第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
W 官能評価によるナスの調理適性
3 蒸し加熱がナス果実の成分に及ぼす影響
 ナスは、一部が漬物等として生食されるが、多くは加熱調理されている。そこで、成分や肉質等に違いのある「巾着」と「千両二号」を用いて、加熱による成分の変化を調査した。加熱は100℃の水蒸気による蒸し加熱、170℃前後の油による揚げ加熱のほか、焼き加熱や炒め加熱などがあるが、ここでは比較の容易な蒸し加熱を行った。
(1)試料
 実験に用いた試料は、上記の分析試験1と同じ果実であり、生試料の成分分析と同じ部位の対角切片を用いた。
(2)実験方法
 果実の切片は、蒸気の上がった蒸し器にて10分間処理した。その後室温まで放冷し(20分間)、重量変化を測定した後に、細切・混合してサンプリングした。これを生試料と同様に抽出し、遊離の糖とアミノ酸を測定した。
(3)結果及び考察
 ナス果実の切片を10分間蒸し加熱したあと20分間室温に放置すると、重量は加熱前(100)に比べて「巾着」では97、「千両二号」では99となり、変化は小さかった。

 果実の糖含量及び遊離アミノ酸含量の分析結果を、それぞれ表4と表5に示した。糖含量は両試料とも、加熱後も加熱前と同じ値であり、変化はなかった。

表4 ナス果実の糖含量に及ぼす蒸し加熱の影響

試  料 糖含量(g/100g新鮮重) t検定
加熱前 加熱後
巾   着
千両二号
2.9
2.4
2.9
2.4
-
-
 
 遊離のアミノ酸は、総量については蒸し加熱による変動が認められなかった。また、多くのアミノ酸の含量にも変化はないが、ヒスチジンやグルタミン酸はやや増加する傾向が、またセリンやプロリンはやや減少する傾向が認められた。

表5 ナス果実の遊離アミノ酸含量に及ぼす蒸し加熱の影響

アミノ酸 含量(mg/100g新鮮重)
巾着 千両二号
加熱前
加熱後
t検定
加熱前
加熱後
t検定
 ヒスチジン
 アルギニン
 アスパラギン
 グルタミン
 セリン
 スレオニン
 アスパラギン酸
 グルタミン酸
 γアミノ酪酸
 プロリン
 バリン
 リジン
 フェニルアラニン
 ロイシン
 イソロイシン
 チロシン
 その他
2.0
3.9
7.2
6.0
2.2
1.7
8.2
6.7
17.5
1.9
3.7
1.5
3.1
1.9
2.3
1.5
0.3
3.2
4.5
5.9
5.9
1.6
1.6
9.6
11.5
15.7
1.5
3.4
1.6
2.3
1.5
2.0
1.4
1.0
*
-
-
-
**
-
-
**
-
*
-
-
-
-
-
-
5.9
17.7
22.3
18.8
3.0
3.6
13.4
7.8
16.5
1.9
4.9
4.8
5.0
2.7
3.5
2.6
2.9
7.9
18.9
21.7
16.9
2.3
3.8
10.2
10.5
13.5
1.6
4.4
4.9
4.7
2.1
3.1
2.7
2.8
*
-
-
-
*
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
合   計 71.6 74.2 - 137.3 132.0 -
  *試料間の異なる文字は5%水準で有意
 ナスは、加熱によって食味が変動するが、その要因の一つを遊離アミノ酸の変化に帰する報告(黒澤、1989)がある。それによれば、ナスは加熱によってアラニンやセリンといった甘みを呈するアミノ酸が増加しこれらが渋みを抑制するためにおいしさが向上する、としている。なお、これはペーパークロマトグラフィーの分析に基づく定性的な分析結果である。しかし本分析では、アラニンは加熱の前後も見るべきほどの量が検出されておらず、加熱による増加は認められなかった。また、セリンも量的には少なく、しかも減少しこそすれ増加することはなかった。なお、糖含量は本分析では全く変動がなかったが、このことはこれまでの報告例と同様の結果であった。

 以上のように、本分析に使用した二つの試料では、蒸し加熱によって食味に影響を与えるような遊離の糖とアミノ酸の変化は認められなかった。
(千葉県農林総合研究センター  宮崎丈史)


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