第5章 野菜のおいしさに関する文献調査結果
3.だいこん
 だいこんのおいしさに関する文献は日本国内に限られるため多くない。限られた数の文献のなかでも辛味成分イソチオシアネートに関連するものが大部分を占める。
(1)イソチオシアネート
 生のだいこんは辛味を示す。辛味はイソチオシアネートによるものとされる。生体内ではグルコシノレートという辛味のない形で存在するが、組織が破壊されると内生酵素のミロシネーゼが作用して、グルコシノレートからイオチオシアネートを生成する。

 金ら1)は辛味だいこんの香気成分を分析し、その結果、4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートが香気中の96.5%を占めていた。本化合物は1.3ppm以上あると辛味臭を発した。だいこん中の本物質は627ppmであることから、辛味臭は4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートによるものとされる。

 岡野ら2)は4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートのだいこんの品種間差の解明に取り組んだ。その結果市販品種の多くは200〜300μmol/100mlの含量を示し、だいこんおろしの官能評価の結果、この成分含量の高いものほど辛味を強く感じた。

 これらのことから、4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートがだいこんの辛味に関係するものと考えられている。

(2)嗜好性
 だいこんおろしについて平本・松本3)が官能評価している。その結果、甘味のあるものが好まれ、辛味、苦味が強すぎるものは嫌われる傾向があった。いっぽうで、味の良否について甘味とは正の相関を示し、還元糖量とも相関がみられた。また用いたおろし器具の種類によっても評価が異なった。また品種間の嗜好性の差は、煮物にすることによって小さくなると報告されている。河村ら4)も辛味だいこんと青首だいこんを比較しながらおろしの評価を行った。4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネートは辛味だいこんで多く、青首だいこんでは本成分は尾部には頭部の2倍以上含まれていた。味については、辛味、苦味は尾部が強く、甘味、うま味については頭部が強かった。また、おろし辛味だいこんを60分放置すると辛味は弱くなった。

 西村5)はおろしだけでなく、千切りやいちょう切り、加水加熱のそれぞれの場合について部位差を官能評価している。だいこんおろしでは、下部が辛く、上部、中部がおいしいと評価された。また、千切り、いちょう切り、加水加熱では上部がおいしいと評価された。

 だいこんの品質評価法は小宮山6)が検討している。テクスチャー測定には直径25mm円筒プローブで圧縮する方法で、品種間の差が求められ、官能評価と一致した。浅漬け、煮物の場合の加工条件についても記載されている。

 西村・榊原7)はだいこんの品種や部位毎のアミノ酸含量とアミラーゼ活性を測定している。著者らによるとグルタミン酸はアミノ酸の半分以上を占めているため、旨味に影響するとされるが、分析値には疑問が残る。アミラーゼ活性については、上部に多いとされる。

 だいこんは日本の食卓に欠かせない野菜のひとつである。おろしだけでなく、煮物として食べる場合も多いはずであるが、研究は辛味を中心としておろしに集中している。煮ることによる食感の変化や出汁のしみこみ等興味深い部分が多く残されており、研究の深化が待たれる。

  1. 金和子、小林彰夫、河村フジ子、松本睦子(1989)辛味大根の辛味臭成分について.日本家政学会誌,40,603-608.
  2. 岡野邦夫、浅野次郎、石井現相(1990)ダイコン品種の辛味成分含量.園学雑,59,551-558.
  3. 平本ふく子、松本仲子(1992)だいこんの品質と嗜好.女子栄養大紀要,23,69-77
  4. 河村フジ子、松本睦子、金和子、小林彰夫(1989)おろし辛味大根の辛味特性について.日本家政学会誌,40,1051-1056.
  5. 西村敬子(1995)大根に関する研究(1)部位による食味の違いについて.愛知教育大学研究報告,44,37-49.
  6. 小宮山誠一(2002)だいこんの品質(かたさ・辛味)の評価法と調理・加工による変化.研究成果情報北海道農業,2001,276-277.
  7. 西村敬子、榊原洋子(2001)大根中の遊離アミノ酸及びアミラーゼ活性について−部位、品種による相違−.愛知教育大学研究報告,50,67-71.

(野菜茶業研究所 堀 江 秀 樹)
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