この実験で期待したことは、生食では試料間の差が顕著でないものでも、調理方法によって違いが現れること、とくに微量なグルタミン酸量の違いが鰹出汁のイノシン酸によって引き出されることで、差を明瞭に識別できる可能性を確認することであった。しかし、日本食品分析センターおよび堀江委員長による分析結果をみると、糖の種類については、試料Cのショ糖が多いことは昨年の試料と同様であることが確認されたが、果糖、ブドウ糖と合わせて甘味度に換算すれば3者には殆ど差がなく、また、ミネラルやグルタミン酸、その他のアミノ酸にも味に影響を及ぼすような差はなかった。
図3をみると例えば生食ではCの甘味が強い、塩煮ではBとCのうま味や滋味に差がないのに、鰹出汁煮ではCの方が強くなっているなどの傾向はみられるものの、成分からは説明できず、またA、B、C
のグルタミン酸分析値はそれぞれ16、9、13mg/%であることから、イノシン酸によって相乗作用を引き起こせばB
よりC が強く感じられることはあり得るが、そのときA はC と同等以上でなければならないので整合性が成り立たない。フリーアンサーを見ても、感じ方はまちまちで、相反するものやどの試料にも見られるものなどが多く一貫性のある特性差を読み取ることはできなかった。
図3の結果では試料間に何らかの差があったとしても、ニンジンには個体差もあれば部位差もあり、煮え方や汁の浸み具合、煮え具合にもバラツキがある。限られたデータからそれらのバラツキを超えて本質的な違いがどこにあるかを深追いして推定することは、必ずしも実りあるものとは思われない。用いた試料は個体差、部位差や調理上での微妙な影響、パネルの変動を除けば、このような評価法では甲乙つけがたいほど似通ったものであったと筆者には思われた。反対にいえば、この3
銘柄を買う場合を考えると、天候や熟し具合などによる当たりはずれの方が大きな要因になると思われる。
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