第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
V きゅうりに関する官能評価と機器分析の比較 − きゅうり(1)
1.目的
 きゅうりの食味に関与する因子の探索のために、品種毎の成分分析および官能評価を行ない、成分特性の品種間差を評価した。特に今回は保存日数の影響に着目した。

 

2.試験内容
(1)対象品種
 対象としたキュウリは別表1のとおり。A、Dに対してa、dに関しては10日前に収穫したものである。なおAはDよりも古い品種である。

別表1 供試試料 きゅうり1

品種名 収穫日 特徴 発表年度
A 女神2号 11月11日
多収性が特徴で全国に普及、
果皮が硬く、果肉が粘質で、
食味評価はよくなかった。
1979
a 上記10日前
D ハイグリーン21 11月11日
グリーンラックス2の
食味・食感で、より多収性。
2001
d 上記10日前

 

(2)サンプリング
 各試験区とも、4本分×3回繰り返し分析を行なった。

 両先端3cm切り落とした後、縦切りにして、水分、Brix糖度、可溶性糖類測定に用いた。官能検査用サンプルについても、同様に両端3cmを切り落とし、縦切りにして各試験区1/4ずつ供した。


(3)分析方法

ア.水分含量
 108℃で乾燥後の重量の減少率から算出した。

イ.糖度
 おろし金ですりおろしたのち、搾汁液をBrix糖度計で測定した。

ウ.可溶性糖類
 80%エタノールを加え、カートリッジミルで粉砕、定容したものを遠心分離させたのち、0.45μmのメンブランフィルターを通したものをHPLCにより分析した。

エ.官能評価
 上記2(2)のとおり調整した後、少なくとも5分放置した後、7段階評価法により、実施した。香り(噛んだときに広がる香り)、食感(歯ごたえ)、ジューシーさ、渋み、甘味(甘味、旨味)について強度を-3から+3とした。総合評価については非常に悪いを-3、非常によいを+3の7段階とした。

3.結果および考察
(1)水分含量(図1)およびBrix(図2)
 品種Aaでは、水分含量・BrixともにAとaに差はなかった。品種Ddでは、Dがdに比べ水分が少なく、Brixが高かったが、その差は水分、Brix ともに0.4%程度であった。水分含量とBrixには負の相関(r=-0.990)が見られた。

 収穫直後(AとD)の品種間差としては、Aの方が水分が多く、Brixが低かった。

(2)可溶性糖類含量(図3)
 総量は品種Ddが高い傾向にあり、いずれの品種も収穫後10日経過したもの(a、d)で含量が減少していた。構成される主要糖はフルクトース(果糖)とグルコース(ブドウ糖)であった。
(3)官能評価結果(図4)
 いずれの品種も、収穫直後のほうが貯蔵期間の長いものに比べて総合評価が高く、品種ではDがAより評価が高かった。「香り」ではA、a間に、「甘味」ではD、d間に有意差が見られた。なお、「香り」としては、新鮮なきゅうりらしい香りが評価されることを期待したが、今回得られた結果では、むしろ貯蔵に伴う深い不快なニオイを評価したようである。また「甘味」は、果糖、ブドウ糖と正の相関(r=0.950、0.987)があり、「渋み」はショ糖と負の相関(r=-0.988)、「香り」と正の相関(r=0.963)にあった。「ジューシーさ」と水分含量には相関がなく、ジューシー感には単に水分含量だけではなく、果肉の成分組成(多糖質など)成分やその保水性なども複合的に関与している可能性がある。

 総合評価は「甘味」と正の相関(r=0.973)にあり、「甘味」には果糖・ブドウ糖含量が関係していることから、キュウリの食味に関連する因子は、可溶性糖類含量であると推察された。

 以上の結果より、供試品種のうち今回の試料ではDがAより好ましいとの結果が得られ、その評価に関与している成分項目は、果糖・ブドウ糖であるといえる。

(全農営農技術センター)
4.食感等について機器を用いた補足実験結果
(1)食感(テクスチャー)の機器評価
 果肉硬度、CI(パリパリ度)は堀江ら(2004)に基づき、果皮硬度はSakataら(2008)に基づき、テクスチャーアナライザーを用い直径3mmの円柱型プランジャーの貫入試験によりもとめた。試料は果実中央部とした。胎座割合は、中央部輪切り面において、胎座部分の直径を果実の直径で割ったものである。グルテストは糖尿病患者用の血糖値自己診断用のセンサーである。ジューサーで絞ったキュウリ果汁濾液を水で10倍に希釈したもの約50μlを血液の代わりにセンサー感応部に接触させ、数値を読み取った。

表1.きゅうりの物性比較他

果肉硬度 N CI 果皮硬度 N 胎座割合 %  グルテスト %
A
10.0  
11.6  
9.9  
61.8  
0.845  
a
10.4  
12.9  
10.3  
55.0  
0.485  
D
10.1  
11.9  
9.5  
58.1  
1.005  
d
10.0  
15.5  
10.4  
50.6  
0.425  

      グルテストは血糖値診断用センサー(1個100円程度)
      パリパリ度は野茶研開発のCI値を示す。高いと、パリパリからバリバリ。

 硬度は噛みついた時の硬さ、CIはパリパリした感覚に対応する。CI、果皮硬度とも保存により増加する傾向にあった。これは官能評価における「食感(歯ごたえ)」の増加とも傾向が一致する。Aについては官能評価の「食感」値が低いが、果肉硬度、CIが低いことだけでなく、より軟らかい部分である胎座の割合が大きいことも寄与しているものと推定される。

 糖を個別に分析するのはかなり煩雑で時間を要する。血糖値診断用のセンサー(グルテスト)を用いた迅速評価を試みたところ、ブドウ糖の分析値と傾向が一致した。

文献
堀江ら(2004) 園芸学研究,3,425-428.
Sakata, Y.ら(2008) J. Japan Soc. Hort. Sci., 77, 47-53.

(野菜茶業研究所)
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