出汁で煮た「ひとみ五寸」については「うま味が強く」、「味がしっかり」しており、「おいしい」と評価された。かつおベースの出汁なので、グルタミン酸含量が高ければ、鰹節由来のイノシン酸と、ニンジンのグルタミン酸の相乗効果によりうま味が強まるものと期待されるが、グルタミン酸含量に品種間差は認められなかった(表2)。
「ひとみ五寸」は、組織がやわらかいため、出汁の浸透がよく、そのため出汁由来のうま味成分であるイノシン酸を多く保持しているのではないかとも考えられる。そこで、煮物中のイノシン酸含量を比較したところ、「向陽2号」、「愛紅」、「ひとみ五寸」はそれぞれ、39、36、33
mg/kgであり、「ひとみ五寸」中のイノシン酸含量が他の品種より高いとはいえなかった。これらのことから、出汁で煮た「ひとみ五寸」のおいしさの要因については、今回の化学成分の分析結果からは解釈できず、未知(あるいは未分析)の呈味成分の影響も考えられる。ただし、「ひとみ五寸」については食感も好ましいと評価されているため、口腔内への呈味成分の溶出に優れ、味を強く感じさせたのかもしれない。
さらに出汁で煮た「向陽2号」、「国分」、「黒田五寸」についても官能比較された。その結果、長ニンジン「国分」については、ニンジン臭く、甘味が弱いとされた。また、うま味が強いものの、おいしさの評価は低かった。表1は生試料の分析値ではあるが「向陽2号」と比べて、グルタミン酸、アスパラギン酸が明らかに多く、このことが「国分」のうま味評価に関係するものと考えられる。「国分」は他のアミノ酸も多く、このことが「味のしっかり感」、「滋養」にも関係しているものと推定される。
「国分」は、果糖、ブドウ糖が少なく、ショ糖の割合が高い。糖の合計量では「向陽2号」に劣らないにもかかわらず、「甘味」では低く評価されている。「ひとみ五寸」ではニンジン臭の弱さが甘さを引き立てていると議論したが、「国分」ではニンジン臭さが感覚的な甘味を弱め、それが「おいしさ」評価が低いことにも関係するのかもしれない。
「国分」はカリウムなどのミネラル類についても他の品種よりも高い傾向にあった。ミネラル類については、土壌条件や肥培管理の影響を受けると考えられるので、今回の結果を持って、「国分」はミネラルリッチであると結論することはできない。堀江はリン酸塩が野菜のエグ味に関係する可能性を指摘しており(味と匂学会2007年度大会)、またマグネシウムを苦味と結びつけて解釈する報告もある。「国分」はリン、マグネシウムの含量が高く、また官能評価によって、「エグ味」や「苦味」も指摘されているものの、これらの味がミネラルによるものか否かについては、今後詳細な検討が必要である。
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