きゅうりは食感を重要とする野菜である。近年、きゅうりの食感とその評価法に関する報告が増えつつある。きゅうりの食感評価法としては、かつて米国ミネソタ大学でテクスチャープロファイル分析の手法を用いて解析された(Breeneら、1972、Jeonら1973)が、その後この方法の応用場面は限定的である。むしろ単純に円柱型のプランジャーを突き刺す方法が一般的である。
武田・稲山(1993)は果皮のある状態で測定した果皮硬度と、果皮を皮むき器でむいた状態で測定した果肉硬度に分けて測定した。これら2つのパラメータで品種の特徴を表すことが可能であった。また、果皮硬度は収穫後期に高くなった。
きゅうりを輪切りにすると、種のある柔らかい部分がある。これを胎座という。石坂ら(2000)は、官能評価による歯切れ感を各部の貫入抵抗値と胎座部の割合等で推定しようと試みた。その結果、歯切れ感は果肉貫入抵抗値との間に正、胎座部の割合とは負の相関がみられた。
貫入抵抗値のみならず、多様な測定パラメータが開発されつつある。胎座部は果肉部に比べて柔らかい。そこで、果皮側からプランジャーを突き刺し、果肉部、胎座部それぞれを貫入する際のエネルギーの和から果実の硬さを推定する方法が開発された(五十嵐、2004)。この方法によれば果肉部の硬度が高く、胎座部の小さい品種が食べたときに硬く感ずることになり、高硬度きゅうりの育種に用いられている。
森下・鈴木(2003)によれば、胎座部の面積の割合は、果実長の増加とともに増加し、また胎座部面積の割合の大きい品種では食べた時の歯触りが柔らかく感じられた。森下(2003)は、直径3mmのプランジャーを用いて破断試験を行い、その結果から「歯切れ指数」を定義した。「毛馬」のようなパリパリと歯切れのよい品種ではこの値が低かった。
一方、堀江ら(2004, 2006)はきゅうりのパリパリ感を表すのに、同様に直径3mmのプランジャーを貫入した時のデータからcrispness
index(CI)を計算することを提唱している。プランジャーの先端が果肉部を突き刺す際に、粘質のきゅうりでは力の変動が少なく、パリパリしたものについては変動が大きいので、2次微分の絶対値の総和の形で数値化を試みたものである。
近年、さらに新しい方法が、きゅうりの食感評価に導入されつつある。Sakuraiら(2005)は、きゅうり3品種の肉質を音響学的測定法により比較した。本法においては、プローブ(針状のもの)の基部にピエゾ素子をおき、プローブを挿入してきゅうりを破砕する際の音響振動を受信するものである。品種や部位間の差異を表現できるよう、得られた周波数成分に重みづけして積算する指標「シャープネス」が提案された。
Danら(2003)は、ヒトが多点シートセンサーをくわえてきゅうりを噛むことにより、かかる力と時間の関係を解析した。その結果、きゅうり3品種のうち1品種の特性が異なることが明らかにされた。ヒトを用いたこのような研究は、機械を用いた試験に比べて再現性には劣るものの、それぞれのヒトによる咀嚼の違いを明らかにできる特徴を有する。彼らは同時にくさび型のプローブを用いた圧縮試験も行っており、3品種のうちのひとつが硬くて、もろくないとする点で、ヒトを用いた試験と一致した。
きゅうりの食感の評価法については、それぞれの方法に特徴があるものの、相互に比較されることなく開発されてきた。既存の方法を整理しながら、どのようなパラメータがおいしさに関連するのか官能評価との比較解析が必要である。
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