第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
V ダイコンの官能評価と機器分析
1 ダイコンの嗜好型官能評価
<結果>
2.A とC(本三浦)の比較
 結果を図4に示す。


図4. ダイコンA とC(本三浦)の評価の平均値(n=22)

 分析値ではグルタミン酸はどちらも23mg%で、ショ糖換算の糖もどちらも2.5%で、ミネラルやその他のアミノ酸にも大差はなかった。しかし、Cの方が滋味や汁のだし感、味の密度も高く評価された。これは苦味、辛味、その他今回の分析項目以外の成分の違いによるものと思われる。ただし、おいしさの平均値はAより低かった。表2にそれぞれの試料に対して挙げられたコメントを記す。

 Cの特徴であるやわらかさがあるが、それを好ましいとする人と煮くずれていて好ましくないと感じる人がいた。Cは明らかに苦味があったが、それもダイコンらしい苦味とするか、不快な異味とするか意見が分かれている。

表2.選択理由としてあげられたコメント

 

 事後に評価者の中からは三浦大根(本三浦)はやっぱりおいしかったという感激の声も聞かれたが、その声に怪訝な顔をする人もいた。苦味の強さについても質問すべきではあったことは事実であるが、試料を味わってから解答用紙が作れるわけではなかったので、限られた質問数の中で苦味というマイナスイメージの質問をすべきかほろ苦さにすべきかなども決めがたく敢えて質問しなかった。

 では、品質のよい方として本三浦を選んだ人(12)とそうでない人(9)の評価はどこが違ったのであろうか。図5には両者を群別した平均値を示す。

 煮汁は評価者による差はほとんどなかった。煮汁は均一で個体差や食感の影響を受けないので、差が識別しやすい。ダイコンからの成分の溶出しやすさが同じとは限らないので、必ずしもダイコンの味と一致するとは限らないが、汁はどちらの人にも本三浦の方がだし感が強かった。ダイコンについては評価者によって全ての項目で評価が反転し、とくに本三浦を低く評価した人は本三浦の食感を低く評価していた。またうま味も甘味も本三浦を低く評価していたがそれは苦味を不快と感じたためと考えられる。高く評価した人は本三浦の方がうま味を強いとし甘味も若干強く好ましいとしている。


図5.「本三浦」を高く評価した人とそうでない人の評価の違い

 これは苦味を含め味のバランス感覚の違いによるものと思われる。

 一般に食品の評価においては、チーズ、本醸造の酢、蒲鉾、からすみ、練りウニの瓶詰めなど、味、風味に特徴の強い食品の評価を食べ慣れない人で行うと、価格とは逆相関の結果が得られることは屡々経験することである。食感でも或る老舗の高級羊羹には絶妙ともいうべき微妙なかたさと粘りがあり、それは追随を許さぬ高度の技によることは業界ではよく知られているが、一般人で評価しても安価でやわらかいものをよいとする人が半数で、平均では差がつかなかった。かつてレギュラーが少なかった時代にインスタントコーヒーとレギュラーコーヒーを一般人で評価して、前者の方が高く評価され、インスタントがいかに優れているかを報告した事例もあった。

 今回の評価結果からすると、三浦ダイコン(本三浦)も同様な論理を適用すれば存在は危うくなる。また、この実験で用いた試料は苦味も偶々強かったのかもしれないし、成分も偶々少なかったのかもしれない。食感についても、やわらかいと見るのか、煮くずれている、とろけそうとみるか、評価者の解釈で評価はまったく違ってくる。人でなくテクスチュロメータで測れば直ちに結論がでるといったものではない。この実験は1cmの厚さでシンプルな味付けで煮たもので、本来の食感のよさを発揮するのは厚く切って長時間煮込み、おでんやふろふきにした場合と思われる。それは今後時間をかけて検討すべき課題である。また、今回はミネラルやアミノ酸に大差はなかったが、ビタミンや機能性成分その他の成分を含めてさらに検討する必要がある。

 この実験でいえることは、大同小異のダイコンが多い中で、一部の人には嫌われても野菜に関心の高い一部の人に高く評価されるダイコンが存在するということである。もし食感や苦味が特徴だとすれば、たとえもっと出来のよい三浦ダイコンで評価しても、普通のダイコンを食べ慣れている人がその特徴を直ちに理解し高く評価することはあり得ない。そのために苦味をなくし、食感を硬くしても普通のダイコンに近づくだけで、他のダイコンにない特徴を付与すれば三浦ダイコンではなくなる。嗜好の形成には時間がかかるが、一度獲得した嗜好は長続きする。大量生産ではなく食べ慣れた人の嗜好を大切にして、その物のよさをさらに追求することが大切と思われる。



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