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第5章 検討内容の総括 |
3.問題点と今後の展望 |
これまでの成果として、キュウリやホウレンソウについては糖含量がおいしさに密接に関連することが明らかにされた。しかしながら、ホウレンソウにしてもアクっぽさや食感をいかに理化学評価するかという問題は残っている。一方で、比較的品質のよいニンジンの間では、糖含量がおいしさの決め手にはならず、ナス、レタスについても同様であった。煮物にした場合、野菜中のグルタミン酸と出汁のイノシン酸との相乗効果によりうま味が強まる可能性はあるものの、アミノ酸の分析値からおいしさや野菜らしさが推定できるには至っていない。ナスのクロロゲン酸が渋味に関係すると報告されているが、今回の検討結果では、クロロゲン酸含量に差はあっても、それが渋味の差としては認識されがたいと判断された。調理方法によってピーマンの苦味や臭いを減じることができるが、苦味成分については現在同定されておらず、理化学的な解析が進まない状況にある。
そうした中で、ニンジン臭についてはテルペン類の寄与が示された。テルペンの分析を簡易化し、ニンジン臭の指標とすることは現時点では技術的に困難ではあるが、基礎的な知見として広報されるべきであろう。また、ナスについては食味への肉質の寄与が示唆されたのは大きな成果である。これまで野菜の品質評価においては成分分析が中心であったが、密度や硬さなどの果肉物性がナスの品種特性に関与することを示すことができ、「ぬめり」のような食感が食味に及ぼす影響への研究発展が期待される。さらに食味と食感の関係では、「国分ニンジン」は糖含量が高いにもかかわらず、生食では甘いと評価されなかったが、国分ニンジンは硬く、水分が少ないという特徴も併せ持っている。(逆に、「ひとみ五寸」はやわらかく多汁で甘味が強い。)噛んだときの口の中への汁の広がりなども考慮して味を考察できれば、理化学的な分析データがさらに活きてくるものと期待できる。
これまでの検討委員会・検討部会の理化学的評価方法は、既成の物差し(主に化学分析)を各種野菜にあててみるという方法であった。一部の野菜における糖含量のように、官能評価の結果と一致するものも確かにあった。しかしながら、官能評価結果が化学分析値からだけでは説明できない場合もみられた。一方で、「ニンジンらしい味」、「ホウレンソウのアク」、「ナスの肉質と味の関係」、「ピーマンの苦味」など、既成の物差しでは測れない項目があることが認識された。これら既成の物差しで評価できない項目は、野菜のおいしさを研究するうえでキーでもあり、じっくり構えて試験するための検討材料となるだろう。今後は新たな物差し作りが必要である。そのためには、各品目について単発的な試験ではなく、品目毎に継続的な研究・試験を行う必要がある。本検討部会で出た疑問点、問題点などが、園芸や調理、食品分野の研究者が腰を据えた研究を開始するためのヒントになれば幸いである。
本部会では「国分ニンジン」、「本三浦ダイコン」、「長岡巾着ナス」など伝統的な野菜にも取り組んできたが、日程が限られた中での試験なので、それらの特性を十分に把握できたとは考えていない。本資料に興味を持たれた産地、大学、試験場などにおいて、様々な視点から研究を深めていただくことを希望する。同時に、産地を含む各方面からも、本検討部会に対して野菜のおいしさに関するテーマの投げかけを期待したい。
3年間を通じての大きな問題は予算年度の関係である。例えばニンジンについては冬季に「国分ニンジン」など特徴的な品種が収穫できるため、検討時期とすれば12〜1月頃が望ましい。しかしながら、報告書のとりまとめ等の時間的制約から、この時期に検討し、分析結果を得るのは非常に困難である。また、5〜6月頃が最も品質がよいキュウリなどについても、予算の関係で検討が難しく、夏から秋の野菜しか検討できないもどかしさはある。
さらに検討に用いられた野菜試料が、その品種の代表的な性質を有しているのかという疑問も常にある。試料の収集にあたって、事務局の尽力は並大抵のものではなかった。官能評価試験には人集めが必要であり、どうしても評価の日時は限定され、特定の日時に、目的の品質を保持した野菜を必要量確保することは困難を極めた。天候等の原因により、常に最高の品質(あるいは求めている品質)の試料が得られるわけではない。例えばキュウリについては、予備試験での評価と、実試験での評価が異なったり、同一産地のものでも、貯蔵期間の長いものの方が新鮮なものよりも評価が高いといった事例もみられている。日々変動する青果物の品質を対象にする場合、一般的に言われていることや、ブリーダー等関係者の印象と、試験に用いられた試料の性質が異なる場合があることはやむを得ない。ただ、本部会において一度しか行っていない結果を、そのまま一般化するのは危険である。本資料は便宜上品種名を記載してまとめたが、資料に示した官能評価や理化学評価の結果が、その品種そのものの特性を表すものとは限らない。本資料は、種苗会社や試験場での継続的な調査・研究において、おいしさも含めた品種特性をまとめる際の参考になれば幸いである。
最後に、検討部会の活動を支えたのは、全国から興味深い野菜試料を集めるのに奔走した事務局(野菜と文化のフォーラム)の尽力に他ならない。末尾ではあるが謝意を表する。
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(野菜茶業研究所 堀江秀樹)
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