第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
U キャベツの官能評価と機器分析
1 キャベツの嗜好型官能評価
<結果>
 今回の試料のミネラルやアミノ酸量は接近していた。キャベツに優劣の差をつけるのが目的ならば、もう少し差のある試料で評価すべきであったが、実験前に試料の中身を知ることは不可能である。むしろこの実験が示唆することは、微量な成分の差がどの程度識別可能であるかということである。

 また、生産者はキャベツを甘くすべきか否かも重要な問題である。そこで、甘味とうま味はどのようにキャベツの味の識別や評価に関わっているかを見るために、上記のAとBの比較でB(あまだま)の方が品質がよいとした人(9名)と通常の甘さのAをよいとした人(13名)で群別し、AとCをいかに評価したかをプロットしたのが図5である。

 甘味の強さはどちらもAを強いとしているが、甘味の好ましさについてはあまだまを選んだ人がAを好ましいとし、そうでない人は差がない。また、あまだまを選んだ人はAの方がうま味も強いとし、煮汁でもA の方が甘味は強いが、だし感や味の密度には差がついていない。しかし、通常のキャベツを選んだ人は、甘味はAが強いが、うま味は僅差でC、だしや味の密度はCの方が強いとしており分析値と合っている。うま味という味はニンジンの章でも述べたように食品の複雑な味の中ではグルタミン酸そのものの味としては感じられないので、回答者にとっては、だしがきいているという方が分かり易いはずである。ニンジンで示したと同様に、甘いキャベツを好む人は甘味への注目度が高いため、うま味やだしには注意が向かず認知できなかったものと思われる。


図5.甘いキャベツがよい人とそうでない人のA とC に対する評価の比較

 回答者のキャベツに対する好みと、甘いキャベツの食べたさは図6のようであった。


図6.評価者のキャベツに対する嗜好度と甘いキャベツへの要望

 キャベツは大部分の人が好み、最高点7をつける人がもっとも多かった。もっと甘いキャベツが食べたいかについては意見が2 分されている。これは野菜に関心の高い成人24名のデータであるが、キャベツを甘くすれば喜ぶ人もいるが、嘆く人もいること、さらにわが国の食文化の象徴ともいえるうま味やだしの味への感受性が下ることも考える必要がある。
<まとめ>
  • 3種のキャベツを鰹節を用いた煮物(おかか煮)にして社会人パネルで評価した。

  • 春系305 とあまだまでは後者の方がグルタミン酸も僅かに多く、ショ糖換算の糖分も高かった。加水量を誤り後者は12%多かったので、うま味や滋味は春系の方が若干高く評価されたが、甘味は明らかにあまだまが強かった。甘味の強さの好みは評価が分かれた。

  • 春系305 と冬系C-35 では春系は僅かにショ糖換算の糖度が高く、グルタミン酸濃度は僅かに冬系が高かった。大差ではないが僅かに冬系が高く評価された。

  • あまだまを好んだ人は春系305 と冬系C-35 の比較で甘味の強い方をうま味や滋味が強いと判断する傾向が見られた。
(味覚と食嗜好研究所 山口静子)


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