第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
T 嗜好型官能評価の概要
5.にんじんの評価 その1
<試料>

A:ベーターリッチ(青森県産)
B:彩紅(青森県産)
C:向陽二号(北海道産)


(左から A:ベーターリッチ B:彩紅 C:向陽二号)

 いずれも産地または卸業者より直送された新鮮なものを用いた。 評価は生食とポトフで行った。生食の場合は上下を切り落とし、縦切りで放射状に8等分したもの2切れずつ供した。ポトフでは、厚さ1cmに輪切りにしたものを、大根、牛肉(赤身スライス)と煮たものを供し、にんじんのみを評価した。評価項目は、色彩の好ましさ、にんじん風味(にんじん臭さ)の強さ、同好ましさ、食感の好ましさ、じんじんとしての甘味の強さ、同好ましさ、うま味の強さ、味全体の好ましさ、総合評価で、+3から-3までの7段階評価とした。参考までに汁についても甘味とうま味について評価した。1人が3種のうち2種を評価し、AとB;AとC;BとCのすべての組み合わせを同数ずつ評価した。初めに生、次にポトフを評価した。パネルは栄養科学科の学生48名で、昼食時に評価した。
<結果>
 3種を総合した平均値を図15に示す。参考までに、汁についても図16に示す。また、Brix測定値を表1に示す。BrixはCが最も高くAは低かった。生と煮た場合で結果は異なった。Bはにんじん臭さが強く、生での風味は低く評価された。Cは甘味が強かったが、生では味に大差がつかなかった。しかし、煮た場合は、味の差が明瞭になり、BとCは略互角で、甘味の強さ、甘味の好ましさ、うま味、味全体の好ましさがAより高く評価され、総合的には、にんじん風味も強いBが最も高く評価された。また汁は、Brixの高いCの甘味とうま味が強く感じられ高く評価された。生食の場合、咀嚼しにくく、溶出する呈味成分の唾液と混合する量も少ないために、にんじん本来のもつ味のポテンシャルが発揮しにくいことが考えられる。また、にんじん臭さも、加熱や他の食材の風味と調和することによって快に転ずると思われる。特に重要なのは、にんじんのグルタミン酸やアスパラギン酸と動物性食品である肉やだし中のイノシン酸との共存によって、うま味の相乗効果が引き起こされることである。それについては以下の実験でさらに詳しく検討する。


図15.異なる喫食条件におけるにんじん3種の特性評価平均値


図16.汁の評価結果


 以上は評価の平均値であるが、重要なことは消費者には、にんじんの好きな人も、さほどでもない人もいることであり、その価値観がどのように反映されているかが問題である。学生のにんじんに対する嗜好度は7段階評価で5以上の人と4以下の人が略同数ずつであったので、それらを群別してすべての試料を通しての平均値をプロットしたのが図17である。


図17.にんじんの好きな人と普通以下に群別したときの全試料の平均値比較

 群間で最も評価に差が大きいのはにんじん臭さの好ましさで、生も煮た場合も強さは同様に感じているが、普通以下群はにんじん臭さを好まなかった。また、甘味の強さは生では普通以下群の方が弱く感じていたのは、好まないためによく噛みしめなかったためとも考えられる。さらに、甘味の強さと総合評価の相関係数を求めると(表2)、にんじんが好きな人の方が甘いにんじんを好む傾向が伺える。


 昨年も示したように、にんじんのように好き嫌いの大きい食品の受容性を高めるための方策として、香気を弱め、糖度を増すことが考えられるが、このデータからは、香りも重要であること、甘味の増強はにんじんを好まない人には有効でないこと、消費量を増大させるために生食での嗜好に合わせることは必ずしも妥当でないことがここでも確認された。
 (平成19年7月11日実施)
(東京農業大学 山 口 静 子)
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