第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
W 官能評価によるナスの調理適性
2 官能評価に用いたナス果実の分析結果
(1)試料
 ナス果実は、平成20年8月上旬に、官能評価に用いたものと同じ所から同時に送付された、以下の4試料を用いた。
  •  サラダ紫:神奈川県産
  •  巾着(長岡巾着ナス):新潟県長岡市産
  •  庄屋大長:愛媛県松山市産
  •  千両二号:群馬県吾妻町産
 送付されたサンプルのなかから、大きすぎるものや小さすぎるものは除き、おおよそ中庸な大きさ・形の果実を試料とした。
(2)分析方法
 ナス果実の分析は、クロロゲン酸を除く項目については、千葉県農林総合研究センターで行った。クロロゲン酸は、(財)日本食品分析センターに分析を委託した。

 それぞれのナス果実は、3〜5個を1試料とした。成分分析のための試料は、一つの果実を縦に8〜16等分し、その対角部分を合し、これを細切・混合して用いた。

 遊離の糖とアミノ酸は、80%のエタノール溶液で加熱抽出し、高速液体クロマトグラフで測定した。また、クロロゲン酸は、0.02mol/L過塩素酸水とメタノールを90:10に混合した溶液で2回抽出し、これを高速液体クロマトグラフで測定した。分析はそれぞれ3回繰り返した。

 水分は、105℃に5時間保持し、処理前後の重量変化を計測して算出した。

 密度は、果実が水中に没する際に排除した水の量(体積)と重量を測定して求めた。

 果肉の硬さは、果実の中央直上部分を横断して厚さ約2cmの輪切りとし、果頂部側断面の果肉の貫入抵抗を直径5mmの円柱針を装着した果実硬度計(1kg用ユニバーサルハードネスメーター)で5回測定した。
(3)結果及び考察
 水分等の測定結果を表1に示した。果実の水分は94%前後であり、大差は認められなかったが、「千両二号」は「巾着」に比べて有意に高かった。

 果実の密度は大きな差があり、「サラダ紫」と「巾着」が0.8程度であったのに対し、「庄屋大長」は約0.6と低かった。

 果肉の硬さを示す貫入応力値は「巾着」が最も高かった。「巾着」の肉質は、円柱針を押しつけても窪みができる程度で貫入することはなく、緻密であった。一方、貫入応力値の低かった「庄屋大長」はふわふわな肉質、「サラダ紫」は脆い肉質との感があった。

表1 供試ナス果実の諸特性

試  料 個体重(g) 水 分(%) 密 度(g/cc) 貫入応力(kg)
  サラダ紫
  巾  着
  庄屋大長
  千両二号
100〜140   
290〜350   
140〜200   
90〜110   
    94.1ab 
    93.4b 
    93.8ab 
    94.2a 
    0.79a 
    0.77a 
    0.56b 
    0.65ab
0.40c    
0.83a    
0.34c    
0.57b    
  *異なる文字は5%水準で有意
 糖とクロロゲン酸の分析結果を表2に示した。遊離の糖は、ブドウ糖や果糖といった還元糖が主であり、「サラダ紫」、「巾着」、「庄屋大長」は約3%含有していたが、「千両二号」はこれらより約2割低かった。「千両二号」と「巾着」を比較すると、水分の多少は糖分の多少と関連していると考えられた。

 ナス果実の渋みに関係すると考えられるクロロゲン酸は、「庄屋大長」が他の試料に比べて明らかに低かった。

表2 ナス果実の糖及びクロロゲン酸含量

試  料 糖含量(g/100g新鮮重) クロロゲン酸含量
(g/100g新鮮重)
ショ糖 ブドウ糖 果糖 合計
 サラダ紫
 巾  着
 庄屋大長
 千両二号
0.11
0.27
0.14
0.08
1.25
1.37
1.35
1.12
1.58
1.26
1.46
1.17
2.94a
2.90a
2.95a
2.37b
0.13a
0.16a
0.06b
0.15a
  *異なる文字は5%水準で有意
 遊離のアミノ酸の分析結果を表3に示した。ナス果実の主な遊離アミノ酸は、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、γ-アミノ酪酸(GABA)、アルギニンであり、アラニン等は未検出ないしは極めて少なかった。この結果は、高速液体クロマトグラフを用いた他の分析事例とも共通している。なお、グルタミンは熱アルコール抽出法を用いたためにやや低い値となっている可能性がある。

 遊離アミノ酸の総量は、「サラダ紫」・「千両二号」・「庄屋大長」が同程度であり、「巾着」はそれらの半分程度と低かった。「巾着」は各種のアミノ酸が全体的に少ないが、とりわけアスパラギン、グルタミン、アルギニンが他に比べて少なかった。

表3 ナス果実の遊離アミノ酸含量

アミノ酸 含量(mg/100g新鮮重)
サラダ紫 巾着 庄屋大長 千両二号
 ヒスチジン
 アルギニン
 アスパラギン
 グルタミン
 セリン
 スレオニン
 アスパラギン酸
 グルタミン酸
 γアミノ酪酸
 プロリン
 バリン
 リジン
 フェニルアラニン
 ロイシン
 イソロイシン
 チロシン
 その他
    6.2a
   15.4a
   27.0a
   19.9a
    1.5c
    3.8a
    6.8b
    8.2a
   18.4b
    4.7a
    6.4a
    5.1a
    5.5a
    2.3bc
    3.8a
    2.5a
    2.2
    2.0b
    3.9c
    7.2c
    6.0c
    2.2b
    1.7b
    8.2b
    6.7a
   17.5b
    1.9b
    3.7c
    1.5c
    3.1c
    1.9c
    2.3b
    1.5b
    0.3
    2.9b
   10.9b
   19.8b
   13.3b
    2.4b
    4.1a
    8.7b
    8.3a
   24.6a
    4.0a
    6.1a
    3.8b
    4.4b
    3.3a
    3.9a
    2.7a
    1.7
    5.9a
   17.7a
   22.3ab
   18.8ab
    3.0a
    3.6a
   13.4a
    7.8a
   16.5b
    1.9b
    4.9b
    4.8ab
    5.0ab
    2.7ab
    3.5a
    2.6a
    2.9
合   計 139.7a 71.6b 124.9a 137.3a
  *試料間の異なる文字は5%水準で有意
(千葉県農林総合研究センター  宮崎丈史)


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