第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
T 嗜好型官能評価結果
2 実施例
(6) ほうれんそうの評価 その1 栽培方法の異なる5品種の比較
   最近話題を集めている寒締めほうれんそうを含む以下の6種類について評価した。ただし、Fについては、生食用であるため同列に比較することはできないので、別にサラダとして評価した。
 
1) 試料
 
A:

S1(岩手産)   寒締め

B:
S2 (岩手産)   寒締め
C:

S3 (群馬産)

D:
S4(茨城産)
E:
S6(千葉産)
F:
S5(茨城産)  水耕栽培 生食用
   DとEは実験当日農大着、その他は前日着
2) 方法
   お浸しと油炒めで評価した。お浸しには薄味のタレを5ml別に添え、少量をつけて食してもよいことにした。お浸しは洗ったほうれんそうを束にして持ち、茎を熱湯に20秒つけてから、全体を熱湯で50秒加熱し、直ちに氷水につけ、冷えたところで絞り、3cm程度の長さに切ったものを供した。根と中間と葉先の部分に3等分し、同じ部位同士を組み合わせるようにした。味わいやすくするために、5ml別添したつけ汁を少量つけてもよいとした。
 油炒めは、茹でて絞ったほうれんそうに対し0.5%の食塩をまぶし大型のフライパンで炒めた。評価は同時に2種類を評価した。おひたしを評価してから油炒めを評価した。評価項目は、見た目の好ましさ、噛んでいるとき口中に広がるほうれんそうらしい風味の強さ、ほうれんそうの風味の好ましさ、食感(歯ざわり・噛み心地・舌触り・飲み込みやすさなど)の好ましさ、ほうれんそうとしてみたときの甘味の強さ、ほうれんそうとしての甘味の強さの好ましさ、口に残るアク、渋味、エグ味やしびれるような味の強さ、うま味(こくなどを含む深みのある味)の強さ、味全体の好ましさ、ほうれんそうらしさ、総合的なおいしさ、の10項目で、
7段階評価尺度を用いた。試料は2種類ずつ組み合わせて評価した。すべての組み合わせ数は15通りになるがそれは現実的に不可能であるから、一部の組み合わせのみとした。
3) 結果
   各組み合わせごとに平均値のプロットを示す。お浸しと油炒めは、両方行った場合は結果を並べて示してある。AとB、AとCの油炒めは試料を使い果たしてしまったので、それらは3種同時に評価したが、12名分しかとれなかったので信頼性に欠けるため、あくまでも参考データにとどめる。全体をとおしてお浸しも油炒めも傾向的には同様な結果が得られた。総合的に見ると寒締めの評価が高く、Eは最も低かった。
   
 

図6-1-1 ほうれんそうの組み合わせごとの評価平均値(その1)

   図の最下段に示した油炒めA,B,Cは試料不足で12名分しかとれなかったので参考程度。
   
 

図6-1-1 ほうれんそうの組み合わせごとの評価平均値(その2)

   参考までに葉の周囲の厚さをノギスで測定したところ表7-1のようであった。
 
表7-1 ほうれんそうの葉の厚さ(mm) (n=6)
  C D E F
平均
STDEV
0.70
0.10
0.69
0.07
0.77
0.02
0.73
0.11
0.45
0.06
0.34
0.11
   
   また、生のほうれんそうに約70gを茹でて軽く絞ったあと、タオルの布巾の間に挟んで、5kgの重石をのせて1分後に測定した重量からみたほうれんそうの歩留まりは表7-2のようであった。
 
表7-2 茹でたときのほうれんそう歩留まり(対生重量%)
  C D E F
平均
102
102 99 92
77
67
   
   いずれも測定回数が少ないので、再現性は問題であるが、少なくともEと、以下で述べるFは葉が薄く、茹でたときの歩留まりも少ないと推定される。

 表7-3はあくまでも参考データであるが、2通りの方法で処理してBRIXを測定したものである。根、根に近い茎と葉の部分、葉先の部分(長さの1/3)に分けて、@タイガーミルで砕いたものから汁を搾りとったもの、A乳鉢でできるだけ擂り砕いたものを200メッシュのナイロン網で絞りとったものについて測定した。砕け具合も一様ではなかったので(食するときも完全に砕けるわけではないが)、精度、正確さにおいては保証できないが、少なくとも定性的にみて、AとBは何らかの成分が多く、とくに根の部分に多く、また、水耕栽培であるFは成分が少なく、しかも根に少ないと推定される。Eは若干三つ葉か水菜のような食感が感じられ、5種の中ではもっともFに近い印象を受けたものである。BRIXには様々な成分が寄与しているはずで、内容もそれぞれ異なるはずである。味見をしたところでは、特に葉の部分ではBRIXが高く味は強くても殆ど甘味を感じないものが多かった。
 
表7-3 絞り汁のBRIX測定値
方法 C D E F
(1) (2) (1) (2) (1) (2) (1) (2) (1) (2) (1) (2)


9.0
7.9
7.0
10.2
10.4
8.9
8.7
6.9
5.6
12.3
10.7
8.4
5.0
5.2
5.5
6.9
6.5
6.2
5.3
3.0
3.5
5.6
6.5
6.2
4.0
3.5
4.1
5.7
5.3
5.4
1.8
2.4
3.5
3.4
3.3
5.3
平均
8.0
9.8 7.1 10.5 5.2 6.5 3.9 6.1 3.9 5.5
2.6
4.0

(1):タイガーミルで破壊 (2):乳鉢で擂砕
(1)と(2)で必ずしも一貫性がないのは、誤差もあるとしても、
ものによって砕けやすさが異なるためと考えられる

   
   A−Eの評価でAとBが高く評価され、Eが低く評価されていたのは、内容成分の充実度が反映されていたためであることがこれらのデータも窺える。
(H19.1.11/12実施)
(東京農業大学教授 山 口 静 子)


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