前年度、嗜好型官能評価では、きゅうり、にんじん、ほうれんそうについて、さまざまな角度から評価を行った結果、野菜のおいしさ評価に際して考慮すべき重要なこととして、生食と加熱調理では評価が大きく異なること、消費者は常に嗜好が形成されている人と、形成途上にある人、鑑別能力のある人と、ない人から成り立っており、それらを区別(差別ではない)して考えないと、品質は限りなく低きに流れる構造になっていることを明らかにした。
これらの知見を踏まえ、本年度はさらに異なる野菜について検討し、特ににんじんについてはより詳しく追求するために、特徴のある3種類を選んで千葉県の富里で栽培し、多面的な評価を実施した。特に素材としての野菜の持ち味は調理によって引き出されるものであることから、調理における味付けとの関係についてはより詳細な検討を行った。
ここで用いた野菜は、場合に応じて代表的と思われる品種を試食会などで予備選別し、産地から直送したものであるが、昨年度の報告書でも述べたように、同一品種でも栽培する場所や天候、品種に適した季節など、多くの要因で変動するため、ここで得られた結果が、その品種について一般的に成り立つわけではない。そのときに用いた試料が示した特性に対する評価者の反応から、どのような特性はどのように評価されるかを調べるのが目的であり、偶々そのときに用いた試料によって品種の優劣を決めようとするものではない。
また、ここでの評価は主に農大栄養科学科の学生をパネルとしたので、年配者の嗜好や価値観とは異なる面もあると思われるが、嗜好の本質的な構造においては共通性が高いものと思われる。勿論地域によっても調理方法も違えば価値観も違うはずであるが、それを言い出せばきりがなく、何も言えなくなる。しかし、喩え可能であったとしても全国の嗜好の平均値を求め、野菜のおいしさを画一化することが目的ではない。ある地域のある集団について嗜好を支配している要因や嗜好の構造についていえる確かな一面を捉えることができれば、それをベースとして他の集団との比較も可能になるはずであり、そういった集団の違いも尊重しながらおいしさの本質を追究すべきである。ここではそういった嗜好の構造のベースを探ることを目的とした。
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