第3章 野菜のおいしさに関する検討結果
X 販売実験に供するにんじんの品質特性評価
にんじんの品質特性評価(試験U)
1.試験材料
 にんじんは、千葉県富里市のT-1農家圃場で通常に栽培した「向陽二号」と「ひとみ五寸」、及び同市T-2農家圃場で無肥料無農薬で栽培された「馬込選抜」(「馬込太夫三寸」より自家採種して選抜した系統)の3試料を供した。3試料は、2007年12月25日に収穫して調製・洗浄した。

 12月26日に、千葉県農業総合研究センターにて分析及び食味(官能)評価試験を行ったが、試験にはいずれも200±20gのL級個体を用いた。各個体は、基部及び先端を約2cm切除し、残りの部分を縦に8等分して供した。

 供試したにんじんの外観等の特徴は以下のようであった。

  • 「向陽二号」:外観の色はオレンジに近く、3試料の中ではやや薄く感じられる。 内部中心柱の部分も淡いオレンジ色である。
  • 「ひとみ五寸」:外観の色は3試料の中では最も赤が濃い。また内部中心柱も濃い オレンジ色ないし赤色である。
  • 「馬込選抜」:外観の色は「向陽二号」より濃く、「ひとみ五寸」より淡い。内部中 心柱は黄色であり、他の2試料とは明瞭な区別性がある(ただし、選抜・固定が完 全でないためか、黄色の個体は約2/3)。
2.分析及び官能評価方法
 にんじんは3本を1サンプルとし、一つの試料について3サンプルの分析を行った。糖度及び糖分析のための調製にはジューサーを用い、8分割したにんじんの一部をジュースとした。これをろ紙でろ過し、糖度はろ液をそのままデジタル糖度計にて測定した。また糖は、ろ液を希釈して高速液体クロマトグラフで分析した。

 官能評価は20〜50才代の18人(男:13人、女:5人)で行った。それぞれに8分割したスティック状の試料を1本ずつ供し、“にんじん特有の風味”、“硬さ”、“甘み”の3項目について5段階(−2:弱い〜2:強い)で評価した。

3.試験結果及び考察
(1)糖度及び糖含量
 にんじんジュースの糖度及び糖含量を表1に示した。糖度は3試料ともに7〜8であり、有意な差はなかった。遊離の糖はショ糖、ブドウ糖、果糖が含まれており、それらの合計量は6〜7g(ジュース100mL当たり)であったが、試料間に有意な差はなかった。一方、糖の構成には差が認められ、ショ糖は「馬込選抜」が他の2試料より低く、また還元糖(ブドウ糖+果糖)含量は「ひとみ五寸」が他の2試料より低かった。

表1 にんじん(ジュース)の糖度及び糖含量

品種・系統
糖度
(Brix%)
糖含量(g/100mL)
ショ糖 ブドウ糖 果糖 合計
向陽二号
ひとみ五寸
馬込選抜
7.7a
7.8a
7.1a
3.8a
4.1a
3.1a
1.5ab
1.3b
1.7a
1.4a
1.1b
1.5a
6.8a
6.5a
6.3a
       注)異なる文字間には5%水準で有意差あり
 官能評価結果を表2に示した。“にんじん特有の風味”は「馬込選抜」が他の2試料より有意にやや強かった。「ひとみ五寸」の“にんじん特有の風味”は「向陽二号」のそれに比べてやや弱いが、有意な差ではなかった。“硬さ”は「ひとみ五寸」が他の2試料より有意にやや弱かった。また、“甘み”については3試料に差はなかった。評価コメントには、「馬込選抜」は「にんじんらしい味、味が薄く風味が強い」、また「ひとみ五寸」は「にんじん臭がない、個性がない」等とあった。

 なお、参考に“おいしさ(好み)”について質問したところ、「馬込選抜」は「向陽二号」や「ひとみ五寸」に比べて評価はやや低かったが、有意な差はなかった。

表2 にんじんの官能評価結果

品種・系統
評価スコア
にんじん特有の風味 硬さ 甘み
向陽二号
ひとみ五寸
馬込選抜
0.06b
-0.56b
0.89a
0.61a
-0.39b
0.50a
0a
0.22a
-0.11a
       注)異なる文字間には5%水準で有意差あり
 以上のような評価結果は、「向陽二号」は「にんじん特有の風味と甘みがあり硬さも普通」、「ひとみ五寸」は「にんじん特有の風味はやや弱いが甘みがあり軟らかい」、「馬込選抜」は「にんじん特有の風味が強く甘みや硬さは普通」ととりまとめられる。また、“甘み”について差がなかったことは、糖含量に有意な差がないことと一致した結果となった。

 なお、販売実験(2008年1月30〜31日に実施)に供されたにんじんの糖度を実測したところ、その結果は表1に示した数値とほぼ同等であったことから、試験Uと販売実験実施日との間におけるにんじん品質の変化は小さいものと推量された。したがって、本とりまとめは販売実験の際のPOP作成等に妥当なデータを提供できたものと考えられる。

(千葉県農業総合研究センター 宮 崎 丈 史)
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