第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
T 嗜好型官能評価の概要
4.きゅうりの評価−その2
 2回目の実験では、収穫後の鮮度とおいしさの関係について以下の実験を行った。
<試料>

A1:キセキ       12月7日収穫  A2:同 12月12日収穫 
B1:グリーンラックス 12月7日収穫  B2:同 12月12日収穫
C1:ハイグリーン22  12月7日収穫  C2:同 12月12日収穫
D1:エクセレント    12月7日収穫  D2:同 12月12日収穫

 生育ステージは、Aは後期、Bは中期、Cは初期、Dは後期であった。収穫日はいずれも晴れで、12月6日も晴れ、12月11日は曇りであった。


(左:12月7日収穫    右:12月12日収穫)

 上の写真は収穫時期を並べて撮影すべきところ別にしたため比較が困難であるが、実物でも色も形も品種間に大差はなく、鮮度も素人には一見しただけでは判別は難しく思われた。

 評価は生食(スティック)と薄切りでドレッシングをつけた場合について、同じ種類同志を比較して行った。きゅうりは頭を3cm、尾(花落ちサイド)2cmを切り取り、スティックでは上下2つ割さらに縦4割として、上は上同志、下は下同志を比較するようにした。ドレッシングをかける場合は斜め薄切りにして同じ部位同志を組み合わせた。なお、香りが蒸散するため、試料は丸ごと与え、各自が切って盛りつけ、直ちに評価できるようにした。スティックとドレッシングでは別のきゅうりを評価した。例えば前者でAを評価したモノは後者ではBを評価した。ドレッシングはMcCORMICKフレンチ(販売者ユウキ食品(株))またはキューピーシーザーサラダドレッシング(製造者キューピー株式会社)を用いた。

 各項目を7段階尺度で評価し、食べたい方を選んでもらった。

<結果>
 最終的にどちらが食べたいとされたかの選択率を図13に示す。


図13.スティックと薄切りでドレッシングをかけた場合により食べたいとした人数

 驚くべきことに、唯一Dでドレッシングをつけた場合のみ、若干新鮮な方が多く選ばれたが、他はすべて収穫後6日間過ぎても、収穫1日後と差がないか、より好ましいとされた。

 さらに、評価の内容を各特性について詳細に見たのが図14である。特性のプロフィールにはそれぞれ違いが見られる。ドレッシングをかけることによる評価の変化も、ものによってそれぞれであったが、特にD2はそのまま食すると、苦いような薬臭いような異味、異風味が感じられ、多くの回答者がそれを指摘し、評点にも大きく現れていた。ところが、ドレッシングをかけて食べたときは、評価はむしろ逆転した。ドレッシングによって異味、異風味がマスクされ、あるいはそれらの味や風味がアクセントになったのかもしれない。また、D2は中身もつぶれやすい感じであったので、生では好まれなかったが、薄切りにしてドレッシングで食べたときは気にならなかったものと思われる。要するに極端に言えば、ドレッシングやマヨネーズをつけて食べるなら、味や風味はどうでもよく、食感さえあればいいと思われるのもやむを得ないことを示唆している。

 いずれにせよ、きゅうりの生命と思われた新鮮さをどう考えるべきであろうか。昨年度の調査では、主婦が最も望むきゅうりはパリッとして、新鮮なものであったが、購入後消費されるまでの保存期間も長いことも示された。長持ちしてパリッとするきゅうりは消費者のニーズに合わせた生産者の努力の結果ともいえる。昨年度の報告書では、パリッとしたミニきゅうりは味も香りも乏しく、特に食感を好む人にはよいとしても、それを一般のきゅうりに当てはめるべきではないと述べたが、それは杞憂ではなくたちまち現実のものとなった感がある。

 このようなきゅうりの変化は好むと好まざるとに拘わらず、もとを辿れば消費者の望みを叶えんとしたものでもあるが、実際にきゅうりそのものの香りや味はどうでもいいはずはない。生産者は消費者の要望を短絡してとらえ、それを強調するだけでなく、プロとしての良識ある判断が必要であり、消費者も要望には責任を持ち賢い選択をする必要である。




図14.スティックとドレッシングで食した場合の収穫後日数の異なるきゅうりの比較

 (平成19年12月13日実施)
(東京農業大学 山 口 静 子)
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