第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
V ダイコンの官能評価と機器分析
1 ダイコンの嗜好型官能評価
<結果>
4.3つの比較に代表される嗜好の基本構造
 以上3組のダイコンを比較したが、銘柄、産地もさまざまであるダイコンの比較はいくらやってもきりがなく、無限のケースについて有意差検定をしても、ダイコンのよさを一般的に1つの特性に集約して捉えるなどはあり得ない。しかし、嗜好を構造的に見た場合には、ここで評価した事例は、図らずも3つの典型的なタイプを代表しているといえる。

 3組の比較でそれぞれ品質がよりよいとされた度数をまとめて図7に示す。


図7.ダイコンの比較において品質がよいとされた度数

 AとBは差が僅少なものの優劣を問題にする場合である。AとCは明らかに差があるが、評価者の価値観や好みが対立する場合である。AとDは差があり価値観や好みもほぼ一致する場合である。万人に好まれるものを開発するにはAとDのケースがもっとも望ましいが、そういう幸運なケースはやたらに多くはない。

 多くはドングリの背比べで僅少の差を競うAとBのような場合である。この場合に重要なことは、僅差を僅差として見逃さないことである。有意差なし、を積み重ねていくと、初めとはまったく違うものになることを恐れなければならない。いつのまにか栄養成分の薄い野菜に置き換わってしまったという危険は十分考えられるからである。この場合はBのダイコンに劣らないAのダイコンの開発を目指したもので、Bの方が季節的に有利と思われたが、グルタミン酸含量も僅かにAの方が多く、有意差はなかったが、Aの方が僅かに高く評価される傾向を示した。これはAのダイコンにとっては望ましい結果であった。僅差であるから、反対の場合もあるはずである。それには僅かなグルタミン酸や糖も、この程度の差なら無視してもいいと切り捨てるべきではないことを示唆している。

 AとCの違いの決め手は食感と苦味で、Cは野菜についてこだわりのある評価者にとっても意見が分かれたので、食べ慣れない人にとってはさらに苦味や独特の食感も理解しにくいはずである。要するに、従来と違った食感や苦味やエグ味、特徴のある風味などある場合はこのケースが多い。このような場合は多数決原理では優れたものでも脱落の虞がある。このようなものをいかに評価し、優れたものを見抜いて残していくかが重要な課題である。

 AとDにおいては、伝統的な大蔵が多数の人に高く評価され、甘味を強化しなくても、グルタミン酸やその他のアミノ酸、カルシウムなどのミネラルが若干多いことが寄与することが示された。



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