第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
V ダイコンの官能評価と機器分析
2 官能評価に用いたダイコンの分析結果
(1)方法
 12月18日に行われた官能評価試験に用いたダイコンを食品分析センターに送り、生試料の糖、アミノ酸、ミネラルについて分析した。品種は「福天下」、「冬みね」、「本三浦」、「大蔵」であった。
(2)分析結果
 分析結果を表1に示す。

表1 アミノ酸、ミネラル、糖の品種比較(ダイコン、生)

 

 「冬みね」のアミノ酸含量が少ない傾向にあるが、全体的にみて成分差は大きくなかった。各成分含量は個体や部位によって異なり、さらに調理に出汁のしみこみと成分の出汁への流出によって平準化されるとすれば、呈味成分の品種差を味で検出することはかなり難しいものと考えられる。

 参考までに、官能評価で用いた調理済みのダイコンについて、キャピラリー電気泳動法(イノシン酸については高速液体クロマトグラフィー)によって分析した結果を示す。
参考データ 調理ダイコンの成分(キャピラリー電気泳動法)

Asp:アスパラギン酸、Glu:グルタミン酸、Gln:グルタミン
A:福天下、B:冬みね、C:本三浦、D:大蔵
官能評価はA1−B、A2−C、A3−Dの組み合わせで行った。

 なお、イノシン酸は出汁由来である。用いた鰹節には0.56%のイノシン酸が含まれていた。表1、<参考データ>とも「本三浦」の糖含量がやや高い傾向は認められ。また、ミネラルでは「大蔵」のカルシウム含量が高かった。グルタミン酸、アスパラギン酸についてはキャピラリー電気泳動法の感度が十分でなく、試料間の差異はほとんど確認できなかった。

(3)官能評価と分析データの関係に関する考察
 「本三浦」と「福天下」の間では糖含量に差があるため、「本三浦」の方が甘いと評されることが期待されたが、結果はそうならなかった。ただし煮汁については「本三浦」に甘味を感じている。「本三浦」については食感に特徴があり、苦味やくせがあると評されているため、苦味やくせが甘味を弱めたものと推定される。

 「大蔵」と「福天下」の間では、前者が「うま味」が強く、煮汁の「だし感」も強いと評価された。表1のグルタミン酸含量でわずかではあるが前者が多く、<参考データ>でも「大蔵」0.019%、「福天下」0.014%と微妙に前者が多いようである。さらに、イノシン酸は「大蔵」に多く検出された<参考データ>。グルタミン酸とイノシン酸によるうま味の相乗効果の結果、「大蔵」において「うま味」を強く感じたものと考えられる。

 カルシウムは「大蔵」に最も多く含まれていたが、これが味に寄与しているのか、あるいは、品種の特徴なのか、あるいは土壌、肥培管理によるものなのか等については、さらなる検討を要する。

 「本三浦」の特徴として、コメントによれば、やわらかくしっとりした食感があげられる。食感に関しては今回は機器評価できなかったが、品種特性を示すものとして、理化学的な評価法の開発が待たれる。また「苦味」、「辛味」などについてもコメントがあった。「苦味」については、今回化学分析した結果からは評価できなかった。アブラナ科野菜ではグルコシノレートが苦味に関与するという報告もあるので、ダイコンを扱う場合には、グルコシノレート分析を行うことが望まれる。(ダイコンの辛味物質であるイソチオシアネートは、組織の破壊によりグルコシノレートから生成される。)

(野菜茶業研究所 堀江秀樹)


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