第8章 スイカの甘み表示に関する意識調査
千葉県農林総合研究センター 宮崎 丈史
4 まとめ

(1) スイカ販売での表示について
 スイカについては、期待はずれの果実を購入した経験を9割もの人々が有しており、期待はずれの内容としては8割の人々が“甘みの少なさ” を挙げている(愛知県農業総合試験場などが行った消費者調査、1996年)。今回の調査においても、スイカでは甘みが品質の中で最も重視され、おいしさを決定づける要因となっていることが示されたが、スイカにおいては購入の際に甘みに関する情報が表示されていることを望む消費者は多い。このため販売サイドは、甘み表示について積極的に取り組むべきと考える。一方、糖度と甘みとの関係は、消費者の8割が“ピンとこない” と回答しているように、十分には理解されていない現状にある。今後、消費者の感覚と一致した表示が継続的に行われることにより、消費者の間にも糖度と甘みとの関係といったような品質表示に対する理解が正しく浸透してゆくものと期待される。

(2) 糖度表示の可能性について
 スイカの販売形態においても、大玉よりも小玉あるいは1/4や1/6にカットして販売するという変化が現れている。これは、核家族化といった家庭環境の変化などに起因しているが、今回の調査においても大玉を購入する回答者は約3割と少なく、こうした傾向が認められている。カットスイカでは、果汁の一部を糖度計で直接計測することができ、糖度の全数検査と販売における糖度表示を可能ならしめている。

 一方、カットしない丸のままの果実の糖度計測は、非破壊方式によるセンシングに頼らざるを得ない。スイカの内部品質の計測では、打音解析により空洞の有無を判定する装置の開発が先行して進められた。これと並行して糖度を計測する装置の開発も行われ、静電容量による密度測定方式や近赤外線透過光方式を利用した実用規模の装置が開発された。こうした装置は、これまでに全国で10か所を超える産地・選果場に導入されている。今回の調査に使用したJA選果場もその一つである。このJAが独自の基準で選別した果実について実際の果実糖度を測定したところ、それらの糖度は11〜12.5に集中していた。平均糖度及び糖度のばらつきからは、糖度センサー選果の精度は、甘さを強調して販売する目的にも利用可能なレベルにあると思われた。

 なお、スイカの糖度は、果実の中心部が最も高く、果皮に向かうにつれて低下する。スイカではこれまで慣習的に、中心部の果肉について計測した糖度(したがって、果実中の最も高い部分)を果実糖度としている。一般的には、中心部の最も高い部分の糖度が12であれば、果実全体の平均糖度は9〜10という関係にある。

(3) 甘みと糖度の表示基準について
 おいしさに関する情報が様々な形で提供されるようになってきた中で、それらが消費者にとって適切な情報であるかどうかが問われ始めている。スイカの販売では、近年、多くの量販店で糖度とそれに基づく甘み表示が行われるようになってきた。しかし、糖度と甘みとの関係は、各々が独自に定めた基準で表示しており、販売店によりまちまちである。また、糖度のみを表示し、あとは消費者の判断に任せるといった販売店もある。 

 今回の調査では、中心部の糖度10の果実が“普通の甘さ(まあまあ)”、糖度12の果実が“甘い” と評価された。1980年代に行われたスイカの食味に関する報告では、糖度9を普通の甘さと結論しているものもある。しかし、今回の調査で明らかになったように、現在は糖度9では甘み不足の感が否めない。実際の販売状況などを勘案しても、今回の調査結果はほぼ妥当な基準を示していると考えられるため、今後は全国的にこれを参考にした表示がなされるよう期待したい。

(4) 品質と価格について
 今回の調査において、糖度12の甘い果実は価格が1〜2割高であれば許容できるという結果となり、甘みに差があれば価格に差をつけてもよいという考えが大勢を占めた。このことに示されるように、甘みが重視されるスイカにおいては甘みで価格差をつけることは受容されると考えられる。糖度12のスイカは、漫然としてできるものではなく、様々な栽培の努力や選果・選別の努力によって供給されているものである。したがって、糖度表示を消費者への情報提供として利用するだけではなく、このような受容意識を積極的に販売に取り入れ、他の品質が同レベルであれば糖度の高いスイカは価格差をつけて販売する方向に進むべきと考える。いうまでもないが、これには当然、信頼のできる糖度測定と納得の行く表示を行うという前提が伴わなければならない。



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