第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
T ニンジンの官能評価と機器分析
3 ニンジンの香気成分の官能評価と機器分析結果
A その他の成分について
 ニンジンの匂いは、食品の中ではあまり強い匂いではない。しかし、ヒトは口の中で噛んだときに放散される匂いに対してはかなり感度がよく、それが嫌いな匂いであるとより鋭敏に感じる。ニンジンの匂いも嫌いな人にとってはいやな匂いであり、かなり鋭敏である。テルペン類は炭化水素化合物で匂いとしては強くはないが、ニンジンの匂い成分の約3分の2を占めることより、ニンジンの匂いとして重要である。

 一方で、酸素や窒素を官能基としてもつ物質は、閾値の低いものが多く、ごく微量
でも匂いに寄与することが知られている。ニンジンにおいても、土臭い匂い成分とし
て、2-methoxy-3-(1-methylpropyl)pyrazine が見つけられている。この物質は現在知られている匂い物質の中でも最も閾値が低いグループに入る物質で、ごくごく微量でもニンジンの匂いに寄与する成分である。またこのほかに、キューリの匂いと脂肪臭を会わせた匂いをもつ2-nonenal(ノネナール)も重要成分として報告されている。本研究ではヘッドスペース分析のため、ピラジンはごく微量であるため検出されなかったが、2-ノネナールについては試料により検出されたので定量してみた(図4)。本物質も含有量はごく微量で、ヘッドスペース分析では他の揮発性成分が多いと検出されないこともあり、今後さらに検討する必要があるが、匂いの強いキング紅芯やスパイシーと評された紅楽などに顕著に検出されたことは興味深い。

図4 各種ニンジンの香気成分としての2−ノネナール含量

<今後の課題>
 いわゆるニンジンくさい匂いは、どのような成分がどのような割合で存在すると生成されるのか詳細に検討し、指標となる物質の組み合わせを確定することが遠くて近い道と考える。指標ができれば、ニンジンの特性がより明確になり、現在開発されているニンジンの分類をはじめ、目的に応じた新しい品質を有するニンジンの品種改良に結びつく基礎データとなると考える。
(お茶の水女子大学大学院 久保田紀久枝)


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