度数
品質 好み
B+砂糖
B+砂糖
8
12
12
8
A+砂糖
A+砂糖
14
6
11
9
   
   現実にはありえないような強い甘味でも、その食品として、あるいは献立のなかのバランスからみて適正な甘味かいなかの認知的な評価よりも、甘味そのものの快感が、支配的になる現象をわれわれは甘味のインフレーション効果と呼んでいる。果物の糖度が著しく上がり、本来甘くない漬物やソーセージなどまでが甘くなるのは多分にそのためと考えられる。にんじんは様々な料理に用いられる。甘味が足りなければ砂糖を加えることはできるが、にんじんから甘味を除くことはできないことも考慮する必要がある。
(H18.10.24実施)
(東京農業大学教授 山 口 静 子)


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