第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
W 大きさ別ほうれんそうの品質とおいしさ
参考
 上記結果のほかに、ほうれんそうとこまつなについて、成分に及ぼす生育程度(大きさ)の影響に関するデータが得られたので、以下に紹介する。
T 5月収穫ほうれんそうの分析結果について
 2007年5月中旬に、(独)野菜茶業研究所が大きさの違うほうれんそうの成分を分析(2反復)した。分析に供したほうれんそうは、12月収穫ほうれんそうと同一の品種を同じ農園で栽培したものである。MS級ほうれんそうは播種後の生育日数が35日であり、2L級ほうれんそうの生育日数は50日であった。

 分析結果を表1に示した。通常収穫物より長期間栽培して大きく生育させた2L級は、MS級と比べて糖含量が高く硝酸含量は低くなった。2反復の結果であるため、平均値の差の有意性については検定できないが、これらの含量には差があると推量された。一方、シュウ酸含量の差は小さかった。

表1 5月収穫ほうれんそうの成分分析結果(新鮮重100g当たり)

大きさ
糖(g) 硝酸(mg) シュウ酸(mg)
葉身 葉柄 葉身 葉柄 葉身 葉柄
MS
2L
0.8
1.1
1.2
3.1
70
10
580
330
600
530
220
180

 5月収穫と12月収穫における、大きさが異なるほうれんそうの成分分析結果が異なった。この要因の一つとしては、生育環境の影響が挙げられる。すなわち、5月収穫ほうれんそうは、気温が上昇する時期に生育するため、生育速度も大きい。他方、12月収穫ほうれんそうでは、収穫に向かって気温が下降し、生育が緩慢となる環境で育つ。こうした違いは、光合成産物の利用方向や利用量に差を生じさせることが推量される。このように、大きさと品質との関係は一定ではなく、栽培環境や品種によっても異なるため、成分変動を生じる機構を解明し確実な結論を得るためには、さらなる実験が必要と考えられる。

 

U 12月収穫こまつなの成分分析及び食味評価結果について
 ほうれんそうと同一の農園で栽培された、大きさの異なるこまつなについて、ほうれんそうと同様の調査を行った。こまつなの品種は「写楽」(トキタ種苗)であり、収穫や調査は上記の12月収穫ほうれんそうと同様に行った。なお生育期間は、ほうれんそうと同様、M級が約60日、L級は約70日であった。
1.食味評価結果
 食味評価は、表1に示したように、お浸し・油炒め共にM級をおいしいとしたパネルが多いという結果となった(有意な差は油炒めのみ)。

表1 一対比較法によるこまつなの食味評価結果

評価試料
評価結果(評価人数) 有意差検定
M級がおいしい L級がおいしい
お浸し
油炒め
32
36
20
176
n.s
       注)n.sは有意差なし、*は5%水準で有意

2.成分等の分析結果

 こまつなの形状を表2に示した。L級はM級に比べ、葉長は約4cm多いだけであったが1株重は約1.5倍あった。また、葉身率が低下したことは、L級では葉柄が伸びてその比率が高まったことを示している。

表2 食味評価に供したこまつなの形状

大きさ
葉長(cm) 1株重(g) 葉身率(%)

24
28
34
52
36
28
       注)葉身率は葉身重/全重×100
 成分分析結果を表3に示したが、糖含量には差が無く、水分と硝酸含量はL級が、ビタミンC含量はM級がやや多くなった。L級でビタミンCが少なく硝酸が多くなったことは、葉柄部分の比率が高まったことと関連していると考えられた。

表3 食味評価に供したこまつなの成分

大きさ
水分
(%)
糖含量
(g/100gFW)
ビタミンC含量
(mg/100gFW)
硝酸含量
(mg/100gFW)

91.6±0.3
92.2±0.3
1.7±0.1
1.7±0.1
65±3
58±3
320±14
370±20

 こまつなはM級とL級との成分差が小さかったが、食味ではM級をおいしいとする評価が多かった。コメントからは、同程度であった成分を反映するかのように甘み等の味の差は小さく、シャキシャキ感などの食感が評価のポイントになっていることがうかがわれた。
(千葉県農業総合研究センター 宮 崎 丈 史)
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