第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
T 嗜好型官能評価結果
2 実施例
(7)
ほうれんそうの評価 その2 生食による消費拡大の可能性
1)
試料
Fを2種類のサラダで評価した。洗って3cmほどのざく切りにしたほうれんそうに、カリカリに炒めたベーコンと薄切りにしたりんごをドレッシングで和えたもの(サラダ1)、缶詰のツナとクルトンをトッピングし、学生が各自実習で作ったマヨネーズを好むだけ自由につけたもの(サラダ2)について、2つのクラスで評価した。
2)
方法
試食前に生のほうれんそうの試食経験と食べたさを問い、試食しながら特性の強弱と好ましさ、さらにイメージをSD法により7段階尺度で答えさせた。なお、ほうれんそうに対する評価者の健康イメージは高く、あまり積極的とはいえないがもっと食べたいと考えている人も多かった。
図7-1 ほうれんそうへの一般的な嗜好と摂取意欲
3)
結果
特性の好ましさとイメージの平均値を図7-2に示す。
図7-2
サラダにした場合のほうれんそうの特性評価とイメージの平均値
サラダへの評価は高く、特にSD法によるイメージ評価では身体によさそうという健康イメージが高かった。
また、試食前(サラダを見る前)と試食後のほうれんそうのサラダへの喫食意欲の変化を図7-3に示す。
図7-3 試食前と試食後の食べたさの比較
試食前は生のほうれんそうの食経験は少なく、摂取意欲はクラスによって違いがあったが(サラダ2を評価した管理栄養士専攻の方が高い)、いずれも試食前より試食することによって摂取意欲が顕著に高まっていた。素材の新鮮さもあるが、生食の珍しさやベーコンやツナなど副素材との組み合わせの斬新さによって嗜好性が高められたと思われた。
これより、ほうれんそうの生食を薦めることによって、ほうれんそうの販路拡大が考えられるが、その可能性を検証するにはほうれんそうの嗜好構造を考慮する必要がある。図1-2のデータを一括し、とても食べたい、食べたい、少し食べたい以下食べたくないまでの非積極的群、の3群に分けた評価の平均値を図7-4に示す。非積極的な人は品質感や新鮮感、健康イメージよりも、風味、味など本質的な特性に対して大差をもって好まず、食べられないとしている。
図7-4 喫食意欲の程度とほうれんそうのサラダに対する評価の関係
さらに、ほうれんそうの食べ方について、大学生159名に7段階同意尺度で答えてもらった。ほうれんそうが大好き、好き、普通以下、の3群に分けて求めた平均値を図7-5に示す。4はどちらでもないか、これでよいことを示す。
どの群においても、ごま和えやお浸しなど、加熱して食べるのが好まれており、生食には嗜好の革命が必要と考えられる。
図7-5 ほうれんそうへの嗜好度別にみた好ましい食べ方
図7-6 ほうれんそうのサラダの食べたさと食態度・気質
では生食はどのような人から薦めればよいのか。さらに、評価者の食態度や気質とサラダの食べたさの関係をプロットしたのが図7-6であるが、サラダに対して非積極的だった人は、新奇性愛好度が低く、好き嫌いが多く、食べ物に対して保守的な傾向があることが窺える。これらのデータを総合すると、ほうれんそうの消費を拡大するためには、好きでない人を好きにするために、新しい食べ方を導入しても効果は上がりにくく、好きな人にターゲットを向けるべきといえる。
また、水耕栽培のほうれんそうは栄養成分や食物繊維も少ないと考えられ、しかも生食では嵩は多く見えても大量を摂取することはできない。残りを茹でたり、炒めたりするときに一般のほうれんそうより劣るならば、ほうれんそうとしてのイメージダウンになる可能性も考えられる。ミニきゅうりの場合と同様に、生食用は別物として扱うべきである。
野菜全体の消費量を考えた場合には、生食に向いたレタスなど他の生野菜との棲み分けも考慮する必要があるであろう。また、生食の増加に関連して、家庭での漬け物消費の減少がある。特にきゅうりなどは、漬け物という国民的な食べ方として定着し、ぬか漬けはじめ様々な漬け物が米飯とマッチし、さまざまな乳酸菌の働きで健康に寄与してきたものである。しかし、漬け物がサラダに代われば、生食と漬け物でも食せる量がまったく異なるために、野菜(米もであるが)の消費量に多大の影響を及ぼしてきたことは夙に指摘されているところである。
(H19.1.12実施)
(東京農業大学教授 山 口 静 子)
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