官能評価の結果を表1に、機器分析の結果を表2にまとめた。これまでの経緯から、試料Cは軟らかく、ジューシーで、おいしいと評価されることを期待した。しかしながら、官能評価の結果、Cが軟らかいという評価にはならず、必ずしもジューシーとはいえなかった。機器評価の結果においても、Cは最も硬く、水分が多いとはいえなかった。 |
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試料間で大きな差異は認められなかったものの、Bは軟らかく、ジューシーで、甘いと評価された。Bの軟らかさについては機器による試験でも確認され、水分の多いことと、ジューシーさにも関連が考察される。Bは甘味が評価されているが、Brix値はBが高いわけではなく、糖含量においてもB(愛紅)が高いとはいえなかった。Bにおいて甘味を感じるのは、糖など甘味成分が多いからではなく、軟らかく、ジューシーであることに起因しているものと考察される。蒸し加熱したニンジンにおいても甘味が増すが、これは甘味物質の増加によるものではなく、軟化してジューシーになったためという研究結果が出されている。
今回の官能評価結果は、Cが軟らかく、甘く評価されるだろうとの予想を裏切るものであった。この要因として、本来品種Cは冬季に収穫する品種であり、これまでの試験は冬季に行われた。今回用いた試料Cについては、時期外れのため不揃いであった。一方で、甘くおいしいと高評価された試料Bについては、写真に示すように非常にそろいもよく、よい状態であった。ニンジンの品質は、品種だけでなく、その品種のポテンシャルを活かせる栽培法、栽培時期の影響も受けるものと考察される。
今回夏場に試験したために、冬季とは異なる結果となる部分も多かった。ただし、ニンジン臭については、試料Bが強く、試料Cが弱い点はこれまでの結果と一致している。また、軟らかく、ジューシーなニンジン(試料B)は、他試料と糖含量が同じでも、甘く感じる傾向のあることは、これまでの結果と一致している。また試料AとCを比較した時、Cの方がショ糖含量が多いことについても、冬季の結果と一致している。
「ひとみ五寸」が旬を迎える冬季にこのような試験を組むべきであったという反省点は残ったが、単年度予算で運営されている現状では、結果のとりまとめが間にあわないため冬季の試験は断念した。今回、生食の場合には、冬場の「ひとみ五寸」のような軟らかく、ジューシー(多水分)で、甘く感じるものがふさわしいことを確認する目的とした試験を組んだ。試料として供試した「ひとみ五寸」が、冬場のものと品質的に異なったため、期待したほど明確な結果は得られなかった。それでも、生食の場合には、軟らかく、ジューシーなものが、甘くて好まれるという傾向は得られた。
官能評価のパネルからは、「ニンジンは生で食べるものではない」という意見も出されている。確かにニンジンは加熱調理するのが従来の食べ方であるし、生食でおいしいニンジンが加熱してもおいしいとは限らない。ただし、加熱する場合は出汁や加熱時間等考慮すべき要素が非常に多様であり、調理の再現性の確保も難しい。多様なニンジン料理があり、それぞれに対応したニンジンの種類を対応づけるのは、膨大な作業になる。まずその手始めとして、最も調製が簡単で再現性の高い方法(生)で食べる場合について、どういう形質が好まれるか探ることは有意義と考える。これまでの結果も含めて考察すれば、肉質が軟らかく、水分が多いニンジンは、生でサラダとして食べてもおいしいといえそうである。これらの項目については比較的簡便に理化学評価可能(「硬さ」の理化学評価法については、改良の余地が残されている)と期待される。さらなる実証試験は必要かもしれないが、該当するような特性を示すニンジンについて「サラダにしてもおいしいニンジン」というポップを野菜売り場に提示し、消費者の選択の幅を広げることは可能と期待する。
追記
今回官能評価票に外観評価についての設問を加えなかった。自由コメントには、試料Cの色がよいという意見もあり、サラダ食の場合、色合いの評価も重要かもしれない。 |
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参考資料 官能評価の自由コメント
- 味、色とも3種類とも薄い。
- ニンジンらしい香りはBにある。Bを細切りにしてサラダにしたい。
- 全体にニンジン臭がしない。
- 常にBのニンジンが出回ってほしい。
- 煮物向き:A、ジュース、生食で何かと合わせる場合は:B、スティックサラダ的に食べるなら:C
- Bは香りとジューシーさがありおいしい。生食には香りの弱いCが好まれる。
- 加熱の仕方によって好みが全く逆になる場合があり、生食での比較は評価方法として問題がある。
- ニンジンらしい色合い C>B>A
- 食べ比べる時は水が必要。
- Cはボソボソでおいしくないが色は鮮やか。
- Bが軟らかくて食べやすい。
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