第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
X 販売実験に供するにんじんの品質特性評価
 本事業の販売実験に供するにんじんの特性評価を行い、販売実験サンプルの選定及び販売関連資料作成の基礎データを得る。なお、試験Tは全農営農・技術センター農産物商品開発室、試験Uは千葉県農業総合研究センターが担当した。
にんじんの品質特性評価(試験T)
1.試験材料
 にんじんは、千葉県富里市の農家圃場(T-1)で農家慣行によって栽培された、「向陽二号(タキイ種苗)」、「千浜五寸(横浜植木)」、「ひとみ五寸(カネコ種苗)」の3品種であり、11月中旬に収穫・調製・洗浄し、全農営農・技術センターに送付された。到着したにんじんは直ちに分析及び官能評価試験に供した。
2.試験方法
(1)サンプリング
 にんじんの頂部3cmを切り落とし、ピーラーで皮を剥いた後、縦切し、水分、糖度、可溶性糖類、遊離アミノ酸測定(以上、11月19日)及び官能評価(11月20日)に供した。1品種につき、3回の繰り返し分析を行なった。なお、官能評価用サンプルは0℃で保管した。
(2)分析方法

 ア.水分
  108℃で乾燥後の重量の減少率から算出した。

 イ.糖度
  すりおろしたにんじん搾汁液の糖度(Brix%)をデジタル糖度計にて測定した。

 ウ.可溶性糖類
  にんじんに80%エタノールを加え、ホモジナイズして粉砕後、80℃湯浴中で15分加熱抽出した。抽出液は、冷却後定容し、遠心分離後、0.45μmのメンブランフィルターを通して高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した。

 エ.遊離アミノ酸含量
  可溶性糖類抽出液の上澄みを10mL採取し、濃縮乾固後、0.02NHClを加えて定容とした。これを0.45μmのメンブランフィルターに通した後、アミノ酸自動分析計で測定した。

 オ.官能評価
  生はスティック状(1/6)にしたものを評価した。加熱は1cm幅の輪切りにし、コンベクションオーブン内で105℃、10min処理したものを評価した。評価は、別紙の様式により、5段階評価法を実施した。

3.試験結果
(1) 水分含量
 「ひとみ五寸」、「向陽二号」、「千浜五寸」の順に多かったが、その差は最大でも0.8%程度であった。水分含量と他の分析項目との相関はなかった。
(2) 糖度
 「千浜五寸」、「向陽二号」、「ひとみ五寸」の順に多かったが、いずれも0.5%以内の差であった。糖度と他の項目間との相関はなかった。
(3) 可溶性糖類含量
 総量は、「向陽二号」、「千浜五寸」、「ひとみ五寸」の順で多く、「向陽二号」はショ糖とブドウ糖の量が他の2品種に比べ多かった。ショ糖は、いずれの品種でも最も多く、特に「千浜五寸」で多かった。
 

表1  にんじん品種の成分

品種
水分
(%)
糖度
(Brix%)
可溶性糖類(g/新鮮重100g)
果糖 ブドウ糖 ショ糖 合計
向陽二号
千浜五寸
ひとみ五寸
90.6
90.3
91.1
7.0
7.2
6.8
1.3
1.1
1.0
1.9
1.6
1.5
2.4
2.8
2.5
5.6
5.5
5.0
(4) 遊離アミノ酸含量
 遊離アミノ酸の分析結果を表2に示した。総量は、「ひとみ五寸」で多く、次いで「千浜五寸」、「向陽二号」の順であった。特に「ひとみ五寸」は、旨味・甘味関連アミノ酸含量が多かった。
 

表2  にんじん品種の遊離アミノ酸含量(mg/100g)

アミノ酸
向陽二号 千浜五寸 ひとみ五寸
 L-Aspartic Acid
 L-Glutamic Acid
 L-Threonine*
 L-Serine
 Glycine
 L-Alanine
 L-Lysine
 L-Valine
 L-Methionine
 L-Isoleucine
 L-Leucine
 L-Tyrosine
 L-phenylalanine
 L-Histidine
 L-Arginine
 Total
14.9 
13.9 
28.8 
4.0 
0.4 
12.2 
0.8 
3.7 
1.0 
3.0 
1.9 
0.8 
3.0 
2.1 
12.0 
102.5 
14.2 
15.7 
51.1 
6.1 
0.5 
17.4 
1.1 
4.7 
1.4 
2.9 
2.1 
0.7 
3.1 
1.4 
13.5 
135.9 
19.5 
23.6 
67.0 
6.7 
0.5 
18.8 
1.1 
5.8 
2.0 
4.9 
2.6 
1.6 
4.5 
3.5 
13.9 
176.0 
      *相当ピークのL-Threonine換算値

 

(5) 官能評価
 

 各項目には、生、加熱とも品種間の有意差はなかった。生では、「向陽二号」に比べ、「千浜五寸」、「ひとみ五寸」が旨味、甘味、総合評価が高い傾向が見られた。また、生の食感が硬い品種は、糖度が低い傾向にあった。

 一方、加熱した場合は、「向陽二号」が他の品種よりも旨味と甘味が強い傾向にあり、甘味は果糖やブドウ糖の量と正の相関があった。

 以上の結果より、生食用としては「千浜五寸」、加熱用としては「向陽二号」の評価が高い傾向にあった。

 

表3  にんじん品種の官能評価結果

品種
加熱
香り 食感 旨味 甘味 総合 食感 旨味 甘味 総合
向陽二号
千浜五寸
ひとみ五寸
-0.167
-0.111
-0.111
0.444
0.222
0.611
-0.167
0.222
0.278
0.111
0.389
0.235
0.167
0.389
0.278
0.222
-0.056
-0.167
0.611
0.333
0.222
0.778
0.333
0.278
0.556
0.444
0.333
※官能評価用紙は略。PDF版(68、69ページ)をご覧ください。
(千葉県農業総合研究センター 宮 崎 丈 史)
>> 野菜のおいしさ検討委員会 平成19年度報告書 目次へ