第5章 野菜(きゅうり、にんじん、ほうれんそう)のおいしさに関する文献調査結果
2 きゅうり
(1) 食感の評価方法
   きゅうりは食感を重要とする野菜である。近年、きゅうりの食感とその評価法に関する報告が増えつつある。きゅうりの食感評価法としては、かつて米国ミネソタ大学でテクスチャープロファイル分析の手法を用いて解析された(Breeneら,1972、Jeonら1973)が、その後この方法の応用場面は限定的である。むしろ単純に円柱型のプランジャーを突き刺す方法が一般的である。
 武田・稲山(1993)は果皮のある状態で測定した果皮硬度と、果皮を皮むき器でむいた状態で測定した果肉硬度に分けて測定した。これら2つのパラメータで品種の特徴を表すことが可能であった。また、果皮硬度は収穫後期に高くなった。
 きゅうりを輪切りにすると、種のある柔らかい部分がある。これを胎座という。石坂ら(2000)は、官能評価による歯切れ感を各部の貫入抵抗値と胎座部の割合等で推定しようと試みた。その結果、歯切れ感は果肉貫入抵抗値との間に正、胎座部の割合とは負の相関がみられた。
 貫入抵抗値のみならず、多様な測定パラメータが開発されつつある。胎座部は果肉部に比べて柔らかい。そこで、果皮側からプランジャーを突き刺し、果肉部、胎座部それぞれを貫入する際のエネルギーの和から果実の硬さを推定する方法が開発された(五十嵐,2004)。この方法によれば果肉部の硬度が高く、胎座部の小さい品種が食べたときに硬く感ずることになり、高硬度キュウリの育種に用いられている。
 森下・鈴木(2003)によれば、胎座部の面積の割合は、果実長の増加とともに増加し、また胎座部面積の割合の大きい品種では食べた時の歯触りが柔らかく感じられた。森下(2003)は、直径3mmのプランジャーを用いて破断試験を行い、その結果から「歯切れ指数」を定義した。「毛馬」のようなパリパリと歯切れのよい品種ではこの値が低かった。
 一方、堀江ら(2004, 2006)はキュウリのパリパリ感を表すのに、同様に直径3mmのプランジャーを貫入した時のデータからcrispness index(CI)を計算することを提唱している。プランジャーの先端が果肉部を突き刺す際に、粘質のきゅうりでは力の変動が少なく、パリパリしたものについては変動が大きいので、2次微分の絶対値の総和の形で数値化を試みたものである。
 近年、さらに新しい方法が、きゅうりの食感評価に導入されつつある。Sakuraiら(2005)は、きゅうり3品種の肉質を音響学的測定法により比較した。本法においては、プローブ(針状のもの)の基部にピエゾ素子をおき、プローブを挿入してきゅうりを破砕する際の音響振動を受信するものである。品種や部位間の差異を表現できるよう、得られた周波数成分に重みづけして積算する指標「シャープネス」が提案された。
 Danら(2003)は、ヒトが多点シートセンサーをくわえてきゅうりを噛むことにより、かかる力と時間の関係を解析した。その結果、きゅうり3品種のうち1品種の特性が異なることが明らかにされた。ヒトを用いたこのような研究は、機械を用いた試験に比べて再現性には劣るものの、それぞれのヒトによる咀嚼の違いを明らかにできる特徴を有する。彼らは同時にくさび型のプローブを用いた圧縮試験も行っており、3品種のうちのひとつが硬くて、もろくないとする点で、ヒトを用いた試験と一致した。
 きゅうりの食感の評価法については、それぞれの方法に特徴があるものの、相互に比較されることなく開発されてきた。既存の方法を整理しながら、どのようなパラメータがおいしさに関連するのか官能評価との比較解析が必要である。

(2) 味に関係する成分と評価法
   きゅうりの呈味成分については中町ら(2002)の報告に詳しい。すなわち、遊離糖としてはブドウ糖、果糖が含まれ、有機酸としてはリンゴ酸が主であり、遊離アミノ酸としては総遊離アミノ酸の半分がグルタミンである。彼らは、収穫直後と貯蔵7日後の果実を比較し、貯蔵によって、遊離糖、リンゴ酸の減少、クエン酸の増加が観察された。また、貯蔵によりうま味アミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸の増加がみられた。一方で味の好ましさは7日後には有意に低下した。
 きゅうりの嗜好と成分の関係については平本・松本(1988)によって調査されている。この中で調理法としては、スティック切り、サラダ、きゅうりもみが試されている。官能評価値と還元糖量、アミノ態窒素量の間には、これら3種の調理法とも明確な関係はみられなかった。一方で、スティック切りにしたきゅうりの果皮と果肉のバランスについては、機器で測定した(果皮硬度/果肉硬度)と相関関係が観察された。
 きゅうりの主要成分は果糖、ブドウ糖とリンゴ酸、グルタミンである。キャピラリー電気泳動法によりこれらを同時に分析する手法は堀江ら(2002)が開発した。またこの方法を用いた解析の結果から、きゅうりにおいても果糖、ブドウ糖が甘味に寄与しているものと考察した。収穫直後の果実では果糖、ブドウ糖は等量存在するが、貯蔵によってブドウ糖の方が先に消耗した。そこで、糖尿病患者用の血糖センサーをきゅうりの品質評価に用いることを提案している(堀江ら,2005)。
 きゅうりの苦味はcucurbitacin Cによるものとされる。果実中のcucurbiracin Cについては一般の市販品種では検出されなかったが、特に苦味の出る品種「新昌白皮」では、苦味の強い基部(蔓に近い部位)において高い濃度で検出された。ただし、ククルビタシンCは低濃度でも苦味の強い物質なので、高速液体クロマトグラフィーによる機器分析よりも官能評価の方が検出感度は高かった(Horieら,2007)。
 きゅうりの切断面を舐めると非常に強い刺激あるいは渋味が感じられる。堀江・伊藤(2005)は、切断に伴い滲出する維管束液中に数百ppm程度の濃度でギ酸が含まれることを認め、これを渋みの要因と推測している。渋味の品種間差とギ酸含量との関係については、明らかにされていない。
 これらを総合すると、きゅうりの良食味には果糖、ブドウ糖の含量が関係しそうである。グルタミン酸はうま味を示すアミノ酸ではあるが、むしろ貯蔵後食味のよくない果実で増加し、グルタミン酸や他のアミノ酸の含量の高いことが必ずしも良食味にはつながらないものと考えられる。一方で、苦味成分であるcucurbitacinは一般的な品種の果実では滅多にみられず、これらの品種の食味の差異には影響しないと予想される。
(3) 香り
   きゅうりの香りについては、畑中(2005)の成書に詳しい。きゅうりの重要な香気成分ひとつはスミレ葉アルデヒドと呼ばれる(2E, 6Z)-nonadienalであり、もうひとつがキュウリアルコールともよばれる(2E, 6Z)-nonadienolである。含量は前者が10倍ほど多い。スミレ葉アルデヒドは、きゅうりの香りそのものであり、キュウリアルコールのにおいは、ナマコの香りまたはクサガメの香りとされる。これらの香り成分は、α-リノレン酸およびリノール酸から生体内の酵素の作用で生成され、同様に生成される緑葉の香り(青葉アルコール類)が炭素数6であるのに対して、炭素数9であることが特徴的である。
 これらきゅうりの香気成分は組織を破壊することによって生成される。したがって、組織を破壊する前に加熱すれば、生成されず(Palma-Harrisら,2001)、加熱きゅうりでは特徴的なキュウリ臭はしない。香気研究においては、ガスクロマトグラフィーが用いられるが、通常感度はヒトの鼻ほど高くないため、香気成分の濃縮が必要である。Palma-Harrisら(2001)は、香気成分の濃縮に固相マイクロ抽出法を用いていて分析の効率化を図っている。
 ヨーロッパでの実験結果であるが、低温(4.4℃)に7日間さらすことで、きゅうりの香り成分であるスミレ葉アルデヒドの生成量が低下した(Geduspan and Peng, 1986)。官能評価はなされていないが、低温貯蔵されたきゅうりのおいしさの低下に関係するかもしれない。
 きゅうりの品種や貯蔵条件等により、口に入れた時の香りは明らかに異なる。しかしながら、これらの差異について香気成分の面から比較された研究例はない。ガスクロマトグラフィーによる香気成分分析においては、香気成分の濃縮を含めた分析の再現性が高くないこと、ひとつの試料を測定するのに多大な時間と手間を要すること、主要な香気成分が組織の破砕によって初めて生成されることなどが、官能試験とのデータのすり合わせを困難にしているものと考えられる。
 食感や香りについては品種固有の性質が強く、一方糖などの成分については気象条件によっても変動するものと推定される。したがって、おいしいきゅうりを提供するには消費者の好みにあった品種の選択と、果実中のブドウ糖の定量などの手法による鮮度管理や栽培環境の把握が重要と考えられる。
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(野菜茶業研究所 堀 江 秀 樹)

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