生と煮物では、概略一致したが、試料によってはかなり異なった。とくに注目されるのが長人参で、煮ることによって風味や甘味、うま味が向上した。生ではかたいために、咀嚼しても味成分や香気成分が溶出しにくいが、煮ることによって、やわらかくても稠密でしっかりした食感の噛みごたえが形成されると同時に、噛むほどに濃厚な味成分や香気成分が急速に失われることなくじわじわとでてくるためと思われる。煮ても味や香りが細胞や組織にしっかりと保たれていることは品質鑑定の重要な着眼点といえる。
注目すべきことは長人参において、煮ることによるうま味の増加が顕著だったことである。それは長人参それ自身の味成分のためでもあるが、さらに「だし」のうま味成分との相乗作用によっても引き立てられるポテンシャルを有していることが考えられる。洋の東西を問わず、だしは料理の決め手であり、それによって引き立てられる素材であるかいなかは最も注目すべき性質といえる。それに対して、Cは煮ることによって食感の好ましさも甘味の強さも減っている(生で観察したとき、ややシャキシャキした食感で、香りが揮発しやすい感じがした)。生で食べていては分からない違いに着目すべきことを示す例である。
しかし、いずれにおいても、長人参は平均値としては高く評価されなかった。表5-1は最も食べたいものを選ばせたときに選ばれた度数を示す。D、E、Fには大差がなかった。
|