第2章 野菜のおいしさに関する検討結果の概要
5 販売実験に供するにんじんの品質特性評価
 本事業での販売実験に供するにんじんの特性評価を行い、販売実験サンプルの選定及び実験に使用する資料作成のための基礎データを得る。なお、試験Tは全農営農・技術センター農産物商品開発室、試験Uは千葉県農業総合研究センターが担当した。
試験T
1.試験材料
 にんじんは、千葉県富里市の農家圃場(T-1)で農家慣行によって栽培された、「向陽二号(タキイ種苗)」、「千浜五寸(横浜植木)」、「ひとみ五寸(カネコ種苗)」の3品種であり、11月中旬に収穫して調製・洗浄後、営農・技術センターに送付された。到着したにんじんは直ちに分析及び官能評価試験に供した。
2.試験結果
(1) 水分含量:「ひとみ五寸」、「向陽二号」、「千浜五寸」の順に多かったが、その差は最大でも0.8%程度であった。水分含量と他の分析項目との相関はなかった。
(2) 糖度:「千浜五寸」、「向陽二号」、「ひとみ五寸」の順に多かったが、いずれも0.5%以内の差であった。糖度と他の項目間との相関はなかった。
(3) 可溶性糖類含量:総量は、「向陽二号」、「千浜五寸」、「ひとみ五寸」の順で多く、「向陽二号」はショ糖とブドウ糖の量が他の2品種に比べ多かった。ショ糖は、いずれの品種でも最も多く、特に「千浜五寸」が多かった。
(4) 遊離アミノ酸含量:総量は、「ひとみ五寸」で多く、次いで「千浜五寸」、「向陽二号」の順であった。特に「ひとみ五寸」は、旨味・甘味関連アミノ酸含量が多かった。

表1  にんじん品種の成分

品種
水分
(%)
糖度
(Brix%)
可溶性糖類(g/新鮮重100g)
ショ糖 ブドウ糖 果糖 合計
向陽二号
千浜五寸
ひとみ五寸
90.6
90.3
91.1
7.0
7.2
6.8
2.4
2.8
2.5
1.9
1.6
1.5
1.3
1.1
1.0
5.6
5.5
5.0

(5) 官能評価:生、加熱とも、各項目のいずれにおいても品種間の有意差はなかった。生では、「向陽二号」に比べ、「千浜五寸」、「ひとみ五寸」が旨味、甘味、総合評価が高い傾向が見られた。また、生の食感が硬い品種は、糖度が低い傾向にあった。
   一方、加熱した場合は、「向陽二号」が他の品種よりも旨味と甘味が強い傾向にあり甘味は果糖やブドウ糖の量と正の相関があった。
   以上の結果より、生食用としては「千浜五寸」、加熱用としては「向陽二号」の評価が高い傾向にあった。

表2 にんじん品種の官能評価結果

品種
加熱
香り 食感 旨味 甘味 総合 食感 旨味 甘味 総合
向陽二号
千浜五寸
ひとみ五寸
-0.167
-0.111
-0.111
0.444
0.222
0.611
-0.167
0.222
0.278
0.111
0.389
0.235
0.167
0.389
0.278
0.222
-0.056
-0.167
0.611
0.333
0.222
0.778
0.333
0.278
0.556
0.444
0.333

試験U
 試験Tにおいては、成分や官能評価結果に3品種間の有意な差が認められなかった。そこで、約1か月後に、糖分と官能評価(加熱したもの)にやや差が認められた「向陽二号」と「ひとみ五寸」、これに風味の強さに差があると考えられる無肥料栽培の「馬込選抜」を加えて、それらの品質特性を比較評価した。
1.試験材料
 にんじんは、T-1農家圃場で通常に栽培した「向陽二号」と「ひとみ五寸」、及び富里市のT-2農家圃場において無肥料無農薬で栽培された「馬込選抜」(「馬込太夫三寸」より自家採種して選抜した系統)の3試料を供した。3試料は、2007年12月25日に収穫して調製・洗浄した。

 12月26日に分析及び食味(官能)評価試験を行ったが、試験にはいずれも200±20gのL級個体を用いた。各個体は、基部及び先端を約2cm切除し、残りの部分を縦に8等分して分析及び官能評価に供した。

 供試したにんじんの外観等の特徴は以下のようであった。
  • 「向陽二号」:外観の色はオレンジに近く、3試料の中ではやや薄く感じられる。内部中心柱の部分も淡いオレンジ色である。
  • 「ひとみ五寸」:外観の色は3試料の中では最も赤が濃い。また内部中心柱も濃いオレンジ色ないし赤色である。
  • 「馬込選抜」:外観の色は「向陽二号」より濃く、「ひとみ五寸」より淡い。内部中心柱は黄色であり、他の2試料とは明瞭な区別性がある(ただし、選抜・固定が完全でないためか、黄色の個体は約2/3)。
2.試験結果
(1)糖度及び糖含量
 にんじんジュースの糖度及び糖含量を表3に示した。糖度は3試料ともに7〜8であり、有意な差はなかった。遊離の糖はショ糖、ブドウ糖、果糖が含まれており、それらの合計量は6〜7g(ジュース100mL当たり)であったが、試料間に有意な差はなかった。一方、糖の構成には差が認められ、ショ糖は「馬込選抜」が他の2試料より低く、また還元糖(ブドウ糖+果糖)含量は「ひとみ五寸」が他の2試料より低かった。

表3 にんじん(ジュース)の糖度及び糖含量

品種・系統
糖度
(Brix%)
糖含量(g/100mL)
ショ糖 ブドウ糖 果糖 合計
向陽二号
ひとみ五寸
馬込選抜
7.7a
7.8a
7.1a
3.8a
4.1a
3.1a
1.5ab
1.3b
1.7a
1.4a
1.1b
1.5a
6.8a
6.5a
6.3a
       注)異なる文字間には5%水準で有意差あり
 官能評価結果を表4に示した。"にんじん特有の風味"は「馬込選抜」が他の2試料より有意にやや強かった。「ひとみ五寸」の"にんじん特有の風味"は「向陽二号」のそれに比べてやや弱いが、有意な差ではなかった。"硬さ"は「ひとみ五寸」が他の2試料より有意にやや弱かった。また、"甘み"については3試料に差はなかった。

表4 にんじんの官能評価結果

品種・系統
評価スコア
にんじん特有の風味 硬さ 甘み
向陽二号
ひとみ五寸
馬込選抜
0.06b
-0.56b
0.89a
0.61a
-0.39b
0.50a
0a
0.22a
-0.11a
       注)異なる文字間には5%水準で有意差あり
 評価コメントには、「馬込選抜」は「にんじんらしい味、味が薄く風味が強い」、また「ひとみ五寸」は「にんじん臭がない、個性がない」等とあった。
 以上のような評価結果を総合すると、「向陽二号」は「にんじん特有の風味と甘みがあり硬さも普通」、「ひとみ五寸」は「にんじん特有の風味はやや弱いが甘みがあり軟らかい」、「馬込選抜」は「にんじん特有の風味が強く甘みや硬さは普通」ととりまとめることができる。なお、"甘み"について差がなかったことは、糖含量に有意な差がないことと一致した結果となった。
(千葉県農業総合研究センター 宮 崎 丈 史)


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