山田ら(2005)は、ほうれんそう3品種の収穫期と成分を比較している。「パレード」と「リード」においては、還元糖含量が高いと甘味評点が高い傾向を認めた。また、甘味と総合評点の間にも相関があった。彼らはソモギー・ネルソン法で還元糖を測定しているが、同法では測定できないショ糖をほうれんそうは蓄積するため、解釈には疑問が残る。
木矢ら(2005)は、冬季における露地栽培のほうれんそうは甘く、ショ糖を蓄積していることを認めた。また、寒締め処理すると甘くなるが、青木(2005)は同処理によりショ糖が増加すると報告している。成分の季節変動については、本居(2003)がまとめており、露地ものの場合では、糖含量は8月よりも12月が10倍高く、ビタミンC含量も12月が数倍高かった。ほうれんそうは朝収穫するよりも、夕方収穫する方が全糖含量が高く、予冷後5℃を4日間維持した場合には、朝収穫するよりも、夕方収穫する方がビタミンC含量も維持できた(土岐,2000)。
清田ら(1996)は土耕、水耕と食味を比較している。水分、食物繊維、ビタミンC、シュウ酸等の測定も行ってはいるが、成分と官能評価との関係は明らかにしていない。廣田ら(2002)は土壌・肥料と品質の関係を解析している。その結果、有機質肥料区では、化学肥料区に比べて、硝酸、遊離アミノ酸含量が低く、アスコルビン酸、糖含量が高かった。さらに前者は後者よりも、甘味が強く、えぐ味が弱かった。一方で藤原ら(1999)は、成分分析の結果から、有機肥料の施用による品質改善効果はなかったとしている。岡崎ら(2006)は、硝酸イオン含有量と糖含有量に負の相関があることを認め、養液土耕により窒素肥料を制限することにより、糖含量が高く、硝酸・シュウ酸含量の低いほうれんそうの栽培が可能としている。
調理との関係では、和泉ら(2005)はゆで水量を検討している。その結果、茹でる水の量が多いほど官能評価の風味と総合評価は低下した。テクスチャーについても茹で水量の増加に伴い低下した。破断強度測定による硬さの機器評価においても同様であった。
堀江ら(2006b)は、東洋種、西洋種、サラダ用等多様な品種のほうれんそうを冬季に栽培し成分を比較した。その結果、良食味とされる東洋種が必ずしも糖が多くシュウ酸が少ないとはいえなかった。ただし、東洋種ではある種のフラボノイドと推測される成分が少ないことや葉柄が細いことが、おひたしに向く適性ではないかと推測している。
ほうれんそうのフラボノイドについては、他の野菜と比べて特殊である。Bergquistら(2005)はほうれんそうの幼植物から12種のフラボノイドを同定し、最も高含量含まれるものは
5,3',4'-trihydroxy-3-methoxy-6:7-methylenedioxyflavone-
4'-glucuronideとしている。これらフラボノイドの抗酸化能について議論している報告は多いが、味との関係については触れられていない。
ほうれんそうについては栽培法と成分の関係について解析した報告は多い。しかしながら、これを実際に官能評価して議論したものは多くなく、ショ糖を蓄積したほうれんそうは甘いであろうという推測しかできない。
味とは直接関係ないが、安全性の面からは硝酸も懸念材料である。硝酸低減化のためには施肥窒素の制限が必要である(野菜茶業研究所,2006)が、これは収量減少にもつながる可能性はある。養液の適切なコントロールにより低硝酸化することで、糖、ビタミンC含量を増加し、一方でシュウ酸含量を低下できれば収量減を高品質化によって補いうるものと思われる。
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