第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
T ニンジンの官能評価と機器分析
3 ニンジンの香気成分の官能評価と機器分析結果
 ニンジン臭いといわれるように、ニンジンには独特の匂いがあり、品種や産地、収穫時期により、匂いが微妙に異なるといわれている。そこで、7品種のニンジンおよびそのうち3品種については産地、収穫時期の異なるものを試料とし、官能評価および機器分析により匂い特性の比較を行った。
(1)匂いの官能評価
<試料>
@ 8月収穫
  向陽2号 北海道
  愛紅 北海道
  ベータ-312 北海道
  キング紅芯一尺 茨城県坂東市
 

上から9月 向陽2号、愛紅、β-312、キング紅芯一尺
A 11月収穫
  向陽2号 千葉県
  愛紅 千葉県
  キング紅芯一尺 茨城県坂東市
  
 

上から11月 向陽2号、愛紅、キング紅芯一尺
B 12月収穫
  ひとみ5寸 千葉県
  紅あかり 千葉県
  紅楽 千葉県
  
 

上から12月 ひとみ5寸、紅あかり、紅楽
<官能評価方法>
 官能評価は、まずニンジンにはどのような匂いの特性があるのか言葉だしを行い、定量的記述分析法で評価した。その後、さらに評価用語について詳細に検討し、最終的な用語を決定し、最も一般的に市販されている向陽2号をコントロールとし、比較により匂いを評価した。パネルは、年齢22−35歳のお茶の水女子大学女子学生で、前もってニンジンの匂いに関し訓練を行ったあと、評価を実施した。
@ 定量的記述分析(QDA)法
 各ニンジンは上下部分を除き、真ん中部分を皮をむいて試料とした。酸化酵素の活性を抑えるため20%のNaCl を添加し、フードプロセッサーで破砕したもの5gを50 ml容積のスクリューキャップ付き茶褐色バイアル瓶にいれ、室温で提示した。訓練されたパネル10人により、言葉出し、言葉合わせをし、10cmのラインスケールを用いて、8月収穫の向陽2号、愛紅、ベータ-312を評価した。
A 品種間での匂い特性の比較
 向陽2号をコントロールとし、愛紅(千葉産)、キング紅芯一尺(茨城産)について、コントロールより強い場合は+、弱い場合は−の得点をつけた。(−2〜+2).
<結果>
@ QDAによる3品種の匂い特性の比較
 8月収穫のニンジン試料@を用いた官能評価結果の平均値をレーダーチャートにし、図1に示した。ニンジンの匂いには、パセリ様(いわゆるニンジン臭い匂い)、青臭さや木の匂い、甘いや花のような匂いと評価される特性があることが示された。向陽2号とベータ312の匂いは類似しており、愛紅は少し異なる匂いプロファイルをも
っていることが示された。愛紅は他の2品種に比べ全体的に匂いが強く、特にパセリ
様のにおいが強いことが示された。


図1.QDA法による3種のニンジンの匂い特性比較

A 6品種の匂い特性の比較 −向陽2号をコントロールとして−
  11月および12月収穫のニンジン試料AおよびBの愛紅、キング紅芯、ひとみ五寸、紅あかり、紅楽の匂い特性について向陽2号と比較した。向陽2号の各匂い特性の強さをベースラインとしてレーダーチャートの0のラインで表し、それよりも強いもの を+、弱いものを−で表し、図2にまとめて示した。愛紅、キング紅芯ともに向陽2号よりもパセリ様の匂いが強いと評価され、QDAの結果とよく対応した。また、愛紅とキング紅芯では愛紅の方が強く、ニンジン臭いと評価された。ここで用いたキング紅芯は写真で示されるように、品種、産地は同じだが8月収穫の試料@に比べると大きさはかなり小さく、芯は黄色く、外観がかなり異なった試料であった。ニンジン臭さが強いとされる品種であるが、8月の試料に比べ匂いはかなり弱く感じられた。しかし、官能評価ではAの試料も向陽2号より全体的に匂いが強いことが示され、品種的にキング紅芯はニンジン臭い匂いが強いことが確認された。

 ひとみ5寸、紅あかり、紅楽は、向陽2 号に比べニンジン臭さは弱い傾向であった。全体的に匂いは強くないが、それぞれ微妙に匂い特性が異なり、それぞれ特徴的な匂いをもっていることが示された。紅あかりは、砂糖を思わせる柿のような甘い匂いが感じられ、紅楽はスパイシーな(朝鮮ニンジンのような)少し刺激のある匂いがあり、ひとみ五寸はニンジン臭さが弱い上に、他の匂い特性も弱いため、青い匂いが前に出て、西瓜のような匂いが感じられると評価された。


図2.ニンジン6品種の匂い特性の比較―向陽2号をコントロールとしてー



>> 野菜のおいしさ検討委員会 平成20年度報告書 目次へ