第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
V きゅうりに関する官能評価と機器分析の比較 − きゅうり(2)
1.目的
 キュウリの食味に関与する因子の探索のために、品種毎の成分分析及び官能評価を行ない、成分特性の品種間差を評価した。

 

2.機器分析方法
(1)対象品種
 対象としたキュウリは別表2のとおり。東北の産地から直送したものである。

別表2 供試試料 きゅうり2

品種名
産地 作型・品種特徴 着日 記号
エクセレント356
奥州市江刺区
抑制栽培、収穫初期
9/11 A
モア
釜石市
露地普通栽培、収穫後期
9/11 C
フリーダム
釜石市
抑制栽培、イボ無し、自根(ブルーム)、収穫初期
9/11 B
余蒔ききゅうり
福島会津若松市
昔の品種
9/13 F
四川2号
盛岡市
露地遅出し、収穫中盤期、香りがある、四葉系
9/11  
南極1号
二戸市
露地普通栽培、収穫後期
9/11 D

 

(2)サンプリング
 1品種につき、4本分×3回繰り返し分析を行なった。

 以下の図のように、両先端3cm切り落としたのち、そこからさらに1.5cmを測りとり貫入抵抗測定用とした。中心部は、破断強度を測定したのち、縦に16等分して水分、Brix糖度、可溶性糖類測定に供した。

 

(3)分析方法

ア.水分含量
 108℃で乾燥後の重量の減少率から算出した。

イ.糖度
 おろし金ですりおろしたのち、搾汁液をBrix糖度計で測定した。

ウ.可溶性糖類
 80%エタノールを加え、カートリッジミルで粉砕、定容したものを遠心分離させたのち、0.45μmのメンブランフィルターを通したものをHPLCにより分析した。

エ.貫入抵抗
 貫入抵抗測定用に両端1.5cmサンプリングした部分を下図のように、@中心側、果皮から5mm部分の果肉の貫入抵抗を測定したのち、A点線で半分に切断し、B果肉から果皮に向けて貫入抵抗を測定した。測定には先端が平らな円柱型プランジャー(直径=3mm)を用いた。
 測定には、フドーレオメーター(不動工業化株式会社製)を用いた。
 なお、先部と尻部と区別してそれぞれ測定し、果肉における貫入抵抗最大値と果皮を貫通する際の抵抗値(最大値)により、各品種の比較評価をした。

オ、切断応力
 両端3cmを切り落とした後、肉硬度試験機(全研社製 MEAT-SHEAR 3000型)を用いて、中央部における切断応力を測定した。ただし、測定対象は、測定部に入る果径の品種のみとした。

3.機器分析の結果および考察
(1)水分含量
 品種間で比較するとF、Cの順で多く、B、Dで少ない傾向はあるものの、その差は1%の範囲にとどまるものであり、著しい差はないものと考えられる。
(2)Brix糖度
 B、Dで高く、Fで低い傾向が見られた。Brixは水分含量と負の相関が見られた。
(3)可溶性糖類
 総可溶性糖類は、B、空白の順で多く、Fで少ない傾向が見られた。また、この総可溶性糖類含量の差は、果糖およびブドウ糖含量の違いを反映していた。
(4)貫入抵抗
ア.果肉
 尻部(花側)より先部(蔓側)で貫入抵抗値が高い傾向にあった。B以外の品種においては、先部と尻部で果肉の貫入抵抗値に差があり、同一のキュウリでも食べる部分によって、食感が異なる可能性があることが示唆された。

 各品種を比較するとAで抵抗値が高く、Bで低い傾向が見られた。

イ.果皮
 先部の果皮と果肉については正の相関(相関係数0.76)傾向が見られた。

 果肉同様に果皮でも尻部より先部で貫入抵抗値が高い傾向にあったが、品種間における大きな差は見られなかった。

(5)切断応力
 無印とAが他の品種に比べ、やや高い傾向にあった。なお、Fは、果径のサイズが測定部に合わなかったため、測定不可能であった。切段応力と果皮の貫入抵抗値には、同様の傾向が見られた。

表2.成分項目間の相関

水分 Brix 果糖 ブドウ糖 ショ糖 糖合計 先部
(果肉)
尻部
(果肉)
先部
(果皮)
尻部
(果皮)
水分
Brix
fru
glu
suc
total
先部(果肉)
尻部(果肉)
先部(果皮)
尻部(果皮)
切断応力
1.000
-0.859
-0.690

-0.511
-0.493
-0.780
0.429
0.213
-0.099
-0.105
0.214
-0.859
1.000
0.783
0.227
0.279
0.606
-0.420
-0.303
0.119
0.025
-0.112
-0.690
0.783
1.000
0.166
-0.094
0.645
-0.713
-0.159
-0.328
-0.003
0.020
-0.511
0.227
0.166
1.000
0.506
0.857
-0.190
-0.061
0.176
-0.005
-0.600
-0.493
0.279
-0.094
0.506
1.000
0.402
0.293
-0.044
0.527
0.320
-0.163
-0.780
0.606
0.645
0.857
0.402
1.000
-0.493
-0.132
-0.002
0.022
-0.438
0.429
-0.420
-0.713
-0.190
0.293
-0.493
1.000
0.433
0.757
0.434
0.330
0.213
-0.303
-0.159
-0.061
-0.044
-0.132
0.433
1.000
0.083
0.342
0.332
-0.099
0.119
-0.328
0.176
0.527
-0.002
0.757
0.083
1.000
0.407
-0.014
-0.105
0.025
-0.003
-0.005
0.320
0.022
0.434
0.342
0.407
1.000
0.456
(全農営農・技術センター)
4.官能評価結果及び考察
(1)方法
 官能評価は20名のパネルを2グループに分け、1グループ(10名)が3種類のキュウリを味わい評価した。評価項目はそれぞれ、好ましいものを+3、好ましくないものを-3とする評点法とした。キュウリはスティックに切ったものを評価試料とした。

(2)結果と考察
 Bについては担当したパネル全員が最も好ましいと評した。この品種では、パリパリ感においてCに劣るものの、他の項目ではC、Eより優れていると評された。またこの試料は甘味が好ましいとされるが、分析値において糖含量やBrixが高いことに一致する。パリパリ感の低いことは、果肉の貫入硬度の低いことでも一部説明可能である。

 Fについては味や風味の評価が低く、総合評価が悪かった。これは糖含量やBrixの低い試料でもあり、糖含量やBrixはきゅうりのおいしさの重要なパラメータと考えられる。一方で、FとDの間で果肉(先部)の貫入硬度は差がなかったが、パリパリ感の評価には差がみられた。CIなど硬度以外のパリパリ感の評価法導入が必要である。

 また、官能評価によるみずみずしさと水分の間には関係が観察されず、みずみずしさについては、別の評価法の適用が求められる。

(野菜茶業研究所)
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