●特別講演会「50℃洗いで広がる野菜の可能性」報告●
【波部和実氏のお話】
<波部和実氏のご紹介>
兵庫県丹波篠山市で黒豆を中心にした農業を営む。土作りから消費者の体の中に入るまでが「農」の一環と考え、食べて元気になる野菜作りを信条としている。とうもろこしの栽培にも着手した際に平山氏と出会い、50℃の温水散布によって農薬不要の効果を知る。収穫後の鮮度保持、さらに、ほうれんそうなどの冬野菜栽培への50℃効果など、実践の幅を広げている。
  「温湯利用栽培は不可能を可能にする」
 
波部和実氏
●農薬不要で、しかも収穫時期が早まった

 丹波篠山で黒豆ととうもろこしを栽培しています。農協とはいつも、肥料は高く、売る時は安いと対立してきました。

 一年間、"50℃洗い"を学び、収穫した野菜が甦るなら、生きている野菜に用いればどうなるか、試行錯誤しながら栽培に生かしてきたことを報告します。

 とうもろこしは収穫後、鮮度が一番落ちやすいし、アメノイガ退治のためにも農薬なしでは栽培できないと言われてきました。


波部和実氏

 とうもろこしは89日型を栽培していますが、45〜50日くらいが、虫がもぐりこむために最も注意が必要な時です。虫がもぐりこんだら、もうどうしようもない。平成23年度までは農薬を5回使っていましたが、私はやりたくなかった。そんな時に平山さんと出会い、生きた野菜に温湯をかけたらどうだろうと思ったのです。
 

 大事な時に温湯をかけると、農薬を使わなくても虫の被害に遭わず、収穫時期が一週間〜10日、早まりました。

 45〜50日の注意が必要な時には60℃の湯をかけました。苗から50℃の湯をかけると、大事な時に55℃から慣らすと63℃まで植物が順応できることもわかりました。本葉が4,5〜5枚出た時、雄穂が出てしまって雌穂が出るそのタイミングで湯を使うと、生育が早まります。

 普及所では、40cm間隔を空けて定植し、1本に1本のとうもろこしを実らすように指導されますが、ウチは温湯を使った集約栽培、密植栽培で、1本に2本ずつ実らせます。1株で3kgの収穫目標です。

 クーラーに82℃の湯を詰めて畑に行くと72℃になります。じょうろで湯をかけ、100リットルで2畝まかなえます。いかに大量の湯を畑に運べるかが課題です。

 土作りから湯を使い、"50℃洗い"をして出荷すると、消費者の体の中でどうなるのか、農家にとってはそこまでが大事だと考えているので、今後の関心事です。

 ウチのとうもろこしの糖度を測ってみました。すると、先端1/3が16,7度、中が14,5度、下部1/3が13度。6時間後には、糖度は通常半分になるとされているのですが、ウチのは18度。翌日には23度でした。器械が壊れているのかと地元の大学に持って行ってみると「器械を信用しろ」との結果でした。

 おいしい野菜を作りたいと念願していましたが、平山先生と出会って、やっと見えてきました。

 

●収穫後の温湯処理で出荷調整もできる

 湯の温度は、虫の防除には60〜61℃、植物を元気にするには50〜52,3℃と使い分け、最初から植物を慣らしていくとよいこともわかりました。収穫したら、52〜53℃の湯に、夏なら2〜3分、冬なら5分浸けるように、生産者が処理するのがベストだと思います。

 また、8月10日頃に収穫の予定が7月30日に早まったので、冷凍し、その後1か月以上経ってしまったものもあったのですが、50℃解凍すると、採れたての味と変わらなかったのも驚きでした。

 収穫後に"50℃洗い"を取り入れると、ある程度保存可能なので、一気に出荷する必要がなくなり、人を雇わなくてもすむという利点もありました。

 その場に応じた温湯を上手に使うと、不可能を可能にすると確信します。

 とうもろこし以外にも、枝豆、稲、いちご、みかんなどに試しています。因みにみかんは、一般にはkg当たり400〜500円のところ、ウチの場合は糖度が16度以上でkg当たり2,000円という高値になりました。

 今後も温湯の効果を期待しながら、試していきたいと考えています。

(文責 脇ひでみ 理事)
>>> このレポートの目次へ
>>> フォーラムのトップへ